2021.07.10
純情ヤンキーが、男気溢れる執事喫茶の美人オーナーに一目惚れしてお店で働くことに!? ハートフルお仕事コメディ!『お嬢さま、ヤンキー執事でございます』新矢りん【おすすめ漫画】
『お嬢さま、ヤンキー執事でございます』
さて本日は「COMICメテオ」で配信中のこちら、『お嬢さま、ヤンキー執事でございます』を紹介したい。
主人公・烏丸修二はヤンキーである。中学時代にイキがって不良のようなふるまいをしていたら望まぬケンカ沙汰に身を投じる羽目になり、それ以来ずっと地元では実際に不良あつかいされて少数の友人以外からは避けられる境遇に陥ってしまった少年だ。
そんな彼がケンカで怪我を負ってふらついていたところ、とある女性に出会って手当てを施される。荒れた姿の自分にも親身に接してくれる女性にときめく修二。聞けば、連れてこられたお店はカフェで、女性はそこの店長さん。オーナーなのだという。
「たまに来てもいいか?」と望みを口にする修二に対して、オーナーは「いや別にいいんだけど 男の人は入りづらいかも…?」と遠慮がち。
なぜかといえば、そこはいわゆる執事喫茶だから。
男性店員が執事の衣装を身につけ、お客を「お嬢様」「お坊ちゃま」と敬って対応するコスプレ系コンセプトカフェ。なるほど、お店側は歓迎するにしても、お客のほうでは高校生男子ひとりだと世間の一般的にはハードルが高いかもしれない。
しかし! そんなことでは修二に芽生えた恋心の勢いは止められない。
「じゃあ… ここで働かせてくれ!」
えっ、ケンカにあけくれるヤンキーが。執事を? その時オーナーに電流走る。むしろそれは……ありかも……!?
かくして修二のアルバイト雇用が決まってヤンキー執事の誕生となった次第。
慣れない接客仕事、それも礼儀作法が求められるスタイルに四苦八苦する修二だが、ヤンキーならではのワイルドな言動と執事コスチュームのとりあわせは破壊力が高く、たちまち注目株に。
そんな彼をとりまく同僚の執事たちも負けず劣らず要素が強い。王子キャラ執事・あざといキャラ執事・先輩キャラ執事・堅物キャラ執事・メガネキャラ執事……とバラエティ豊かな先輩たちと肩をならべ、オーナーにつりあう男になるべくナンバーワン店員を目指して奮闘する修二なのだった。がんばれヤンキー執事!
というわけで、執事喫茶を舞台としたハートフルお仕事コメディになっている。
ヤンキー執事! なんともワクワクする響きではないだろうか。
反骨と無軌道に生きるヤンキー概念と、折り目正しい秩序をなりわいとする執事概念の組み合わせ。一見して水と油のようだが、対極のギャップだからこその魅力をかもしだす。女の子だったらギャル風紀委員長みたいな……(実際あるんですよ)。
お仕事マンガとしてはコンセプトカフェという舞台の性質上、そのコンセプトである執事はどういうものかという描写と、現実の職場としての執事喫茶がどういう空間かという描写が同時に織り込まれている二重の豆知識感が見どころ。
ここで興味深いのが、もともとヤンキーのほうも修二にとって「そうふるまっていたら、そうなった」属性である点だ。人間だれしも、何らかの社会属性を身体に刻み込まれて生まれてくるわけではない。行動がその人は何者であるかを作り、またその行動をみた周囲の人間からのあつかわれかたで何者かとしてさらに定められる。逆に言えば、それは人が別の何者かに変わったり、属性を追加したりすることだってできるという道理でもある。
だからこの場合、「ヤンキー」と「執事」は対極である一方、「〜になる」ものとして同じでもある。
修二は不良を気取ったことで地元の人々からヤンキーあつかいされ、ヤンキーとしての立場を固定された。そのように、執事店員としてがんばろうと決めた修二に接する同僚たちやお客さんたちが、彼を“それ”にするのだ。
そういうわけで、私たち読者もまた主人公のことを作品が掲げるヤンキー執事として大いに愛でて、そのキャラの確立に寄与することにしよう。
©新矢りん/フレックスコミックス