2021.07.20

初恋の女性と偶然の再会──けれど彼女は「ふつうの幸せ」をもうすぐ手に入れるところで……? 切ない大人百合『かけおちガール』ばったん【おすすめ漫画】

『かけおちガール』

姉の友人』などで話題となったばったん先生の「伝説の名作」(単行本の帯より)という本作。かつて電子書籍限定で配信されたものが、装いも新たに紙書籍版として刊行をスタートしています。

私はそうした前知識を持たずに書店で本作を目にし、純白のドレスをまとったふたりの女性が見つめ合う表紙に見惚れて手に取ったのですが、上記の文言に違わぬ素敵な作品だったので、ご紹介いたします。

女子高時代、女の子同士で付き合っていた“牧村もも”と“大西みどり”。ももは、そんな幸せな日々がずっと続くと思っていました。しかし卒業の日、「どっちが先に彼氏できるか勝負しよっ!」「おんなどうしなんて、いつまでも夢見てらんないじゃん?」などの言葉を残して、みどりはもものもとから去ってしまいます。そんなみどりへの想いを、ももは10年経って28歳になった現在でも引きずっていたのでした。

そんなみどりと偶然再会してしまったものだから、ももの心は再びかき乱されます。学生時代と変わらない天真爛漫さをみせるみどりに、浮き足立つもも。しかしそれを知ってか知らずか、みどりはももに対して、彼女の期待を打ち砕くような“あること”を告げるのです。

みどりが幸せであるならと、本当の気持ちを圧し殺すもも。けれど、彼女のいまの生活を知るほど、「本当にみどりちゃんは幸せなの?」という疑問が大きくなっていきます。

1巻の後半では、もも以外の視点でも物語が展開。ももの視点で見ると“ズルい女”に思えるみどりも、いろいろな葛藤を抱えていることが明らかになります。一方で、そんなみどりを苦しめているように思える人物もまた、(同情の余地はあまりないにせよ)いまの人格を形成する上で、ちょっと可哀想な出来事があったりして……。

そこまで読むと、本作がさまざまな意味で何かに「囚われている」人たちの物語であることが分かります。ももは「みどりへの初恋」に。みどりは「ふつうの幸せ」に。そして主軸としてはこのふたりの繋がりを描いているものの、それ以外にも消えない傷や後悔を抱え、そのせいでうまく生きて行けない人たちの苦しみもまた、克明に描かれてゆくのです。

そうした葛藤が描かれるからこそ、何物にも「囚われることなく」お互いへの好意を示し合えたももとみどりのかつての関係が、現在の彼女たちにとっても眩しいものとして映っていることがよく分かります。そして手を伸ばせば、そんな何者にも「囚われない」関係は、いまからでも取り戻すことができるかもしれないことも……。

電子版では全4巻で完結している本作ですが、紙書籍版は新たに描き下ろしの番外編エピソードも収録し、全3巻で刊行されるとのこと。私はせっかくなので、紙書籍のほうで最後まで見届けようと思います。9月13日の発売が決まっているという、2巻の展開がたのしみです。

この記事を書いた人

小林 白菜

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