2021.10.13
私の幼なじみになってください!! オタク文化的幼なじみ像に染まった中学生女子の幼なじみロールプレイ『今日から始める幼なじみ』帯屋ミドリ【おすすめ漫画】
『今日から始める幼なじみ』
私の幼なじみになってください!! オタク文化的幼なじみ像に染まった中学生女子の幼なじみロールプレイ
神岸あかり、めんま、田村麻奈実、椎名まゆり、篠ノ之箒、澤村・スペンサー・英梨々、ウィンリィ・ロックベル、浅倉南……といえば、幼なじみである。ジャパニーズオタクカルチャーにおいて、幼なじみは一際輝く扱いの属性のひとつ。ただし「ツンデレ」や「メガネっ娘」と違い、後からはどう頑張ってもなれない、という部分において致命的だ。
それをひっくり返そうとする無茶を働くのがこの作品。幼なじみじゃないのなら、幼なじみになればいいという発想、実にコペルニクス的転回。
中学生の少年・相田航平(あいだ・こうへい)の隣の家に引っ越してきた、同じクラスの少女・柚木楓(ゆずき・かえで)。楓は三白眼で少し無口めで、何を考えているか読めない女の子。彼女は航平に、放課後告白する。
「幼なじみになってください!!」
どうも彼女の家庭は転勤族で、幼なじみがいなかったらしい。人見知りなので家で漫画やアニメを見ていたところ、描かれている幼なじみ関係に強く憧れたようだ。そこで航平というレアな距離の少年を見つけたものだから、スイッチが入った。
「だって同じ学年で 席も隣で家も隣で お互いの部屋も窓から出入りできる位置なんだよ!? そんなのもう幼なじみだもん!!」
かくして航平と楓は幼なじみじゃないけど幼なじみになった。楓の幼なじみ知識は漫画・アニメのものなので、当然偏りがある。幼なじみだから下の名前で呼ぶだろう。幼なじみなら朝寝坊して起こしに行くだろう。幼なじみなら部屋の窓越しに話をするだろう。もっとも現実的には家の間の幅は広いので、部屋越しに行き来するのはだいぶ危ない。
でも思ったほど幼なじみにならない部分も含めて挑戦するのが、楓は楽しいようだ。
ロールプレイ幼なじみの内容は漫画・アニメからのもの、となると必然的に「性の壁を越えた仲の良さ」での接触がピックアップされることになる。確かに幼児期から一緒にいたら下の名前呼びでも恥ずかしくないだろう。しかし実質的には幼なじみじゃない状態で下の名前を呼び合うのは、ものすごくハードルが高い。
ここに羞恥が生まれた瞬間に、お互いの中で男女の性を感じてとっさにブレーキを踏んでしまうのが、ニヤニヤポイント。
「幼なじみは一緒に勉強をするもの」という思い込みで、楓が航平と一緒に放課後の教室で机をくっつけるシーンがある。それを同じクラスの女の子・夏目が発見。
付き合っているんだと勘違いして「どうぞごゆっくりー」なんて言うのも仕方ないし、航平も勘付く。しかし楓はそこがわからず「幼なじみになったってバレたかも…」と焦る。彼女の価値観だと友達とか恋人という概念すらないようだ。
なのに、間接キスにはアタフタし、手を繋ぐと顔を真赤にする。果たして楓に恋の概念が生まれる日が来るのか。
できれば当分は意地を張って幼なじみRPGを続けてほしい。だってオタクカルチャーの幼なじみは色んなバリエーションがあるのだから。片っ端から幼なじみっぽいことを試して、ふたりで照れまくっていただきたい。
©帯屋ミドリ/新潮社