2018.03.01

【日替わりレビュー:木曜日】『歯のマンガ』 カトちゃんの花嫁

『歯のマンガ』

歯のマンガ

生まれて初めて、「歯になりたい」と思った。

マンガのキャラクターに恋をしたことは数え切れないほどある。でも、自分がそのキャラクターになりたい、と思ったことは一度もなかった。

一度もなかった私が、生まれて初めてマンガを読んでそのキャラクターになりたい、と思った。

「歯になりたい」と思った。

歯といっても、単なる歯ではない。

カトちゃんの花嫁さんが描く『歯のマンガ』に出てくる「歯」だ。

決して、歯の磨き方とか、歯の成分とか、そういう歯の知識が増えるマンガではない。表紙が絵本っぽいし、もしかしたら教育系のマンガだと思って手にとった親御さんとかいるかもしれない。だとしたら、その子どもの未来がちょっと心配だ。

『歯のマンガ』は、ある日突然、主人公の歯が二本抜けて、その二本の歯と暮らし始める、日常系マンガである。

絵は、ヘタウマというか、一見雑に見えるが、ちゃんと伝わるのがすごい。コマの線引きも、ほとんどがフリーハンドで描いているだろ、という感じのガタガタ具合なのだが、なんだかむしろ、それが良い。

「人生つらくてもサンバ つらくなくてもサンバ」と踊り狂う歯を見ながら、ただただ、「私もこんな感じで生きたいな」と思った。私も三本目の歯として抜け落ちて、一緒にサンバを踊りたい。「おまえ〜」と言いながら頬をすり合わせたい。タニマチさんに奢られたい。

疲れていても読める、むしろ疲れた心に効く。仕事で疲れたときに読んで、「人間やめたい。歯になりたい」と思ってしまった私が勧める、今日の一冊である。

この記事を書いた人

園田 もなか

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