2018.03.27
【日替わりレビュー:火曜日】『BEASTARS』板垣巴留
『BEASTARS』
肉食獣と草食獣が共存する社会。チェリートン学園の演劇部員であるテムが何者かに食殺される事件が発生した。その事件をきっかけにして、不器用で人付き合いが苦手なハイイロオオカミのレゴシが、様々な獣たちと交流していくことになる。
いきなりで恐縮ですが、『週刊少年チャンピオン』で連載が始まったとき、ピンと来ませんでした! ごめんなさい! 何を考えているかわからない不気味なレゴシの優しさが見えた最初のエピソード。今読み返すとしみじみするんですけど、当時は「ん~地味だなあ」と。
ところがお話が進んでいくに連れて、どんどん面白く感じていきました。自分の経験的にいうとアニメの『けものフレンズ』パターンです。
肉食動物が草食動物を捕食したいというのは、本能であり欲望。レゴシは、ドワーフウサギのハルに抱く恋心が、恋愛ではなく狩猟本能じゃないかと苦悩するくだりからグッとのめり込みました。
例えば、若い頃の恋愛は純愛じゃなくて性欲じゃないかと悩んだりする内面的な葛藤を、動物のコミュニティに沿って描くとこうなるのかと、新たな角度で見せられて新鮮です。
裏市という草食動物の肉が手に入る無法地域を知って、社会の表と裏に憤りを感じるレゴシの青臭さ。青春小説の普遍的なテーマとしても、豊かな感受性を感じさせます。
とはいえ小難しい内容ではなく、しっかりエンターテインメントしていてとっつきやすいのも○。
アカシカのルイが服を乾かす時に衣服を自分の角に引っ掛けたい、サイは視野角が広いから、自分の角をずっと見えている守護霊だと勘違いするという話が出てきたり。動物の身体的特徴や生態が、人間社会ではこうなるという空想のif描写が笑えます。
今、自分の中で熱いのがジャイアントパンダのゴウヒン。狩猟本能を抑えられない肉食獣を矯正している医者で、超マッチョ。レゴシを気にかけているうちに師弟となっていく二人の関係が心地よく、続きが気になって仕方ありません。
©板垣巴留/秋田書店