2018.04.01
【日替わりレビュー:日曜日】『台所のドラゴン』みよしふるまち, 縞田理理
『台所のドラゴン』
タイトルからは、料理マンガか異世界転生なファンタジー世界が一瞬思い浮かびそうですが、本作の舞台は1980年代の東欧で、特に料理がメインに置かれた作品というわけではありません。
悩みながらも美術の道を歩む、主人公の日本人留学生・のの。町から少し離れた一軒家にひとり住む彼女は、ご近所さんに支えられながらも絵の勉強をしていました。そんなある日、家の中に何者かが産み落としたのか、卵が転がっているのを見つけます。翌日起きてみると、卵から孵った、鳥でもなくトカゲでもなさそうな生き物が。この日からののと新しい同居人の、奇妙だけど優しい生活がはじまって……、というのが本作のストーリー。
元々は原作の縞田理理先生が25年以上前に「S-Fマガジン」(早川書房)への投稿作として書かれていた、原稿用紙5枚ほどのショートショートが土台となっています(pixiv文芸にも公開されています)。
この原作小説では、登場人物は主人公「秋子さん」とトカゲちゃん(ドラゴン)のみ。留守がちな夫との慣れない外国暮らし孤独を抱える秋子さんと、親のない小さな仔ドラゴンの出会いと成長のストーリーが日記形式で書かれたものでした。
マンガ化するに当たって、登場人物やストーリーも大きくリライトされましたが、縞田先生曰く、「契約でも利害でもなく、ただ思いやりと無償の愛だけで結ばれた優しい関係を描いており、外側は変わっても内側にある芯の部分は変わっていない」とのこと。
このお言葉の通り、マンガでも描かれるのは、「とかげちゃん」ことドラゴンと、主人公・ののが繰り広げる、双方への思いやりで満ちた優しく温かな世界。
劇中では、森に住む鳥たちから「とかげちゃん」が特別視されているような描写があるため、今後とかげちゃんが成長していくにつれ、ドラマティックな展開も用意されているのかもしれません。しかし、基本的には何かしら悪と戦ったり、人を食い殺す!みたいなダークな表現はなさそうなので、ゆっくり安心してほっこりハートウォーミングなドラゴンと人との交流を楽しむことができる作品です。
ぜひ、犬やネコとはまた違った愛らしさを持つ「ドラゴン」の魅力に癒やされてみてください。
©みよしふるまち,縞田理理/KADOKAWA