2018.04.19
【日替わりレビュー:木曜日】『幸子、生きてます』 柘植文
『幸子、生きてます』
結婚しない人生もありじゃない?と思えてくる
アラサー・独身・婚活中……言葉だけ並べると、どこかギスギスとした苛立ちや焦りのようなものを感じてしまう。それは、世の中の婚活ビジネスやメディアの報じ方にもひとつの問題があるのだろう。さも結婚していないことが不幸だというかのような過剰な煽り。結婚をすることが幸せなゴールだとしてしまえば、独身の人たちは今この時も幸せではない、ということになってしまう。
『幸子、生きてます』の主人公・金子幸子は、33歳独身で市役所勤務で婚活中の地味な女性だ。婚活パーティーで出会った男性に買わされた欠陥マンションに住んでいる。時折過去の回想で現れる元彼は、理不尽にキレたり幸子にお金を出させるのが当然のダメ男たち。新たな恋のお相手は現れそうもなく、同い年の独身の友達と居酒屋でグダグダと飲むばかり。
そんな不幸っぽい要素ばかり詰め込まれているのに、この作品にはどこにも苛立ちや不安、焦りなどが見当たらない。というか、むしろ幸子の日々の生活がすごく幸せそうに思えてくる。幸子の独特な価値観や、周囲の声に流されず我が道をいく姿は、作者の前作『野田ともうします』の野田さんを彷彿とさせる。
日常系のギャグマンガと思いきや、市役所の3階から落ちたり、人がうつっているポスターを見ると目に画鋲を刺したくなる男に惚れたり、どこかつかみどころのないシュールテイストなギャグマンガである。
欠陥住宅の床のかたむきを利用してお団子を丸める幸子の姿を見ながら、その発想があるなら人生何があっても(結婚してもしなくても)ずっと幸せだわ、と思う。クスッと笑える上に、なんだか地味な人生も愛おしいじゃんと思えてくる作品だ。
©柘植文/講談社