2018.05.29
【日替わりレビュー:火曜日】『ブキミの谷のロボ子さん』伊咲ウタ
『ブキミの谷のロボ子さん』
人とうまく接することができず、一人の人生を過ごしてきた28歳自由業の上小杉惣介。そんな彼のもとに現れたアンドロイドは、「人間とはなにか」と問う。人のクズと呼ばれた男とアンドロイドの少女が、人間とは何かを探る、迷惑で奇妙な同居生活スタート!
主人公の上小杉は他人の感情が汲み取れず、デイトレーダーで生計を立てている、対人関係をシャットアウトした青年。
そんな上小杉のもとに、人のキモチを知るために送られてきた美少女アンドロイドの、ロボ子。「ある日突然、美少女が押しかけてくる」展開だったら、普通はこのまま同居生活に入るはず。
……なんですけど、まずこの主人公、追い出そうとします。ちょ!
見た目は美少女なのに、ドキドキもなければ、愛着も、興味すら持たずに邪険に扱う、上小杉のクズっぷりがむしろ清々しい。アンドロイドの名前も「ロボ子」って……適当にも程がある雑な名付けですこと! しかし1巻を読み終わってみると、もうすでにしっくり馴染んでいるから不思議です。
そんなロボ子さん。「視界に入るな!」と言われれば上小杉の後ろにピッタリと張り付き、SNSで告白されたらOKを即答。毎回キレながらツッコミをいれる上小杉。スラップスティックなコントに大笑いしてしまいます。
超シリアスなシーンで、腕がポロッと取れたりしますからね。It’s a ロボ子ジョーク。でもいたって本人は大真面目。そのズレがおかしさを醸し出しています。
オールドマンガ読みとしては、『究極超人あ〜る』の再来とも言える、オトボケなアンドロイドの系譜なんですよ、ロボ子って。
ロボ子もロボ子ですけど、上小杉も人としての「普通」の感覚を持ち合わせていない人物。ロボ子に洋服を試着させても、何がいいのかさっぱり手応えがないという4話に、それが如実に現れています。
ロボ子も可愛い衣装を着せられてテンションが上がるわけでもなく、徒労感だけが残ってしまう結果に。マイナスxマイナスはプラス。ボケとボケの組み合わせが破壊力を持った、面白シーンになってます。
コメディばかりではありません。時折見せる上小杉のディスコミュニケーションが心に刺さります。遠慮のないロボ子のズケズケした物言いが、上小杉を救う一言になる1巻のクライマックスには胸が熱くなりました。
ロボット(アンドロイド)を描くことがヒューマンドラマに繋がっている、逆説的な構造がなんともユニークな作品になっています。
「アキバBlog」さんでは、著者インタビューも実施しています。こちらも合わせてどうぞ。
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※本稿掲載に当たって、『月刊コミック電撃大王』編集部より、画像使用許諾を得ています。
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