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2018.06.01

【日替わりレビュー:金曜日】『恋愛ジャック ーエゴイスティックに恋をするイキモノ』武藤啓

『恋愛ジャック』

性別不問の倒錯学園ラブコメディ『っていうか恋じゃね?』武藤啓先生の新連載、『恋愛ジャック』の単行本第1巻が発売されました。
前作の表紙はその内容もあって非常にポップなデザインとなっていたのですが、新作はどこか危険な香り漂う大人な装丁

「エゴイスティックに恋をするイキモノ」

というサブタイトルもなかなか攻撃的で、タイトル・表紙と相まって、いかにもエロ系のティーンズラブ作品とかにありそうな雰囲気を醸し出しています。

で、実際中身はどうなんだって話なんですが、その第一印象とは異なり、思ったよりもいい意味で”おとなしめ”な恋愛が繰り広げられていました。

長い長い片想い

まず表紙に描かれているヒロイン・朝陽なんですけれど、ぱっと見OLっぽいものの、実は女子高生です。しかも遊びまくってるとか経験豊富とか、全然そんなんじゃありません。
むしろ男子とお付き合いした経験なんてゼロの、ガッチガチの処女だったりします。さらに言うなら、めちゃめちゃピュア。確かに化粧バッチリ、色気を漂わせるスタイルでいるのですが、それもこれも、想いを寄せる男の人に振り向いてほしいから。

その相手というのが、表紙にも描かれている男性・。年齢は朝陽の11コ上で、美容室の店長をしています。朝陽は幾度となく彼にアタックをしているのですが、全く相手にしてもらえません。その障壁は年齢……だけではなく、実は朝陽の姉の元旦那という「元身内だから」という大きなハードルが。
湊が姉と結婚する前、まだ朝陽が小学生の時から、彼のことを好きでいたので、かなり長い片想いと言えるでしょう。

思わせぶりなタイトルとは裏腹にその実描かれているのは、幼い頃からずっと育て続けてきた望み薄な恋に、諦めることなく食い下がり続けるという、切なくピュアで、往生際の悪い片恋物語なのです。

エゴイスティックなピュアさ

会うために、毎週彼の美容室に通うし、行ったならば車で送ってもらおうと甘えるし、とにかく「好きだ」という気持ちを伝えまくる朝陽。けれども完全に望みを絶たれるのは怖いので、彼の本音が引き出されないギリギリのところで引き返す臆病さも持ち合わせるのが可愛いところ。

散々フラレているのですが、打たれ強くなっているワケではなく、ちょっとしたことで結構泣いたりするのもまたピュアっぷりを際立たせます。

一方の湊はというと、その本心がとにかく読めない。あしらい方を見ていると全く相手にしていない感じがするのですが、彼女のいないところでは気にかけているような素振りを見せるあたり。もしかしたらワンチャンあるのかもしれないとすら思えてきます。

良い噛ませ犬、あります

そんな2人の間に割って入るのが、朝陽と小学生の時から一緒の幼なじみ・鳴海。やたらと朝陽に突っかかってくるのですが、それはわかりやすく愛情の裏返しってやつで、彼もまた彼女に長い片想いをしています。

オレ様風に見せて、結構細かく朝陽のことをフォローするイイヤツという印象で、「あ、これは良い噛ませ犬になる」と確信させてくれるぐらいには魅力的なキャラクターなんですよ。
恋のライバルとなる湊と面識は無いものの、湊と同じ美容師を目指しているというところも、噛ませ犬的に高ポイント。

1巻だけの印象からすれば彼と付き合った方が明らかに幸せになれそうなのですが、片や姉に想い人を取られ、片や美容師という土俵に立った時に店長と素人という、負けた者同士でくっつくみたいな感じになってしまうので、それは無いのかなぁ、という。

ただ湊は湊で、この朝陽の重すぎる愛を受け止めるに足るほどのキャラクターには今時点で見えず、一体全体どうなることやらという感じ。その先の見えない、どう転んでもおかしくない展開含めて、本作の面白さなのであると、強引にまとめてみます。

タイトル・表紙でなんとなく敬遠してしまいそうな人がいそうですが、多少淫靡な雰囲気はまといつつも、意外とピュアで切ない片恋物語となっていますので、騙されたと思って一度手にとってみて欲しい一冊です。

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この記事を書いた人

いづき

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