2018.06.07
【日替わりレビュー:木曜日】『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理
『メタモルフォーゼの縁側』
BLがつなぐ、老女と女子高生の絆
いくつになっても、何かにハマる瞬間は世界が輝いて見えるし、それを語り合える友人と出会ったときの喜びは計り知れない。
75歳の老女が、夏の日差しの中気まぐれに入った本屋。なんとなく表紙に惹かれて、よくわからないままに購入したのはBLマンガ。店員が戸惑う姿にも気づかず家に持ち帰り、夜布団の中で一人読みながら、小さな驚きとともに頬をそめる。
「コミックNewtype」で連載中の作品『縁側のメタモルフォーゼ』の第1巻が先日単行本化した。夫に先立たれた一人の老婦人・市野井雪は偶然出会ったBL作品を、1巻ずつ買いながら話をするうちに、女子高生のバイト書店員、佐山うららと仲を深めていく。
うららは、学校では趣味の友達がおらず、孤独にBLを楽しむ腐女子であった。クラスメイトがオタク話で盛り上がっているところに気軽に入っていけない。私事で恐縮だが、私も中高時代は孤独なオタクとして趣味を楽しんでいたので、この寂しさは他人事じゃなく共感してしまった。楽しみにしていた新刊がどれだけ面白くて興奮しても、話す相手がいない。
井雪は、自宅で書道の教室をしており、子供や老人に囲まれる明るい日常を過ごしているように見えるが、夜になると一人。亡き夫の仏壇に手を合わせながら、今日あったことを話す夜が続く。
そんな、それぞれの孤独を抱えた二人が、ひとつの共通の趣味によって出会った。BLというモチーフからイロモノっぽい印象を受けることもあるかもしれないが、ここに描かれているのは、友達ができることで癒える孤独と、喜びの時間だ。
といいつつ、BLを通して出会ったことも、物語の中では大きく作用している。
井雪がハマったそのジャンルは、週刊誌で連載している作品のように隔月でコミックが出るものではない。好きになった作品が1年半ペースで新刊が出ることを知った彼女は、「だいたい85くらいで死ぬとして」「あと6巻分ってことかあ〜」と計算する。
何かの作品にハマったときに、「次の新刊が出るまでは死ねない」とか言うことはあるけど、重みが違う。彼女は残りの人生を逆算しながら、「やっぱり90までがんばります」と仏壇に頭を下げる。重みが違いすぎる。
この作品には、井雪の思い出の喫茶店が閉店していたり、身の詰まっているかぼちゃに包丁を入れることすら難儀したり、ごく自然に「死」の空気が描かれている。
それは決してお涙ちょうだい的な描かれ方ではない。むしろ死というのは(私も含めて、万人にとって)当然のように身近であるのだ、ということを思い出させてくれた上で、だからこそ今この瞬間が奇跡的なのだ、と喜びが一層増すように感じられる、絶妙な塩梅。
嬉しくて、切ない。この瞬間がずっと続けばいいのに、と思いながらページをめくる。とりあえず、この作品が完結するまでは死ねないな。
©鶴谷香央理/KADOKAWA