2018.06.12
【日替わりレビュー:火曜日】『貞操逆転世界』万太郎, 天原
『貞操逆転世界』
主人公の市川(女性)は、2週間入院している間に、世界の常識に違和感を感じるようになる。
男子校に女性が侵入して逮捕されるニュースが報道されたり、クラスメイトの女子二人が男を見ながら猥談を繰り広げていたり……男女の貞操観念が逆転した世界へようこそ!
つまりこの世界では女性はオープンに性欲を語ります。授業中に女子が「リアル交尾したーい!!」と叫び、男子は「あーもう女子ってサイテーだな」と赤面するんです。
ビル一面に貼られたビールの広告ポスターには、パンツ一丁のもっこり筋肉男が写されていて違和感を感じる市川。でもこっちの世界でも、ビールのCMで水着の美女モデルって、別に意味ないんじゃない?って気づいてしまう。
異常な世界を描くことで、自分の世界の当たり前を疑う構造になっていて面白い。
お気に入りは6話。スケベ魔神のあだ名を持つ川島(※女性です)が、エロ本を買いに行く話。学年人気ヒロインの雨宮もこっそりエロ本を買いに来ていて、本屋でばったり遭遇してしまう。
こちらの世界に置き換えると、女子にモテようとカッコつけているイケメン男子が、人知れずエロ本を買うところを猥談好きな悪ガキに見つかってしまったという構図。
いったん頭の中で男女を入れ替えてから想像して、元に戻ってもう一回マンガを読み返す。頭の中で翻訳してから読み返すので時間がかかります。ですが、その行為が独特の読み味になっていて、オンリーワンの魅力に繋がっています。
先週紹介した『藤子・F・不二雄SF短編 PERFECT版』で語った「価値観の反転」を、貞操観念で描いてみせた意欲作。
すべてのページがシモネタですけど、壮大なSF思考実験としてもユニークで注目すべきマンガになっています。
©万太郎,天原/キルタイムコミュニケーション