2018.06.14

【日替わりレビュー:木曜日】『愛と呪い』ふみふみこ

『愛と呪い』

「呪い」とわかっていても逃げられない

「呪い」と聞いて思い出すのは、最近実写ドラマ化でも大ヒットしたマンガ『逃げるは恥だが役に立つ』で高齢処女の百合が放ったセリフだ。歳下の女性から、年齢に関する嫌味を言われたときに、彼女は「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまいなさい。」と返す。

「女性にとって若さこそ価値だ」という呪いにがんじがらめになっていると、いずれくる自分の老いに苦しんでしまう。このセリフはドラマでも百合を演じる石田ゆりこが清々しく言い放ち、ネットでも大いに話題になっていた。それだけ、「呪い」に心当たりがある人が多かったのだろう。

しかし、その「呪い」からさっさと逃げたくても、簡単に逃げることができなかったら、どうすればいいのだろう。

先日発売された、ふみふみこ先生の最新作『愛と呪い』は、そんな圧倒的な閉塞感のある呪いから始まる物語だ。

時代は1990年台。主人公の愛子は、物心がついた頃から父親に性的虐待を受けていた。朝、布団の中で性器を触られる。お風呂も一緒に密着して入る。生理がくるようになり、次第にその状況が異常であることに気づき始めるが、父親は止める気配もない。抵抗しても、押さえつけて体をなめてくる。

その状況が輪をかけて異常なのは、そんな父親の性的虐待を笑いながら見過ごす母親である。彼女の一家は祖母を始めとして宗教に熱心であった。教祖が運営している学校に、片道2時間かけて通う。友達の家に遊び行くことは禁止され、約束を破ると母親から殴られる。

家族も友達も宗教も彼女を救うことはなかった。

物語の中では、阪神淡路大震災酒鬼薔薇事件などが物語のキーとなる形と描かれ、愛子とともに読者はあの時代を生きているような感覚を味わうだろう(私自身は91年生まれなので、正直当時の記憶は薄い。それでも作者の記憶と結びついた形で描かれるストーリーは驚くほどリアルに迫ってくる)。

半自伝的に描かれるこの物語は、あまりに壮絶だ。その状況がおかしいとわかっているのに、逃げられない。壊してしまいたいと思っていながら、自分の心が先に壊れてしまいそうな異常な状態。そんな中でも、彼女は何かを諦めたり希望を抱いたり絶望したりしながら、生きている。

被害者の物語というよりは、あの凄惨な事件の加害者にもなりうる精神性を自分の中にもっていたという描かれ方をしているのが、この作品が大きなインパクトをもっている理由のひとつだろう。世界を壊したい、壊してほしい、そう願っていた少女がこれからどう生きていくのか、最後まで見届けたい。

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この記事を書いた人

園田 もなか

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