2018.06.15

【日替わりレビュー:金曜日】『町田くんの世界』安藤ゆき

『町田くんの世界』

安藤ゆき先生の『町田くんの世界』が、7巻で完結を迎えました。
同時に映画化も決定とのことで、めでたいですね。

このお話は、タイトルからも分かる通り、とある男子高校生の町田くんが主人公。そう、表紙に描かれている、冴えないメガネの男の子です。
短編集が話題を集めたと言えど、この男の子をメインキャラに持ってくる安藤ゆき先生の勇気よ。そしてそれを受け入れてしまう、「別冊マーガレット」の心の広さよ。そして、それを映画化しようと決断した配給会社のセンスよ。

ちなみに町田くん、こんな見た目ですが勉強が出来るわけではありません。かといって運動が出来るわけでもありません。
年下の弟妹がたくさんいるので、料理を率先して手伝いますが、レパートリーは少なく、そしてそこまで美味しくもないという、松本伊代的な一面も。要するに、これと言った特長が無いことが特徴というような、没個性的すぎる男の子です。

けれども彼は、家族からも、友達からも、ご近所さんからも大人気。なんなら、風早くんにも負けず劣らずなぐらい、老若男女幅広い世代から指示を集めているのです。

なぜか。それは、彼が無償の愛を無意識のうちに配りまくる、生粋の人たらしだから。
困っている人がいたら必ず手を差し伸べてあげるし、かける言葉はいつだって本質を捉えていて救いがある。誰かを悪く言うことは決してありません。とにかく人間力が凄まじいのです。徳を積んだ人って、こういう感じなんだろうな、という。

さて、そんな町田くんの日常を描いた本作。基本的にはヒューマンドラマがメインとなっており、様々登場する困ったことを抱えた人を、ひょんなことから町田くんが助けていくという展開。町田くんがすごいのは、自分の力によって解決に導いていくのではなく、対話と協力によって解決への糸口を見出していくところ。
世代や立場関係なく、色々な人が救われていく様子は見どころたっぷりなのですよ。とはいえ、さすがに少女マンガで『人間交差点』をやり続けるわけにもいかないので、ラヴい要素もちゃんと落とし込まれています。

ヒロインとして登場するのが、クールビューティなクラスメイトの猪原さん。過去の出来事から心に傷を負っており、そこから人を遠ざけ、一匹狼を貫く女の子。
偶然、町田くんの怪我を手当したことをきっかけに二人は話をするようになるのですが、町田くんの人間力によって、それまで捨て犬のようだった猪原さんの態度が、あっという間に軟化して、気がつけば好きにまでなっているという。その移り変わりが可愛らしすぎて、めちゃくちゃニヤニヤ出来るんです。

不良娘が恋する乙女になってるあの感じ。変にツンとしちゃってるから、好意を素直に伝えられないあの感じ。町田くんは誰にでも優しいから、自分だけが特別扱いでないことも当然わかってしまうため、自信が持てずに落ち込むあの感じ。そういうのがお好きな方なら、猪原さんどストライクだと思います。

さて、ここからは7巻のお話。これまでどちらかというと与える側であった町田くん。珍しく一人思い悩むのですが、そんな彼に、周りの人間達は頼もしい助言を与えてくれるんですよね。
自分が助けるばかりでなく、ときに助けてくれる、持ちつ持たれつ、与え合う世界。「町田くんの世界」っていうのは、一方通行なんかじゃなく、与えればちゃんと返ってくる、めぐりめぐって繋がっている、そんな素敵な世界なのだなと、妙に納得させられたシーンでした。

最後はこれまで控えめだった恋愛要素も強まりつつ、とても幸せなラストで大団円
これといった派手さは無くとも、ドッキドキするようなロマンスは無くとも、涙が止まらなくなるような切なさは無くとも、『町田くんの世界』は紛れもなく、自分にとってかけがえのない作品の一つでした。

素敵なお話を、ありがとうございました!

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いづき

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