2018.06.24
【日替わりレビュー:日曜日】『バララッシュ』福島聡
『バララッシュ』
これまでにも『少年少女』や『機動旅団八福神』、『星屑ニーナ』などSF/ファンタジー作品を中心に、人の持つ感情の機微を巧みに描いてきた福島聡先生による、熱血青春マンガ『バララッシュ』。
今回の作品では、アニメ業界で演出と作画、それぞれの道を歩もうとする若者2人の姿を描いており、元々はご自身もアニメーションの仕事を志していたという先生だからこその、時代背景や当時の空気感をリアルに切り取ったであろう物語となっています。(ちなみに、「バララッシュ」とは、業界ならではの造語。カット全部は未完の状態で、出来ている一部のカットをバラバラに映像で見て出来を確認すること、のようです。)
1987年、地方都市の平凡な男子高校生だった山口は宇部と出会う。共通点はテレビアニメ。地方で暮らすアニメ好きの青年にとって、共通の話ができる友人はかけがえのないものになった。深夜に待ち合わせて『王立宇宙軍 オネアミスの翼』封切のために並んだり、放課後に「『風の谷のナウシカ』鑑賞会」をしたり……いつしかふたりはプロのアニメーターへの道を進み始める。(公式あらすじより抜粋)
導入の第1話ではまず、宇部と山口が大人になり作画監督と監督を務めた、初のオリジナル長編アニメが成功を収めている様子からスタート。
正に長年の親友という関係性がしっくりくるような、気心の知れた2人のかけあいが描かれた後、この仲良し2人が成功するまでの軌跡が山口側の視点に比重を置かれた上で、高校生時代から回想されていきます。
作品としての立て付けとしては島本和彦先生の『アオイホノオ』と近しいものはありますが、本作はそれよりもコメディタッチは少し控えつつ、主人公2人の熱い友情にフォーカスが当てられ、より青春感が際立つ作りです。
それを表すのが、「凡人」山口と「天才」宇部の関係性なのです。
宇部はそのぬぼっとした天然な性格のために、クラスでは浮いていていじめられる寸前。逆に山口は、クラスメイトとはそつない関係をうまく繕いながらも、こっそりと好きだったアニメへの情熱を燻らせている日々。
そんな中で宇部の絵の才能に気づいた山口は、彼を自分が好きなアニメの世界へと一気に引き込み、最初はちぐはぐながらも、段々と共通の話題をともにするお互いにとってかけがえのない友達になります。
はじめ山口は、宇部を引っ張り上げた、というような優越感が少しありましたが、しかし宇部が本気でアニメーターになると言い始めてからは、山口は焦り始めます。
なぜなら宇部は、見学に行った東京のアニメスタジオのクリエイター達にも、その才能を認められるほどの本当の天才だったから。それに対し、自分はこれといった才能もなく、あるのは誰よりも(おそらく)アニメが好きだという気持ちの部分だけ。
「天才」を目の当たりにして、嫉妬やもどかしさを感じながらも、山口はどのように自分の道を切り開いていくのか──という様子が、若さや蒼さを全面に出しながら表現されていて、青春濃度が高いのです。
また、当時の時代背景の切り取り方もとても鮮やか。『ALWAYS 3丁目の夕日』的とするとちょっと言い過ぎかもしれませんが、ネットなんてない時代ならではのかけがえのない体験の様子で満ちています。
映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を封切り日に誰よりも早く見たいがために徹夜で並んでいる様なんて、このなんでもある現代とは違った、他に代えがたい体験だったのだろうな、と羨ましさを感じてしまうほど。良い時代だったんだろうなあ…と。
私個人としては、日本のアニメ産業の黎明期である80年代をリアルに生きてきた世代ではないため、より一層この感覚があるように思えます。
さて、まず1巻では、山口が自身の「凡人」さに気づき、宇部の「天才」さに焦る、序章となりました。今後は「凡人」がどうやって「天才」と渡り歩いていくのかという、試行錯誤の様子が描かれていくことかと思います。
まだ1巻が発売されたばかりの新しいタイトルなので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。
©福島聡/KADOKAWA