2018.06.30

【日替わりレビュー:土曜日】『社畜と幽霊』日日ねるこ

『社畜と幽霊』

本日は、完結済みの作品を紹介してみたい。
集英社「となりのヤングジャンプ」で2016年5月から2017年11月にWeb連載された『社畜と幽霊』である(単行本は全3巻)。

草木も眠る丑三つ時に、眠ることなど許されない残業真っ最中のサラリーマン・背山。
彼が真っ暗なオフィスでヘロヘロに疲れ果ててストレスMAX状態でPCに向かい作業にいそしんでいると、とつぜん空気が冷え込み、怪奇現象が頻発しだす。
紙コップに混入する大量の髪の毛。不自然な物音。PCに書き込まれる謎の文章。ひとりでに棚から落ちるファイル。勝手に開閉してきしみをあげるドア。
そしていきなり至近距離に出現する、長い黒髪をざんばらに乱した血の気のない女……ああっ、出た! 幽霊だ!

ふつうならギャーッ! と叫んでパニックに陥る流れである。
だがしかし背山さん、これを完全スルー。むしろ、作業の邪魔をされてブチギレてしまう。

「今は 幽霊(おまえ)どころじゃないんだよ」
「幽霊とか何でオレが相手しなきゃなんねんだよ やる事あんのにボケが」

顔に青筋立てて毒づきながら、仕事に没頭するばかりなのだった。
手ごわい! 手ごわすぎるぞこの人間!
夜毎にあの手この手で攻める幽霊ちゃん、はたしてこの肝のすわった社畜をビビらせることができる日は来るのか!?
という具合に、幽霊との遭遇を“恐がらない”という逆のリアクションを軸に描いたホラーコメディである。

この場合、超常現象に気づかないのではなく、“気づいても相手にしない”のが要点だ。
どんなにがんばっても相手にされず途方に暮れる幽霊ちゃんを見ているうちある意味での健気さが感じられてきて、不気味な造形なのにやたらかわいく思えてくる。ホラーだしコメディでもあるのだが、キャラクターを愛でるタイプのマンガでもあると言っていいだろう。

ところで、「忙しい」という字は「心を亡くす」の形で出来ている。
忙しすぎる人間は、心をなくし、想像力をなくし、視野が狭まり、オバケを怖がる余裕すら失ってしまう。それは、強いとか現実に生きているというのとはまた違うように思われる。

心をなくした人間と、体をなくした幽霊。

さて、どっちが恐ろしいか?
愉快なマンガではあるのだが、ずいぶんと哲学的でもある。

この記事を書いた人

miyamo

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