2018.07.05
【日替わりレビュー:木曜日】『湯遊ワンダーランド』まんしゅうきつこ
『湯遊ワンダーランド』
銭湯に入ったり、入らなかったりする。
正直最初は、「また銭湯か」と思った。
まんしゅうきつこ先生が週刊SPA!で連載中の『湯遊白書』が『湯遊ワンダーランド』にタイトルを改め単行本化。まんしゅうきつこ先生が銭湯について描く、それはきっと面白いだろう。しかし同時に、昨今のサウナブームには少し辟易としていた。
ネットの記事にはサウナと水風呂の交互湯が「自律神経にいい!」という形で紹介され、いままで銭湯の「せ」の字も言ってなかったやんけみたいな人たちが批評家ぶってまとめ記事を作る。銭湯が盛り上がることはいいんだけど、その張り切り方、銭湯の良さ掻き消してない?みたいな感じで、私も銭湯やサウナは好きだけど、どこか心の距離をおいていた。
『湯遊ワンダーランド』は、ただ、まんしゅうきつこ先生の描いた作品だから、という理由だけで読んだ。
結論からいえば、私はもっと作者を信頼していてよかった。『湯遊ワンダーランド』、めっちゃ銭湯行きたくなるし、サウナ入りたくなるし、読んでるだけで快楽物質がドバドバ出ている感じがあるし、まんしゅうきつこ先生の良さが大爆発していた。
なんだろうこれ、「銭湯マンガ」という皮をかぶった何かである。
まず、銭湯に入らない回もけっこうある。弟夫婦との白昼夢みたいな暮らしが、淡々と語られていて、みんながみんな少し頭が狂っている。
加えて、なかなか水風呂に入らない。というよりは、入れない。一度でも交互浴を試そうとした人なら共感するだろうが、確かに水風呂ってめちゃくちゃハードルが高いのだ。
最終的には水風呂の良さも知ることにはなるのだが、入っても入らなくても面白いというのは、やっぱりまんしゅうきつこ先生だからこそなせる技だよな、と思う。風呂上がりに、フルーツ牛乳か飲むヨーグルトか、どちらを飲むか悩んでる話すらめちゃくちゃ面白い。
銭湯に入って、体が軽くなって、「よし、お仕事がんばるぞ」ともならない。体は軽くなるものの、すぐに効果が切れ始める。この依存感は『アル中ワンダーランド』も思い出させる。酒の酔いがさめていくように、風呂上がりの煌めいた世界がくぐもってくる。銭湯は依存度が高い。まんしゅうきつこ先生はむしろその快楽にずっぷりとはまりながら楽しんでいる感じがあって、むしろ「自律神経にいい!」とか「仕事捗る!」と言われるよりも、ずっと銭湯に行きたくなる。
銭湯にいる「強い人」とか、若い人たちの会話とか、まんしゅうきつこ先生が見る世界は歪なようでとても繊細で、「ああ、確かにいるいる」となる人ばかりだ。風呂上がりの食事が軽く2人前なのもいい。
まんしゅうきつこ先生の目から見る銭湯という世界は、私が大好きなあの銭湯であった。読み終わったいま、銭湯に行きたくて体がウズウズしている。読むだけで快楽物質の出る銭湯マンガ(のような何か)。