2018.07.25

【日替わりレビュー:水曜日】『くノ一ツバキの胸の内』山本崇一朗

『くノ一ツバキの胸の内』

優等生くノ一は、男に興味があります

アニメで人気を博した『からかい上手の高木さん』の作者・山本崇一朗先生の新作は、くノ一マンガ。舞台は忍者学校で、くノ一以外一切出てこない、という変わり種の作品。

あかね組のツバキは、優等生のくノ一。同じ班のサザンカアサガオと一緒に修行に励んでいる、極めて真面目な少女だ。火吹きや変化、苦無に分銅、ありとあらゆるものを自在に使いこなす忍術の達人。彼女は1つだけ、みんなに隠していることがあった。「男」が見てみたい、という気持ちがおさえられなくて困っているのだ。

あかね組の少女たちは、生まれてこの方「男」を見たことがない。先生は「力が強く残虐性が高い」と、厳しく男の危険性を生徒に叩き込んでいる。生徒たちが知っている「男」のイメージは、汚らわしい、体はでっかいけど脳はちっさい、言葉遣いが乱暴、股間が急所で弱い、バカでアホで短気でくさい……などなど。だから、誰一人「男に近づきたい」なんて思う生徒はいない。敵ではないけれども、近づくべきではない猛獣みたいな感覚のようだ。

ところが、頑張り屋で優秀なツバキの中に、男が見たい、男のことを知りたいという思いが芽生えて、抑えられなくなってしまったから大変。先生に言ったら折檻されるだろうし、友達に打ち明けるわけにも行かない。「私はおかしいんでしょうか」と困惑する。

ツバキの中に産まれた思春期の悩みを軸に、少女くノ一たちの華麗な忍術を描くアクションコメディだ。
『ふだつきのキョーコちゃん』で表現していたダイナミックな動きや伝奇的ラブコメディを、『からかい上手の高木さん』で武器としている思春期の繊細な心理表現にかけ合わせることで、楽しくかつキュンキュン読める少女群像劇になっている。

なんせ男が全く出てこないこの世界がなんなのか、何のためにくノ一になろうとしているかの描写が現時点ではわからない。忍者学校まわりの話はかなり深く掘れそうなくらいにまだまだ余幅を残しているので、今後話を広げてくれることも期待できる。

山本崇一朗先生の描く少女は、非常にスレンダーで華奢で、かつ活発そうだ。健康美あふれるツバキに対し、後半出てくるベニスモモは非常に艶めかしい。少女、という言葉から想像できそうなあらゆるデザインのキャラクターが、この作品には登場する。

「エコール」という映画では、少女たちを美しいダンサーに育てるため、男性のいない切り立たれた学校が管理されている様子が描かれていた。そちらは成人たちの歪んだ視線があるため、不気味な感覚が強かった。

この作品には不気味さは一切ないが、性的偏見のねじれで溢れている。いい悪いの問題ではなく、性意識が芽生える前の、おそらく小学校高学年から中学生くらいの女子が、男性のいない空間で育てられた時どうなるのかを描く、少女箱庭実験になっている。

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たまごまご

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