2018.07.21

【日替わりレビュー:土曜日】『海も川もないので女子高で釣りしてみた』下神木るこ

『海も川もないので女子高で釣りしてみた』

下神木るこ先生といえば、厳粛な緊張感あるシチュエーションに身を置くと奇行に走ってその場をぶち壊しにしたくなる衝動を抱えたお嬢さまと、そのフォローに血道を上げる執事を描いたコメディ『ドミノキック 並べられたドミノをキックしたらどうなるのかしら?』で知られる異才のマンガ家である。
その新作『海も川もないので女子高で釣りしてみた』がしばらく前からスクウェア・エニックス「ガンガンONLINE」でWeb連載されており、本日7月21日ついに単行本第1巻の発売を迎えた。

舞台は、とある女子高校。
憑りつかれたように「釣りがしたい」と連呼するジャージ姿の女性と、彼女の前でおっとりお茶とお菓子をたしなむ少女がいる。
体育教官の安倉先生と、女子生徒の荒井ちま。ふたりは釣り部の顧問と部員で、体育教官室を部室にして放課後の部活タイムを共に過ごしている……のだが、この学校にはあいにく周辺に海も川もない。
釣りがしたくても気軽にはできない、フィッシングマニアの安倉先生には地獄のような環境である。

一方ちまちゃんは釣りへの興味が薄く、ひとごと感覚。
なのにどうして釣り部に入ったのか? と訊かれ、安倉先生へ好意を抱く少女は恥じらいながら「先生に釣られて…」と奥ゆかしく答えた。
その瞬間。人が人に“釣られる”という言い回しに安倉先生はビビっとひらめいた。

「海も川もないなら女子高で釣ればいいのだ! わかるか!」

なるほど! ちょっと何言ってるかわかりませんね!
困惑するちまちゃんをよそに、先生は釣り用具を抱えて学校のあちこちをまわり、イメージ上の釣りスポットを見立てていく。

校門は水門。
階段の踊り場は“かけあがり”(海底が段々状に深まっている場所)。
図書室で等間隔に並んだ本棚はまるで橋桁……。
そしてそれらのポイントに棲息する魚の群れは、もちろん(?)学校に集う女子生徒たちだ。

例えば、クールにワルぶっているが実は可愛いものに目がない不良少女を見つけたらどうするか。
釣り糸の先にフリフリのドレスを仕掛けた釣竿をふりかぶる安倉先生。対してターゲットは、ぽとりと眼前に落ちてきた“エサ”に気づいて思わず手に取り、着替えてしまう。そこを勢いよく引き上げ、見事アタック成功となるという次第。

他にも、釣り糸を身体にひっかけて人間ルアーと化したちまちゃんが漫画研究会の部室に飛び込んでアニメキャラのカップリングに解釈違いをぶつけて煽り、つかみかかってきた生徒を引きずり出すなど、相手によって仕掛け・テクニック・ポイントを臨機応変に切り替える光景は高度な駆け引きに満ちており、見立てや例えの域を越えてまさに釣りそのものである。
最初はものすごい変化球に思えたのが、読んでいくうち「こ、これはガチで釣りマンガなのでは……」と引きずり込まれるこの感覚。

そう、おもしろいマンガにひきよせられて夢中に読みだした時点で、われわれもすでに“釣られた”魚となっているのだ。

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miyamo

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