コミスペ!

SHARE

2018.08.02

【まとめ】サーチャビリティ? 知らない子ですね……潔すぎる一文字タイトル特集!

ある作品を個別のものたらしめる条件のひとつに、タイトルがある。

劇中の人物や物品の名前を冠したタイトル、テーマを抽象的に暗示するタイトル、セリフを一言抜き出したタイトル、音楽など他分野のタイトルを引用したタイトルなどなど。とにかく色々だ。
ときには物語の流れで「タイトルの意味はこういうことだったのか!」「このタイミングでタイトルをもってきたか!」とうならせる工夫もあり、一種の“芸”の域にまで達した題名付けも少なくない。

また昨今には、極端に多い文字数で設定やシチュエーションを懇切丁寧に説明する文章的なタイトルが台頭しているのはみなさんご存知の通り(ライトノベル方面が真っ先に思い浮かぶと思うが、このスタイルは成人向けのビデオやゲームでより以前から先鋭化して面白いことになっている)。
無数のコンテンツが氾濫するご時勢、どうやってユーザーに関心の第一歩を踏み出してもらうかという問題において、送り手側がタイトルひとつにもなりふり構わず試行錯誤し続ける様子には涙ぐましささえ感じるところだ。

さて、長文タイトルが一方の極端にあれば、逆の極端としておそろしく短いタイトルも存在する。
『けいおん!』の四文字? 『ゆゆ式』の三文字? 『日常』の二文字?
いやいや、まだいける。

そう、たったの一文字だけを看板として掲げる作品!

これがまた探してみれば意外とけっこうな数にのぼるのだ。
サーチャビリティ(検索性)が重視されるインターネット時代には不利であるものの、それでもいったん目にとまれば潔さで強いインパクトを受けるが必至……今回は、そんな一文字タイトルのマンガを特集してみたい。

『C』

洒脱で淡麗、都会的とでもいうべき画風により読者を魅了して1980年代後半以降の「週刊ヤングジャンプ」ひいては青年マンガを語る上で避けて通れない存在となった、きたがわ翔先生。

作品履歴をたどれば『19』(1988~90)、『B.B.フィッシュ』(1991~94)、『ホットマン』(1997~2000)など21世紀に入る前後10年間ほどに次々と代表作を送り出しているが、その一角に見られるのが一文字タイトルの『C』(1994~97)である。

1. 見栄っ張りで女のあつかいに慣れた風情を気取る雑誌編集者が悩む性的不能。
2. 秀でた絵画の才能をもちながら、同じ道の天才である父親と比較されては鬱屈を深める美大生の近親愛憎。
3. 思いを寄せる女の子が芸能界で名を上げていく様子に自分との不釣り合いを考えてしまうテレビAD青年の引け目。
4. 事故で親を亡くし、いったんは心を閉ざしながらも父によく似た男性との出会いを通して少年がとげる変化。

という具合に単行本全10巻で合計4章のオムニバス構成になっており、章ごとに異なる題材で心身にこじれを抱えた人々の悲喜こもごもを描いている。
つまりタイトルの「C」とはComplex(コンプレックス)の頭文字というわけだ。

『F』

1986~92年に小学館の「ビッグコミックスピリッツ」で連載された自動車レースマンガ。

豪快を通り越して問題児すぎる性格と爆発的な行動力、そして常人離れした運転技術を備えた主人公・赤木軍馬がモータースポーツの世界に魅入られ、最高峰のF1を目指してフォーミュラ四輪レースをF3から叩き上げていく。さらに大企業の会長が愛人に生ませた子という出自から軍馬が父親や本家の人間たちとの間に火花散らす確執をからめ、大河的な群像劇が展開する。

主人公の口癖、「何人(なんぴと)たりとも俺の前は走らせねえ!」をアニメ版(1988)の関俊彦ボイスで記憶している人もおられるだろう。

タイトルの「F」はもちろんフォーミュラカーのFormulaから。たった一文字のアルファベットが、その向こうに熱いレース世界の広がりを伝えてくる力強い題名付けだ。

『G』

FからGのアルファベット順ということでもないが、こちらも同じく自動車レース物。月刊誌「週刊少年サンデー超」で2010~2013年に連載された少年マンガである。

自動車整備工の息子で、車が好きでたまらない少年・真中真央が超人的な動体視力と集中力というドライバー向きの天性を見出され、レーシング養成スクールの入学試験に挑む様子を全5巻で描く。
少年マンガは主人公が何かをなしとげたり何者かになること自体よりも、少年が「やろうとする」「なろうとする」気持ちのエネルギーを読者にぶつけることがまず肝心な分野だが、それをふまえるとプロ(大人)の世界に入る以前の養成校のテストだけで全編を構成した割り切りは一種のジャンル的な正道をという感もある。青年誌のレース物との違いを意識して読むのも面白いだろう。

タイトルの一文字「G」は「Gがかかる」などの言い回しでおなじみの重力加速度をあらわす単位「g」(※小文字)。

超高速で駆けるF1レースにおいてドライバーは横向きのG圧力(いわゆるGフォース)から体重の3~4倍の負荷を一瞬一瞬に受けるという、すさまじい世界を体験している。少年にふりかかる試練の重さの象徴として受け取ってもいいかもしれない。

『K』

ヒマラヤのふもとで静かに暮らす、日本人とおぼしき男「K」
山で遭難事故が起こると彼はたぐいまれな登山技術を駆使し、常人には絶望的としか思えなかった人命救助を遂行してみせる……。

1980年代にリイド社の「リイドコミック」誌に連載。単行本一冊のコンパクトなボリュームなので、谷口ジロー作画の極限山岳マンガとしてまず本作を読んでから傑作長編『神々の山嶺』に手を付けるという流れもいいだろう。

タイトルの一文字「K」は主人公の呼び名だが、パキスタン最高峰にして世界第二位の標高8,611mを誇るK2(Karakorum No.2;カラコルム山脈測量番号2号)を連想させ、じっさい劇中でKが救命活動をおこなう山の中にK2も含まれている。

ところで現在は「K マンガ」でネット検索すると一文字タイトルのアニメ『K』のコミカライズ情報がずらっとヒットするのだが、そちらは副題が付くので今回は見送りました。

『う』

にょろんとくねった「う」の題字は、そう、うなぎ屋のノボリでよくみかけるアレだ。

本作はうなぎ専門のグルメ系マンガという、タイトルどころか内容までシンプルすぎる作品である。
講談社「モーニング」誌で2010年代前半に連載スタートして、呉服屋の御曹司が道楽のためにうなぎ料理を食べ歩く姿を描くこと約3年間、全100話+αにおよび……いやー、うなぎだけでよくもそれだけやれたな! と感心するばかりだ。

今回さまざまな一文字タイトルを集めたなかで、ひらがな一文字は本当にレア中のレア。アルファベットや漢字なら一文字でもそれ以上の読みや略意を込めることができるが、これは本当に読みもそのまま「う」の一音だけなのだ。

一文字きりの題名に、一つきりの題材……今回の記事のコンセプトにはあまりにぴったりな一作だ。

『累』

イブニング生え抜きの精鋭・松浦だるまのデビュー作にしていきなりの代表作で、9月公開の実写映画化もひかえてますます勢いづいている一文字タイトル。

主人公は伝説の女優を母に持ち、高い演技力を備えながらも自らは醜い容姿であるばかりにひどいイジメを受けていた少女・淵累(ふち かさね)。
そんな彼女が、母親の形見である口紅を使うと口づけした相手の顔を奪えることに気づき、美貌の女になりすまして人気女優の修羅道を歩みだすというファンタジー要素ありの芸能マンガである。

「累」の読みは主人公の本名「かさね」だが、「累が及ぶ」(るいがおよぶ;ある人の災いがそれ以外の人にもふりかかる)という言葉があるように、美しさと醜さの因果が登場人物たちを縛ってかさねる劇中の人間模様を思わせる、含み深い題名になっている。

『斬』

「週刊少年ジャンプ」本誌で2006年に連載された剣術バトル少年マンガ。

武士道的な社会観のもとで帯刀が一般人に広く認められ、正当な理由があれば決闘による斬殺が罪にならないというパラレル現代日本を舞台に、切れ味ゼロで叩き壊す力に特化した特殊な刀「研無刀(けんぶとう)」をふるう主人公・村山斬(むらやま ザン)が強敵たちと戦い抜いていく。
これも主人公の名前をタイトルにとったタイプだが、斬! という擬態語のようにも受け取れて小気味良い響きになっている。

同作者の『斬』や次作『SWOT』の連載当時、女の子キャラの造形が光っていたのでそれを活かす方向にいってくれないかなーと思っていたのですが、近年「ジャンプ+」で『ムッツリ真拳』というエロコメ作品が始まったため大いにうなずいている今日この頃です。

『岳』

2003年に小学館「ビッグコミックオリジナル」で始まって「ビッグコミックオリジナル増刊」に移り、不定期連載で9年かけて完結した長編マンガ。

世界の名だたる山々を登って豊富な経験を積んだ山岳救助ボランティア・島崎三歩を軸に、じょじょに成長していく新米救助隊員・椎名久美や救助隊のチーフ・野田などさまざまなキャラクターの思いを通し、ときにたやすく命が失われる北アルプスの厳しい自然と人間の関係を実直に描いていく。
主人公が遭難者を発見した時にかける言葉が責めるものではなく、いつも「良く頑張った」なのが印象的。一個の限界ある人間として大きく強い自然に向き合う人柄がよくにじみ出ている。

タイトルの一文字「岳」は「がく」という読みのゴツゴツした武骨な響きもあいまって、内容とマッチしている(ちなみに劇中で島崎は「岳」の字をあしらった帽子をかぶる)。
連載時は『岳 みんなの山』と副題付きだったが、単行本では『岳』の一文字になったため今回取り上げる対象とした。小栗旬主演で実写映画にもなりましたね。

まだまだあるぞ、一文字タイトル!

さて、以上にピックアップしたのは副題もない正真正銘一文字だけのタイトルだが、すこし条件をゆるめて「読みがなが添えられている一文字タイトル」までアリにすると、まだまだ該当例が多く見つかる。

女の子っぽい男の子と不良男子の変形ラブコメ『変[HEN]』(奥浩哉)。女子高生麻雀マンガの一大巨頭『咲 -Saki-』(小林立)。女子生徒と教師兼出張ホストのロマンス『H-エイチ-』(桜井まちこ)。同居相手の女の子とセックス抜きを条件に交際する青年のマゾヒスティックな葛藤を描く『M エム』(桂正和)。関連作とメタフィクショナルな関係にある『α -アルファ-』(くらもちふさこ)。時系列不定のオムニバス式ゾンビ物『Z ~ゼット~』(相原コージ)。同名美少女ゲームのコミカライズ『痕 ~きずあと~』(画・月吉ヒロキ)……。

みなさんも、こうしたタイトルを見かけたら作品の中身と照らし合わせ、よく噛みしめてみてほしい。
あらゆる無駄を排してただ一文字にすべてをかけているからこその逆説的な雄弁さと濃さがにじみ出て、高い格調を感じられることだろう。

この記事をシェア!

この記事を書いた人

miyamo

このライターの記事一覧