2018.08.02
【日替わりレビュー:木曜日】『しいちゃん、あのね』東裏友希
『しいちゃん、あのね』
日常とエロの振り幅がでかくなってない?
3月にここで紹介した『しいちゃん、あのね』の3巻が発売された。2巻までの、過激度高めな描写を楽しみにしていた人間としては、読み始めて最初、少し拍子抜けした。なんか、丸くなってない?
前巻までの、行き過ぎたエロコメ要素の中に潜んでいた日常のほっこり要素が、むしろ3巻では主導権を握った感じ。性に興味津々だったしいちゃんや幼稚園児たちは、どこか大人を皮肉ったような発言で物語にオチをつけたり、そのピュアな姿がそのまま描かれている場面も多い。それまでがしいちゃんとその他、という形で進んでいた物語から、だんだんと視座が高くなっていっているような、そんな印象を受ける。
だからといって、物語がつまらなくなったわけでは決してない。むしろ狭い社会で暴走していたしいちゃんの物語が、少しずつ社会のいろんな人と交わりながら、大人の事情も挟み込まれながら、物語としての深みが増しているようにも思える。
「バカだなあ」と笑ったり、外では読めないくらいリアルなセックスシーンに発情したりする頻度は少し下がるが、一方で、そのほっこり日常物語の中でも生き残っている突然の過激エロも健在で、むしろそこのギャップに笑ってしまう。
あくまで物語のテンションやキュートな子どもたちの動きは変わらず、読後感が味わい深くなった最新刊だ。
©東裏友希/日本文芸社