2018.08.14

【日替わりレビュー:火曜日】『狭い世界のアイデンティティー』押切蓮介

『狭い世界のアイデンティティー』

ほんとーーーーに色々あった『ハイスコアガール』、アニメもこうして無事に毎週放映されている喜びを噛み締めつつ。押切蓮介という作家の特異性について、やはり触れておきたいのが『狭い世界のアイデンティティー』

押切蓮介作品は、『ハイスコアガール』に代表される「白」押切と、『ミスミソウ』『焔の眼』のような復讐劇やホラー、人間の救いようのない業を描いた「黒」押切に分かれています。

『狭い世界のアイデンティティー』は、そのちょうど真ん中に位置する、押切作品としては珍しい「灰」押切作品です。

兄の仇を討つためにマンガ業界に足を踏み入れた神藤マホ。腐りきったマンガ業界人を暴の力で粉砕していきながら、邁進していきます。本作に出てくるWebマンガ家のイイね!自慢、打ち切りマンガ家にたかるアシスタント、業界の悪口をSNSに投稿する老害大御所……自己承認欲求に取り憑かれたクズどもの祭宴といいますか……マンガ家ってヤベーな!

クズどもが粛清されていく様は、まさに「黒」押切展開そのもの。でも業界モノのエンタメ路線は貫いています。「白」と「黒」両方エッセンスをバランスよく描けているのは、多作な中堅マンガ家らしい匠の技なんだと感じます。

「このマンガがすごい!」がマンガ家のみならず編集者たちをも狂乱に走らせ、新宿ゴールデン街のバー「図書室」ではマンガ家同士が「褒めろ」「称えろ」とマウントを取り合う。浅野いにお先生が実名で登場するなど、虚実混交のおかしさに満ちています。「俺の背景で窒息しろ…!!!」はさすがに本人言わないと思いますけど。

押切蓮介先生と清野とおる先生という旧知の盟友が土手で語り合うシーン、

「清野君さ『ハイスコアガール』で僕が警察沙汰になった時───ちょっと楽しかっただろう?」

所詮、連載枠や読者の財布と時間を奪い合うライバル関係。マンガ家の間には、真の友情は生まれないのかもしれません。

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かーずSP

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