2018.08.30
【日替わりレビュー:木曜日】『明日クビになりそう』 サレンダー橋本
『明日クビになりそう』
むしろなんでまだクビになっていないんだ
この男、いっそ清々しいほどのクズ。
「働きたくない」。Twitterを開いて、その言葉を目にしない日はないかもしれない。私は1年半ほどで「会社勤め」から逃げた人間だが、フリーランスになった今も、けっこう働きたくない。楽しいこともあるけど、面倒臭いこともあるし、できればサボりたい、正直。
サレンダー橋本先生の『明日クビになりそう』は、ある意味、そんな人間を元気付けてくれる作品だ。
主人公はウォーターサーバー会社で働くサラリーマン宮本。彼はとにかく仕事ができない。営業職だが声が小さくて契約はとれないし、それどころか就業時間に個室ビデオ屋や漫画喫茶に出向いたり、会議中やお客様宅への訪問中にうんちをもらしたり、電話のメモすらとれずに会社に300万の損失を出したりしている。
それに加えて、仕事ができないやつあるあるでもあるのだが、なんでか態度がでかく常に他人事なのだ。ブログを開設してからは自分の失敗すらネタになると喜ぶし、一般職や気の弱い年配の社員に対してはでかい声で上から目線。何度同じような失敗をしても、反省の色を一切見せない。
会社員でありながら「働きたくない」とぼやくのではなくて、「いっそ働かない」という選択をとる潔さ。セクシー女優の握手会に行くためであれば、会社に嘘の予定を伝えて偽の資料を作成することだって厭わない。
私は昔、(いろいろな理由が重なって)バイトをクビになったことがある人間だ。そして、自分も仕事ができないタイプで、宮本のようなクズ的な扱いをされてきたこともしばしばあったのだが、読みながら「私、これほどまでではないな」と思った。少なくとも、ズル休みをするときに罪悪感はあったし。
意識の高い人たちに囲まれて「働きたくない俺って、クズなのかな」と悩む人にはぜひ読んでほしい。自責の念がある時点で、宮本にはかなわないから。そしておそらく読み終わったあとは、「まあ、俺はまだマシな方だな」と勝手に元気付けられているはずだから。
©サレンダー橋本/秋田書店