2018.10.16
【日替わりレビュー:火曜日】『月曜日の友達』阿部共実
『月曜日の友達』
マンガのレビューでいきなり小説の話を始めますが、『響け!ユーフォニアム』という、吹奏楽部に所属する少女を描いた小説があります。武田綾乃先生の情緒ある文体が、青春を瑞々しく描き出している傑作です。
『月曜日の友達』を読み終えた時の余韻もまた、同じタイプの心地よい余韻に包まれました。
両者に共通しているのが、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感に連なる表現の多彩さ。例えば1巻142ページ、日差しが照りつける真夏。水谷茜という主人公の少女が、並木道を見上げながら独白するシーン。
「激しく光を照らされた葉が重なり合ったセロハンのように真緑に透ける」
「深海の様に染まる木々の影。地に跳ね返る木漏れ日は肌を白く焼く」
読み手を錯覚させるほど五感の想像力を掻き立てる、水谷の胸中の思い。詩を吟じるように綴られるセリフのひとつひとつに、多感な十代を想起させるような情感がこもっています。
詩や短歌では、わずかな言葉から想像をふくらませる、「行間を読む」楽しさがあります。『月曜日の友達』では、行間の部分がマンガで表現されているのも斬新な体験です。
時折出てくる、水谷の瞳に映る、月野透の顔。ミステリアスな非日常の演出としてグッときます。言葉で紡がれながら、絵としてもインパクトが大きいです。
揺らぎ、戸惑い、焦燥感といった、誰もが経験してきた思春期の情動。それを豊かな文学的表現と画力で描くことで、圧倒的に読者の心に爪痕を残す名作マンガです。
最初のオレンジジュースの紙パックがゴミ箱に入ったのは偶然? それとも超能力? といったファンタジー要素もあります。全2巻。一気にお読みいただけたら幸いです。
©阿部共実/小学館