2018.10.24
【日替わりレビュー:水曜日】『丹沢すだちが此処にイル!』額縁あいこ
『丹沢すだちが此処にイル!』
コミュ障だから、ラップで話そうプチャヘンザ!
コミュ障をライトに扱ったマンガは、痛々しさがコミカルで笑えるのがウリのものが多い。あるあるネタで、共感もしやすい。この作品もコミュ障少女ネタコメディ。「話しづらいことを話す」という点で、ラップ精神を題材に持ってきたのが面白い。
B―GIRLスタイルで、話しかけづらい空気漂う丹沢すだち。金髪、キャップ、パーカーにでかいネックレス、と絵に描いたようなラッパースタイル。
実はクールなわけではなく、人前で話すのが極端に苦手なだけ。普通の会話がほとんどできない彼女、おしゃべりは全部ラップという変わり者。
隣の席の真面目で地味な少年・十文字大輔は、中途半端な丹沢すだちが見ていられなくて、面倒を見始める。会話の時は彼女にあわせてラップで韻を踏む。友達ができない丹沢の心配をし、彼女のずれたラップ生活にツッコミをているうちに、十文字も自然と口からラップが出るようになってしまう。
コミュニケーションが苦手な子があたふたする様子と、ラップを使うと変貌して強気になるギャップがかわいらしい。
「どんなダメ人間でも想いを述べていい 暴言さえ表現 言いたいこと言っていいんだ それがHIP-HOP…!!」
通常は言えない言葉を、韻を踏んで吐き出しぶつけるのは、ラップが持つ本来の思想。話すのが苦手な丹沢のラップは確かに「かぶれ」な部分が大きすぎてかなりダサいのだが、普段心に閉じ込めた思春期の悩みをラップで相手に叩きつける様子は、ちょっとかっこいい。
中盤以降、彼女が中学生時代ラップに目覚めた様子が描かれる。彼女の置かれていた環境は非常に抑圧的だった。ラップで表現するようになった解放感の描写は、ものすごく心地が良い。彼女は一方的な罵詈雑言ではなくフリースタイルバトルを守っているため、公平で安心して見ていられる。
丹沢がフリースタイルでどんどん言葉を紡ぎ出せるのは、立派な才能だ。ラップを通じて十文字と丹沢がどんどん親しくなっていくのも、ニヤニヤさせられる。丹沢は、十文字相手ならラップ抜きでしゃべれるのだ。彼女の「世間話」と「ラップ」のバランスが今後どうなっていくのかが見どころだ。
©額縁あいこ/講談社