2018.11.05
【日替わりレビュー:月曜日】『鴆 比翼の鳥』文善やよひ
『鴆 比翼の鳥』
この作品は『鴆-ジェン-』と同じ世界観で続編という位置づけなのですが、メインカップルが別なのでこれ1冊でも楽しめます。個人的には順番に読んだ方がより楽しめるので1作目から手に取ることをおススメします!
(※『極夜』という別の作品にも番外編が掲載されているので、それも含めるなら『鴆-ジェン-』→『極夜』→本作の順になります)
鴆(ジェン)という鳥と人間が合わさったような生物が主役です。人外BLです!
鴆は、手もくちばしももたないので、1羽では自分の羽根の手入れもろくにできません。つがいを持って生きることでようやくやっていけるという生物なのです。そしてなにより、鴆には毒があります。その身を守るために身体に溜める毒は、彼らの羽根を鮮やかに彩り、何よりそれは鴆の誇りなのです。そして、毒を抜かれた鴆は、羽根からも色が抜け落ち、純白になってしまいます。
羽根の色の美しさで価値が決まり、高額でやり取りされる鴆。ですが、本作の鴆には色がありません。毒をいくら食べても純白のままのリウシンと、色が乗りすぎてすべてが混ざり、漆黒になってしまうジーイエ。幼い頃に出会った彼らは、「お互いにつがいができるまで一緒にいよう」と約束します。そしてリウシンは毒を抜いたことで己の価値を高め、ほとんど無価値のジーイエと一緒に買われていきます。
白い鴆×黒い鴆
人外同士の組み合わせであり、そしてお互いがお互いのことを好きなのに、両想いになかなかなれないという両片思いの物語でもあります。誰からも価値を認められなかった彼らの羽根ですが、彼らだけは、相手の羽根を尊び、美しいと思っていたのです。
リウシンは、外の世界を自由に飛ぶのが夢だと語ったジーイエを人間たちに『捨て』させ、夢をかなえてやろうとします。そして自分は殺される覚悟で人間に利用されようとします。一方のジーイエは、うまく空が飛べずに行き倒れていたところを元鴆飼(鴆の世話をする職)に拾われて助けられます。
別れ別れになってしまった白と黒の鴆。そのままリウシンを買った人間の陰謀の犠牲になってしまうところでしたが、間一髪のところで助けられ、命拾いをします。再び出会った正反対の色を持つ鴆は、お互いこそ自分のつがいと気づき、めでたく結ばれるのです。
両片思いといい、相手のためを思って自分を犠牲にしそうになったりするところといい、これですよ、これが純愛なんですよ! と言わんばかりの一途な想いが溢れてくるたまらない1冊なのです。相手のためなら、種族の誇りである毒も捨てる。なんなら命を捨てても惜しくないという、底抜けに貪欲で純粋な気持ちにゾクゾクさせられます。
前作のカップリング(人間(鴆飼)×鴆)のふたりもしっかり登場するので、前作で萌え転がされた皆様にも嬉しい新作となっております!
©文善やよひ/プランタン出版