2018.11.18
【日替わりレビュー:日曜日】『葬送行進曲』ウチヤマユージ
『葬送行進曲』
ちょっと空いた時間にマンガ読みたいなーって思っても、普段あんまりマンガを習慣的に読んでなければ尚更、複数巻出てる作品ってなかなか手が出しにくいものですよね。そんな時におすすめなのが1巻完結の作品。時間もお金もかからないので、隙間時間に湧き出たマンガ欲をすっと埋めてくれるのです。
そこで今回は最近発売されたばかりの本作『葬送行進曲』が、1巻完結の作品としてまとまり方が素晴らしかったので、ピックアップさせて頂きたいと思います。
嵐の夜、山道に迷った男は廃屋で一夜を明かす。しかし、廃屋と思われたその家には老婆が一人で住んでいた。さらにその家は「よくぞこれだけ!」と思われるほどのゴミに溢れたゴミ屋敷であった。行き場のない男と、どこへも行けない老婆。ワケアリの二人の孤独な魂が共鳴し……。(公式あらすじより抜粋)
冒頭から明らかにされますが、主人公の男・小磯は、刑務所でのお務めを終えて出所してきたばかりで、元犯罪者という世間の偏見から家族にも縁を切られてしまって独りぼっちの身。また、ゴミ屋敷に住んでいる老婆・栄枝さんは、夫に先立たれ実の家族とはうまくいっていない、孤独な老人です。
大枠の立て付けとしては、状況は異なるが互いに「孤独」を抱える2人が出会い、優しさにふれ合いながら愛や人間味を取り戻していく、再生のヒューマンドラマとなっています。
一見、重くなりがちなお話ではありますが、淡泊でありながらも完成されたシンプルな絵柄と、見事に展開に緩急をつけつつ練り込まれた構成、そして登場人物達の優しい感情描写によって、読み進める手が早まるほどです。
本作の作者は、過去に『よろこびのうた』という作品でも、実在した事件をモチーフに限界集落で心中した老夫妻の姿を様々な社会問題と共に描いたウチヤマユージ先生。
今回も、「老人と家族」「犯罪者の出所後の生き方」「相続問題」「ゴミ屋敷」などいくつもの社会問題ともいうべき要素が重なり合っていますが、それぞれがぶつかりあってアクになるといったようなことは一切なく、見事に一連の要素を一編の物語へと料理しきっているところは流石の一言です。
全体的に決して悲壮な話ではなく、読んだ後は晴れやかな気持ちになるほど。また冒頭に書いた通り、1冊の本の中に物語を描ききった1巻完結作ですので、表紙に躊躇することなくぜひ手に取ってみてくださいね。
©ウチヤマユージ/講談社