2018.11.22

【インタビュー】『僕は君を太らせたい!』茸本朗先生と公園に生えてるキノコを食ってみた!!

「ビッグコミックスペリオール」で連載中の作品『僕は君を太らせたい!』をご存じだろうか?

謎の感染症の流行により荒廃した現代日本を舞台に、サラリーマンの男女がそのへんに生えている草やザリガニなどを食べながら旅をする一風変わったグルメマンガである。

ヒロインの都田エリは、フランス帰りのお嬢様であり美食家。しかし、野草などの知識には乏しく、基本的には驚き役だ。

主人公の木野耕一。普段から野のものを採っては食していたため、混沌の時代にあっても異様に逞しい。上司の都田さんに惚れており、彼女を守りつつ、色んなものを食わせる。

本作は作画の横山ひろと先生と、原作の茸本朗先生によって作られている。茸本先生は人気ブログ「野食ハンマープライス」を運営し、新書『野食のススメ 東京自給自足生活』も執筆した野食家だ。

本作の原作者であり野食家でもある、茸本朗先生

野食とは「野生食材をとって食べる」ことを意味する言葉であり、つまり、『僕は君を太らせたい!』は、茸本朗先生の野食知識をフルに活かした野食グルメマンガであると言える。

グルメマンガであるからには、作中で様々な野食レシピや「身近にある食べられるもの」が紹介される。なのだが、その中で私が特に気になった一品があった。それがアミガサタケである。

キロ数万円もする高級食材。そのへんの公園で採れる高級食材……。

なんとも魅力的な響きではないか! まるで宝探しである。っていうか、このキノコの知識さえあれば、今後の人生、タダで気軽に高級キノコを味わえるの? それはなんだか早く知っておかないと、今この一瞬さえも人生を損している気がしてくる……。

居ても立ってもいられなくなったわれわれは、スペリオール編集部に直談判。茸本氏の全面協力を取り付けた。

残念ながらアミガサタケは時期外れとのことだったが、「公園で採れるキノコは他にもある」とのことで、われわれは急遽、都内某公園にてキノコ狩りを行うこととなったのである! 

キノコ狩りにワクワクが止まらない、先生と著者

せっかくなので色々聞いてみた

──茸本さん、今日はご案内、ありがとうございます。ところで、野食にも茸本さんにも興味があるんですが、まず、野食は何がきっかけで初められたんですか?

茸本朗先生(以下、茸本):きっかけというか、物心付いた時から野生の物を採って食べるのが好きだったんですよ。4歳の頃に本屋でキノコ図鑑を手にして、それからずっとです。

茸本:とはいえ親からは、キノコは危ないから採って食べるのは禁止、と言われていて、主に魚を釣ったり山菜を採ったりしてましたね。

小学生の頃は親からお小遣いを貰って朝市に行って、魚屋で魚を買って、それを捌いたりして。で、高校生になったので、ようやくキノコも『採ってもいいぞ』と解禁されました。

採ってもいいぞ……?

──茸本さんも親御さんも凄まじいですね……。では、その流れで今も『野食ハンマープライス』のブログをやっている、と。

茸本:そうですね。高校生の頃に見ていた『ざざむし。』という野食関連のサイトが好きで、その影響も強く……おおっと!

──どうしました!?

茸本ドングリが落ちてました。拾っていきましょう。

茸本:ドングリは一般的にタンニンが多く含まれてて、渋みが強く、アクを抜かなければ食べれませんが、一部に気軽に食べられるドングリもあって、それが「椎の実」なんです。

で、このスダジイは椎の実の代表種です。これは本当に優秀なドングリで生でも食べられるんですよ。どうぞ、どうぞ。

──あっ、ほんとだ。ほんのり甘い。なんか生米の大きいやつを食べてるみたいな感じですね。

茸本:生でも甘いってのは相当ですよ。炒るとすごく甘くなります。僕がかつて住んでいた福岡では屋台で炒った椎の実が売られてたりもしました。

あと、野食だと炭水化物を確保するのが大変で、他にはアワの原種とされる猫じゃらしくらいしか炭水化物候補がないので、ドングリはその意味でも重要です。磨り潰して粉にすれば、おかゆにしたり、クッキーにしたり、ラーメンにすることもできます。栄養価も白米より高いんじゃないかな。

──ドングリでラーメンも作れるんですか! ところで栄養価と言えば、タンパク質の方は野食だとどうやって確保するんですか?

茸本:基本は魚ですが、という選択肢もありますね。

──あー、『君は僕を太らせたい!』第一話でも主人公が虫入りのお弁当を食べてましたもんね。

茸本:あれはセミと、フェモラータオオモモブトハムシっていう甲虫の幼虫ですね。幼虫の方は虫の中では相当に美味いので、あれが手に入ったらチャーハンを作ってお弁当に持っていくくらいは当然してもおかしくない……というか、実際にしました

──えっ、あれって実体験なんですか!

茸本:でもマンガみたいに、社内が騒然となったりはしなかったですよ。

──ま、まあ、そうですよね。常識ある社会人ですもんね。

茸本:せいぜい月に1回くらいしかなかったですね。

──(月に1回も騒然とさせてたんだ……)

月に1回……

食べてふっくらして欲しい願望

──今回の『君は僕を太らせたい!』って、どういう経緯で生まれた作品なんですか?

茸本『アイアムアヒーロー』花沢健吾先生が発端ですね。先生が、次作に取り掛かる前に色んな経験をしておきたい、特にアウトドアを経験したい、ということで野食のガイドをしてたんです。

それで一緒に食材を採って調理して振る舞ってたんですけど、私が「採ってきたものを振る舞うのが好き」「特に女の子に食べさせたい」「ポッチャリした女の子が好みだから、僕が作ったものを食べてふっくらして欲しい」と編集さんに漏らしてたら、それは面白い!って言われて、その流れでマンガの原作をやることになったんです。

──本作の主人公もヒロインを太らせることが目的ですが、その動機や作品コンセプトは茸本先生ご自身から出てたんですね!

──ところで、茸本先生はご結婚はされてるんでしょうか? ヒロインの都田さんは奥さんがモデルだったりします?

茸本:結婚はしてませんが、一緒に住んでる彼女はいますね。特にモデルだと意識はしてないんですけどね。

──彼女さんは茸本さんの野食メニューにはどういう反応をするんですか? やっぱり都田さんみたいに嫌がったり?

茸本:いや、野食も結構食べてくれますよ。不味いものは不味いと言ってくれるので助かってます。やっぱり自分で採ってくると、それだけである程度美味しく感じちゃうので、そういう一般人の素直な視点が有り難くって……あっ!

──どうしました!?

茸本ノビルです。拾っていきましょう。

茸本:今くらいの時期(11月)からもっさりと黄緑色した植物が出てくるんですけど、これがノビルで、簡単に言うと野生のネギです。この時期のノビルは全体的に柔らかくてどの部位でも使えますよ。

──これ、マンガで出たやつだ!

茸本:根っこもタマネギみたいな感じなんですけど、根っこの方はそれほど特別な味わいがあるわけではないので、僕は上の部分を食べる方が好きですね。芽ネギのイメージで使います。

毒キノコは噛んで見分けろ!

──マンガを読んで野食をやってみたい、と思う人がいると思うんですが、やっぱり最初は怖いじゃないですか? 安全なキノコの見分け方とか、どうやって勉強すればいいんですかね?

茸本:なるほど、いまちょうど足元に毒キノコがあります。ニガクリタケというキノコで、これを食べると死にます。では、これを齧ってみましょう。(もぐもぐ……)

──えっ、えええ……。大丈夫なんですか?

茸本大丈夫です。触っただけでダメなキノコも若干ありますが、大抵の毒キノコは齧って吐き出す程度であれば中毒になることはありません。で、噛んだら苦いわけですよ。ニガクリタケっていう名前の由来ですね。

毒キノコのニガクリタケ

ニガクリタケはクリタケっていう人気食材に少し似てるので、間違って食べて死んじゃう人がたまにいるんです。でも、噛めば苦いから分かるんですよ。良かったら噛んでみます? 飲み込んじゃダメですよ。

──うわ、本当だ。苦い。

茸本:ね。だから大切なのは五感で判別することです。

手に取って、質感を見て、柄が中実か中空かを見る、ヒダの色が白なのか黒なのか他の色なのかも見る。図鑑に「苦い」と書いてあるなら、実際に齧ってみて「苦っ!」て確認することが必要な時もあります

──いやでも、たまに苦くないこともあるのでは? 自然界の物だし、揺らぎというか、個体差もあるんじゃないですか?

茸本:個体差はありますね。でも、僕がいつも言ってるのは「図鑑を信じろ」ということです。図鑑の言うことは絶対に正しいです。もちろん研究が進んで新たな知見が加えられることもありますが、基本的には絶対正しいです。

あるキノコが10個の特徴を持っていると図鑑に載っているとします。でも、図鑑に載ってる写真も8個の特徴しか満たしてなかったりするんです。さらにフィールドで観察すると、だいたいのキノコは5個の特徴しか備えてないんです。

なので、慣れてないうちは『5個備えてるから大丈夫だろう』『8個備えてるから大丈夫』ではなく、『10個全部備えているキノコ』だけを食べて下さい。これをちゃんとやってれば、まず大丈夫です。

あなたの足下にある高級キノコ

茸本:と言ってるうちに、見つけましたよ

──うおっ、これはなんですか?

茸本:これはヒラタケです。いや、本当にヒラタケです。スーパーに売っているヒラタケと同じですよ。大きくなって白っぽくなってますが、もう少しちっちゃい時は茶色くて、市販のヒラタケっぽい色味をしてます。

……秋の終わりから冬にかけての今の時期はキノコの種類が減るんですが、一方で街中で食用キノコが見つかる可能性がすごく高まる時期でもあるんです。

街路樹とか雑木林に出るキノコがあって、その代表がヒラタケで、もう少し冬が深まると次はエノキタケが出ます。天然のエノキタケはモヤシみたいな姿じゃなくて、キノコっぽいキノコの形をしていて、味もずっと美味しいですよ。

──エノキタケってそのへんに生えてるものなんですね! ところで今回は残念ながらアミガサタケが採れなかったわけですが、他に身近でゲットできる高級キノコってありますか?

茸本:ありますよ。まずショウロですね。松林の地面に出る白くて真ん丸なキノコで、昔からすごく貴重なキノコとされていて、お吸い物なんかに使われます。

──ショウロ? ですか。聞いたことないし、売ってるところも見たことないですね。

茸本:売るほど採れないですからね。ただ、最近、詳しい場所は言えないんですけど、友人が街中の松の並木の中で見つけたと言ってて。それがギャグみたいに街のド真ん中なんですよ。いま絶滅危惧種とまで言われているショウロが街のド真ん中に生えてて、それを誰も気にしてないんです。

あと、トリュフも同じです。一昨日、都内の山に登って取ってきましたが、たぶん、この公園でも一日探せば、どこかに見つかるんじゃないかな……。

──トリュフって都内で採れるもんなんですか!? ちなみにトリュフってやっぱりすごく美味しいもんなんです?

茸本:いや……美味しいかどうかは……どうなんでしょう? 味はなくて香りがウリのキノコなんですけど。日本人が好む香りかどうかは……。理性で感じるというよりは大脳旧皮質で感じる香りと言いますか……例えるなら、一戦交えた後の女性の汗の匂いですかね。ほら、フランスって事を致す前にシャワー浴びると怒るじゃないですか。そういう価値観の国で好まれるキノコってことですよ。

──な、なるほど。よく分かったような気がします……。ようし、お腹が減ったから、そろそろご飯にしましょう!

わーい!大量だ!

公園で拾ったキノコの実食タイム!

軽妙なトークと共に慣れた手つきで調理をしていく先生

──採取から2時間後! 茸本さんに腕を奮ってもらい、われわれの前に野食料理が出揃った!

一品目「ヒラタケとノビルとスタジイのペペロンチーノ・スパゲティ」

茸本:にんにくの代わりにノビルを香り付けに使ったペペロンチーノです。あと、松の実の代わりにスタジイ(椎の実)を使ってます。

──ノビルがいいアクセントになってますね。椎の実はちょっと硬いかな? ヒラタケはベーコンのような食感があって良い味が出てます。公園で拾ったもので作ったとは思えないくらい立派なスパゲティだ……。

まさか公園で拾ってきた食材とは思えない美味しさ

茸本:キノコ料理を作る時は油をたっぷり使ってじっくり弱火で炒めるのがポイントですね。特に昨日みたいに雨が降った後はキノコが水分を多く含んでいるので、しっかり炒めて水分を出すのが大切です。

成長したヒラタケは結構実が硬いんですが、じっくり炒めるとさらに固くなってベーコンのような食感になります。

二品目「ヒラタケのチーズ掛けオーブン焼き」

茸本:これはヒラタケにチーズと塩コショウを掛けてオーブンで焼いただけのシンプルな料理です。

──すごい肉厚で美味しいです。塩コショウだけでもチーズと相まって味がすごくしっかりしてる。ご家庭でも簡単に作れそうなのもいいですね!

サイズが大きいのでハサミで切って、いただく。

茸本:料理自体はシンプルですが、スーパーではこの大きさのヒラタケを手に入れることが難しいので、野食ならではの料理と言えるでしょう。

三品目「スダジイ茶」

茸本炒ったスダジイを煮出して作ったお茶です。

──玄米茶に近い味わいですね。

茸本:もっと炒ればコーヒーのような味わいになります。実はコーヒーの代用品は昔から色んな人が考えてきて、特にコーヒー豆が手に入らなかった戦時中に盛んになりました。

タンポポやチコリの根を使ったコーヒーが知られていますが、一番代用されていたのがドングリなんです。ドングリには本当に色んな用途があるんですよ。

──ラーメンからコーヒーまで! ドングリってすごい!

ドングリはすごいのだ!


茸本先生は「僕はゲテモノが食いたいわけではなく、美味しいものが食べたい」と公言しているだけあり、今回、振る舞って頂いた品々はどれも真っ当に美味しい皿ばかりであった。公園で拾ったキノコは真っ当に美味い!

そして、お金を使わずとも食材が手に入るだけでなく、でかいヒラタケや天然エノキタケ、ショウロのようなレアキノコなど、お金を払っても手に入れにくい食材までゲットできてしまうのが野食の魅力と言えるのではないだろうか。しかも、家の近所の公園で、だ!

茸本先生による『君は僕を太らせたい!』には、他にも様々な食材やレシピが紹介されている。これまで何の気なしに通り過ぎていた歩道や公園が、実はレア食材を抱えた宝の山かもしれず、本作を読んだ後では目に映る光景が一変するかもしれない。

『君は僕を太らせたい!』はそんな可能性を秘めたグルメマンガなのだ!

作品情報

試し読みはコチラ!

『僕は君を太らせたい!』単行本発売記めしイベント開催決定!!

茸本朗先生がテレビ出演!

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この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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