2018.12.07

【日替わりレビュー:金曜日】『お迎え渋谷くん』蜜野まこと

『お迎え渋谷くん』

蜜野まこと先生による、『お迎え渋谷くん』の第1巻が発売されました。

敷居高めな渋谷くん

前作『デジログ恋愛生活』では新進気鋭のIT社長との恋愛が描かれましたが、今回も負けず劣らずの敷居高めなお相手でございます。

物語の主人公・青田愛花(28)は、6年目の保育士。子供は好きだけど、同僚に振り回されて最近ちょっとお疲れ気味。彼氏もおらず、少しずつ沈んでいく毎日。そんな中、園で預かっている音夢(リズム)ちゃんのお迎えにやってきたお兄さん・渋谷大海(21)と出会う。彼はなんと今をときめく人気俳優で……というあらすじ。

掴みどころのない渋谷くん

蜜野先生の作品を読むのはこれが2作目になるんですが、本当に掴みどころのない男性をお描きになる。相手役となる渋谷くん、売出し中の人気若手俳優なのですが、なんというか表情に乏しくて何考えてるかよくわからんタイプなんですよ。不思議ちゃんと言えば聞こえは良いのですが、なんというか”欲”が全く感じられなくて、生きてて楽しいのかな……みたいな。生気が感じられないというか。

演技は抜群に上手いのですが、のし上がってやろう的な野心も無く、なんなら妹のお迎えが優先。イケメンなのでモテるものの、恋愛には一切興味なし。で、そんな彼がなぜだか、ごくごく普通の一般人なヒロインに興味を持ち、それをきっかけに彼自身も段々と変化していくという展開を見せます。

大体の作品って、読んでいれば作者さんが、このキャラクターをどう描きたいのかってのがわかるじゃないですか。でも蜜野先生の場合、それがよくわからないんですよね。前作から感じていたものが、本作で一層輪郭をはっきりさせた感があります。

物語冒頭ではクレーマーの素質高い圧倒的シスコンって感じだったのが、ちょっとすると感情の起伏の無い青年になって、さらにそこから優しいイケメン君になったと思ったら、なんやかんやありヒロインをめちゃめちゃ意識しちゃう童貞っぽい雰囲気出してきたりするしで、移ろいが激しすぎて各話の渋谷くんを線で結ぶことができない感じ。

基本的には静かなはずなのに、突如わちゃわちゃと制御しきれない感情や人格が出てくる感じは『中学聖日記』の晶を感じさせますね。というか、たぶんああいうキャラが好きな人はこれどツボですわ。

なんかわからんけど魅力的な渋谷くん

そもそも20歳そこそこの人気俳優が、28歳アラサーの保育士に恋するって時点でなかなかありえないシチュエーションなわけですが、それぐらい無茶苦茶な状況を、意外なほど納得感ある物語に仕上がっているのは、この彼の不思議な性格があるからに他なりません。「渋谷くんなら、まあ……」みたいな、妙に腑に落ちる感。で、「掴みどころのないキャラだなー」と読み進めていくと、相手のことを意識して、不器用なりに一生懸命アピールして頑張る姿が出てきたりして、不意にキュンときてしまったりするわけですよ。

ストーリーは粗いし詰めも甘いところがあるしなお話なんですが、不思議と最後まで読んでしまっていて、なんなら後半、渋谷くんに結構のめり込んでしまっていた自分がいました。このわけわからんキャラクターに惹かれるなんて……。悔しい。

というわけで、結構オススメするのに躊躇してしまうのですが、いいしれぬ面白さとキャラクターの魅力があったので、あえて今回ピックアップしてみました。「なんかわからんけど、渋谷くんいいよね」って感覚を、多くの人と共有したいところです。興味が湧いた方、是非。

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いづき

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