2018.12.12
【日替わりレビュー:水曜日】『目黒さんは初めてじゃない』9℃
『目黒さんは初めてじゃない』
彼女は誰の誘いも拒まず寝る女の子
古賀くんは、全く冴えない男子。恋愛経験なし。童貞。彼は、恋をした。相手は目黒さん。高嶺の花の美人。
玉砕覚悟で告白したところ、あっさり「いいですよ」の返事。
「けど私 処女じゃないですよ」
唐突な返しに、さすがにびっくり。彼女は誰とでも寝ると話題の非処女。
「私の経験を踏まえるのなら 付き合って2日目の今日は これから家かホテルに行くことになりますけど 行きますか?」
身体を誰にでも開く目黒さんの言動に、ドキドキさせられてしまう序盤。しかし、一巻中盤から彼女の恋愛と性の価値観の歪みがどんどん顕になる。
古賀くんはそれを是とも非ともせず、あくまでも彼女に真っ向から向き合おうと奮闘する様子が、とても魅力的な作品だ。
目黒が誰とでも付き合い、すぐに寝る理由が、なかなかに痛々しい。周囲から「ビッチ」と呼ばれる彼女。自分の本当の気持ちはそこになく、お付き合いが終わってまた次の人と始まる繰り返し、という感覚で達観している。だから、自分から「こういうことをしたい」という要望を、何一つ言わない。
これには古賀くんも面食らうが、彼女を喜ばせたいと考えて必死にプランを練り始める。「好きな人のために」という思いから来る行動は、相手の心を動かすものだ。
基本的には古賀くんが、どう大好きな目黒さんにアプローチするかの純愛奮闘物語として描かれている。しかし目黒さんは、「人を拒まない」という呪縛にとらわれて、感情が芽生えない厭世的な心理状態で描かれる。今まで自分を通り過ぎた自分勝手な男たちと、古賀くんはどう違うのか?
タイトルの「目黒さんは初めてじゃない」は、もちろん性体験のこと。
ぎょっとするタイトルだが、作中でも性についてはセンシティブに扱われていて、決して性的行為の経験の有無で人間の上下はつけていない。経験を重ねてはいても目黒さんは満たされていなかったし、未経験でプラトニックな古賀くんは毎日満たされている。この感情を、ビッチとか童貞くさいとかの言葉で表現するのは意味のないことだ。
目黒さんは、お付き合いや性行為は初めてじゃないし、淡々と通過してきた。しかし彼女が「楽しい」と感じるのは、初めて。2人の初めては、ここから積み重ねられ始める。
©9℃/講談社