2018.02.19
【まとめ】あの話題作もここから生まれていた!「なろう小説」原作で、注目のコミカライズ10作品
大量のWeb小説が毎日投下され続けている大手投稿サイト「小説家になろう」。
アマチュア・プロを問わない競争原理で人気ランキングが練り上げられ、『魔法科高校の劣等生』『Re:ゼロから始める異世界生活』『この素晴らしい世界に祝福を!』……などなど、話題作が出版社に見込まれて商業書籍化を果たし、さらにはアニメをはじめとするメディアミックスの源になる流れはすっかりおなじみだ。
そしてメディアミックスといえば、コミカライズの存在が見逃せない。
アニメ化タイトル以外にも多数の「なろう系」がそれぞれ独自の切り口でマンガに描き起こされており、原作未読者へのガイドとして機能するのはもちろん、純粋にマンガとしてそれ自体が面白いケースに出会える機会も増えている。
ただ、なにぶん数が多いので、どこから手をつけようかと迷う人も多いだろう。
そこで今回は、親しみやすいものから通好みなものまで厳選して、おすすめの「なろう系」コミカライズ良作を10本紹介したい。
『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』
27歳の会社員女性・梓(あずさ)が50連勤の過労でバタッと倒れてあの世いき! そんな梓をかわいそうに思った天使により、ファンタジー異世界で不老不死の若々しい身体をもつ魔女・アズサとしての新しい人生として生まれ変わることに。雑魚モンスター「スライム」をちまちま狩ってささやかな収入を得つつ、休みたければいつまでも惰眠をむさぼり、気が向けば畑を耕して……ああ、なんて素晴らしきスローライフ!
しかし、スライム専門の狩りでも300年という長期に得た経験値はとんでもない量。魔女アズサは、超実力者にレベルアップしてしまっていた!隠しても噂はひろまり、挑戦者たちが殺到し、ついにはドラゴンまで相手にする羽目に。最強の魔女アズサはかわいい女の子の姿に化けた住み込みの弟子であるドラゴン・ライカとの2人暮らしをはじめるが……?
ライトノベル作家・森田季節の同名作品を、シバユウスケがコミカライズした『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(スクウェア・エニックス)。
シバユウスケは『チェルシー』『学園塔に魔女はオドる』など女の子同士の賑やかな日常を描く作品を得意としながら、二組の弟姉妹によるシェアハウスを描いた『ペコロス』のようにファミリーコメディも描けるマンガ家で、本作にはうってつけの起用といえる。
ふんわりと丸みのある描線は親しみやすく、キャラクターたちの気立てのよさや、アズサが願うスローライフの雰囲気を読者によく伝えてくれる。
『辺境の老騎士 バルド・ローエン』
魔獣から逃れるための巨大な壁に囲まれた世界で、人民に忠誠を尽くすと誓った騎士、バルド・ローエン。
青年時代に心を通わせた姫君の嫁入りを見送って幾年月、年老いながらも最強と讃えられていた彼は、主家が近隣の領土争いに巻き込まれる情勢下で自分の存在が火種とならぬよう、地位も財産も捨てて命尽きるまで放浪の旅を始めることにする。
引退した老騎士が旅先で美味しい料理を楽しむかたわら大きな陰謀に直面していくという、いぶし銀な冒険譚のマンガ化作品『辺境の老騎士 バルド・ローエン』(支援BIS,菊石森生/講談社)。
骨太さと繊細さをあわせもったキャラクター造形の堂々たる格調が、原作小説の趣を見事に汲み取っている。
題材的に外せないグルメ描写も秀逸で、原作小説は架空の名前をもつ架空の食材を読者にもイメージしやすく表現する手際が見事なのだが、それをさらに具体的な絵にするマンガ版もお見事。「恵まれたコミカライズ」という言葉がこれほど合う作品もなかなかない。
『本好きの下剋上』
読書はもちろん、見た目、手触り、香りなど本という存在そのものを偏愛してやまない女子大生・本須麗乃(もとすうらの)は、積み上げた大量の本が地震で崩れて下敷きとなり、死んでしまう。「どうか生まれ変わってもたくさん本が読めますように」と切なる願いを抱く麗乃だが、本どころか身の周りに紙も文字もない洋風異世界で貧しい平民家庭の娘・マインに転生していた。
いったんは失意の底に沈むも、本好きの情熱はけっして絶えることがない。子供という立場の弱さ、病弱な身体、見知らぬ異世界の自然、商業・政治・宗教などが壁となって悪戦苦闘が続くが、マインは印刷技術の再現という大目標を見据え、すこしずつ前進していく。
『本好きの下剋上』(香月美夜,鈴華/TOブックス)のコミカライズ版の強みは、なんといっても黒髪ロング幼女となった主人公が本について一喜一憂するときの、その表情豊かさ。
本を読みたいという衝動に突き動かされるマインちゃんを応援したくなるよう、読者を彼女の視点によりそわせる演出が随所に施されている。
Web小説において紙の本を愛するヒロインの物語がつづられ、それが紙で書籍化、さらにWeb連載のマンガとなり、また紙の単行本となる。そんな転変を思いながら読んでみると、題材の持ち味がいっそう際立つだろう。
『野生のラスボスが現れた! 黒翼の覇王』
平凡な学生(男)が剣と魔法のMMORPG「エクスゲート・オンライン」のなかに吸い込まれ、漆黒の翼を背に生やした美女アバター「ルファス・マファール」の肉体をもってファンタジー世界へ送り込まれてしまう。
ゲームの世界では全ユーザーの頂点に立つ覇王の異名をとり、勇者の勢力と戦うロールプレイでイベントを盛り上げ、公式の用意していたボスキャラさえもかすむ存在感を放っていた主人公。しかし、彼が転送されたのは設定上の時代から200年も後、しかも勇者召喚の儀式のミスによるものだという。
自分の知る情報とのズレに戸惑いつつもお気に入りのゲーム世界を巡ることに楽しみを見出す「ルファス」だが、やがて忠実なる部下キャラとの再会や、見知らぬ勢力との対峙を経て大きな戦いの渦に関わっていくことになる。
性別の違うアバターに憑依する仕立てで、現実の人間がゲーム世界のキャラクターになる際のギャップをさらに増しているのがポイント。『野生のラスボスが現れた! 黒翼の覇王』(炎頭,YahaKo,葉月翼/泰文堂)は、広い意味でのTS(性転換)ファンタジーにあたる。
コミカライズは最強の女傑ルファス様を、ただ美しいだけでなく、ただ強いだけでもなく、きちんとその両方を兼ね備えているよう描くことに成功している。そこ大事だよね!
マンガ担当の葉月翼は、小説原作のファンタジー戦記『忘却の覇王ロラン』や、ゲーム取り込まれものの金字塔『ソードアート・オンライン』の「フェアリィ・ダンス」編と「マザーズ・ロザリオ」編のコミカライズを手がけていることをふまえると、よく考えられた起用である。
『異世界はスマートフォンとともに。』
神様がうっかりミスで落とした雷に当たって死んでしまった少年、望月冬夜。
元の世界に生き返らせることはできないが、おわびとして何かひとつ望みを叶えたうえで異世界に送り、第二の人生を謳歌させてくれると言われた彼の返答は「スマホを向こうの世界でも使えるようにできませんかね?」というもの。
かくして、神器となったスマホの超便利機能、神の加護による身体能力、地球の知識などを活用してマイペースな異世界ライフをはじめた冬夜だったが、なにかとトラブルに出くわしては様々な出自をもつ少女たちと親しくなり、古代遺跡の探索やモンスター退治など、ハードな冒険者稼業の道もひらけてくることになるのだった。
『異世界はスマートフォンとともに。』(冬原パトラ,兎塚エイジ,そと/KADOKAWA)では、主人公が単にぼーっとしているわけではなく物事を受け止めたうえで大きく動じないという人物像のニュアンスや、おじいちゃんっ子という設定のある主人公に対する神さまのケアの手厚さが、ちょうど孫に対するおじいちゃんのような雰囲気になるよう整えられているなど、原作の機微をうまいこと抽出したコミカライズになっている。
アニメ版と原作小説は話題になったが、マンガ版ももっと注目されていいように思う。
ちなみに、原作(商業書籍版)のキャラクター原案は兎塚エイジ。
そう、現在の異世界転移ものブーム以前にその筋でひとつの記念碑となった『ゼロの使い魔』のイラストレーターである。
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