2019.01.20

【まとめ】抜群の信頼感!フィール・ヤングの新鋭マンガ家による短編集が名作ぞろいな件

以前、こんなまとめを書いたことがあるんですが、

【まとめ】隠れた名作ぞろい!? 売れっ子少女マンガ家のデビュー短編集をチェックしよう!

短編集、好きでよく買うのですよ。で、クオリティで言うと、ハズレもそこそこ多かったりするんですよね。新人マンガ家によるデビュー単行本とかも多いので、どうしても。

そんな中、コンスタントにハイレベルな短編集を出しているところがあるんです。それが、祥伝社のフィール・ヤング。マジでどこからどう見つけてくるんだってぐらい、毎年すごい作品や話題作が平然と送り込まれてくるんです。それも実績のあるマンガ家さんではなく、あまり単行本も出していない新鋭だったり、全くの新人だったり。

今回は、そんな(私の中で)抜群の信頼感を誇る、フィーヤンの新鋭・若手による名作短編集をご紹介したいと思います。

『ララバイ・フォー・ガール』

最近のイチオシはこれ。

もがき、傷つけ合い、慈しみ合う、女たちの青春を描いたガールズ青春譜。恋愛はメインで無く、一貫して描かれるのは女同士のぶつかり合いや、支え合いといった、女性同士の関係性

例えばそれまでオシャレとは無縁でいた女子が、自分の好きなことを真剣に楽しむ姿を見て触発されたり、逆に自分と違って可愛くない子を見下したり、まさかの逆転によって激しい嫉妬を覚えたり……。

女性同士の付き合いってよく「面倒くさい」とか言われますけど、単純な男と違って、人間関係の中に複雑な感情や計算が渦巻いているからこそ生まれるものなんでしょうね。本作は、その深淵をのぞいた気分になれるような、生々しいリアリティがあります。

時に美しく、時に醜く女性の感情を切り取っているのですが、どう描かれようと感じるのは「女性ってのは強い」ということ。ストーリー的に大きな救いは無くとも、その一点だけでやけに清々しく感じられてしまうのも、この作品独特の魅力と言えるかもしれません。

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『虹の娘』

デビュー単行本と2作目を、「このマンガがすごい!2014」のランキングに送り込んできたのが、いがわうみこ先生。『虹の娘』は2作目の方になります。

芸術的な体でヌードモデルをする妹の“告白”の日を待つ兄、不倫の末帰郷した女と男子中学生の加速する初恋、死んだはずの兄が突然現れ動揺する家族、イケメンとの三角関係に迷う純情乙女……描かれる話は圧倒的に幅広いです。そしてそれぞれ、絵面が大きく動くような劇的な展開はさほど多くありません。いわば、彼ら・彼女らの「今日のできごと」を絶妙に切り取った物語たちです。

じゃあ日常系のほのぼのとしたお話なのかというと、全然そんなことは無く、むしろほのぼのとは対極にあるシュールとナンセンスが渦巻く独特すぎる情景がそこには広がっているのです。まず真面目にやってるのかふざけてやってるのかよくわからないんですよね。極めてアホらしい台詞回しがあったかと思えば、突然純度の高い感動をぶち込んできたりするので、面食らうという。

中でも特にオススメしたいのが、『愛され洋輔』。空気読めないクソうざい自信たっぷりのダメアホ男っているじゃないですか。そのクソうざい男・洋輔のムカつく発言を延々描いていく作品なのですが、ヤバすぎて、憎らしくも妙に愛らしくて面白いんですよ。いつしかそのウザさがクセになるぐらい。なお愛されすぎた結果、シリーズ化して単行本まで発売される事態となりました(しかも他社で)。

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『ミッドナイトブルー』

本作『ミッドナイトブルー』もすごかった。

「卒業しても2年ごとに集まって4人で火星観測をしよう」、そう約束した2日後に、彼女は交通事故で死んでしまった。それでも残された3人は、2年ごとに集まっているけれど……という表題作のほか、ノスタルジー溢れる短編を7編収録。

全体的に落ち着いた雰囲気の中、ちょっとファンタジーを交えることもありつつ、静かに深い感動を与えるお話が多いです。そんな中で、小気味良いオチをきかせて明るさ・前向きさを落とし込み、読後感は極めて良好。大きな感動を呼び起こすような物語ではないのですが、「ああ、いいお話読んだな」とじんわり満足感が得られるような作品です。

こだわりのポイントはその装丁。表紙や帯がタイトルに合わせてブルー基調で作成されているほか、ページのインクもミッドナイトブルーを用いているこだわりっぷり。電子書籍でもカラー表示の場合ミッドナイトブルーになっているようですが、個人的には単行本で読むと、よりノスタルジックな雰囲気を味わうことができるのでオススメです。

なお祥伝社での2冊目となる、京都にまつわるオムニバス『みやこ美人夜話』はページのインク色が茶色となっており、こちらもまた良い味出してるんですよ。(もちろん物語も面白いです)

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『さよならガールフレンド』

現在、女子高生たちが本物の拳銃を手に入れたことから日常が激変してしまうという話題作『世界は寒い』を連載中の高野雀先生も、『さよならガールフレンド』というデビュー単行本が話題を集めました。いがわうみこ先生もなかなかクセのあるお話を描くのですが、高野雀先生も絵柄からストーリーからクセが強い。

表題作の舞台となるのは、セックスや噂話ぐらいしか楽しむことがない「どんづまり」の地方都市。そんな場所で鬱屈とした日々を送る女子高生・ちほが、ひょんなことから町じゅうの男とやっていると噂される“ビッチ先輩”と出会い、自分の進路や生き方について考えていくという物語です。

この性が乱れ、互いが互いを監視し合う、地方都市特有のどん詰まり感というのがひときわリアルで、地方出身者の自分はのっけからガンとダメージを食らったのですが、そこからのガール・ミーツ・ガールな展開が、そうした鬱屈とした空気感に風穴を空けるような気持ちよさがあって圧倒的に面白い。

この他の物語も、なんとなく鬱屈感や手詰まり感がある中で、そうした日常に変化をもたらすようなちょっとした出来事が描かれており、そのアプローチの引き出しが非常に多くて感心させられます。

そしてリアルなのが、全てを打破するほどの展開は訪れないところ。言い方は悪いのですが、中途半端な着地になるのがまたリアルなんですよ。この絶妙に希望の無い中で、少しの救いを見出してもがく感覚が、強い共感を呼び起こすのではないかと思います。

読後感、スッキリさはありません。でも、なんだかすごい作品読んだって気持ちにさせてくれる、そんな一冊です。

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以上、4冊をご紹介しました。ペース的には毎年って印象なのですが、あながち間違っていないようです。おそらく今年もものすごいのが来るんじゃないかと勝手に期待しているのですが、果たして。

フィール・ヤングの単行本はサイズが大きいこともありややお高めな印象もありますが、今回ご紹介した作品たちはどれもその価格に見合う、いやお釣りが来るぐらいに素敵な作品たちとなっていると自信を持ってオススメできますので、気になる作品があれば是非手にとってみてください。

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