2019.01.19
【日替わりレビュー:土曜日】『おじいさん家のものの怪』暮
『おじいさん家のものの怪』
今回ピックアップする『おじいさん家のものの怪』は、イラスト投稿サイト・pixivとコンテンツ製作販売会社・フロンティアワークスが組んだWebコミック雑誌「Hugピクシブ」内の一本でpixiv限定連載中のWebマンガ。
ひとりの高齢男性が、自分の命を刈りにきた死神と、自分を幸せにしようとがんばる座敷童のふたりに挟まれながら暮らすさまを描いた日常ファンタジーだ。
死神──それは不慮の事態で、あるいは寿命で命を落とす人間のそばによりそい、魂を回収する冥界の始末人。彼らに必要なのは、人間に肩入れなどせず、ただただ無心に大鎌をふるって肉体と魂を切り離す冷徹なプロフェッショナリズムである。
しかしここに、うっかりその調子を踏み外してしまった死神がいる。名前は「ウロ」。まだ新米の若い死神で、初めて人間の命を取るため地上へ送りこまれたのだが、その人間が一筋縄でいかない相手だったのだ。
崎川善(さきかわ ぜん)、76歳。和装がいぶし銀に渋いイケメンおじいさん。彼には、幽霊や妖怪など超自然的なモノが見える特殊な力がある。当然のように、死神ウロくんの姿も見える。
この善さん、なんともいえず人を惹き込む穏やかなやさしさに満ちた無類の好人物。ウロくんにとって自分をあの世送りにする作業が初仕事だと知ると心からお祝いを述べ、苦労話を聞いてはねぎらって励まし、またご飯を食べさせて歓迎してみせる。
なんだこの人間? と困惑しつつ胸のかたすみにキュンとした感覚を抱くウロくん。口では強がるが、すっかり善さんのいいひとぶりに魅了されていく。
死神は、よけいな感情を抱かずに人間の魂を回収しなければならない。こんな好意は、仕事のさまたげになる。実際、なかなか善さんの魂を刈る決心がつかずグズグズと日にちが過ぎていく。ああ、どうしよう。
しかも、善さんのそばには彼を慕う魑魅魍魎がうようよしている。なかでも彼が暮らす家についている座敷童の少女「ふく」は厄介だ。家事を手伝い、四六時中なにくれとなく善さんを気にかけ、幸せを与えようと尽力している。幸福は“生”に属するもの。死神とは立場が反対だ。
この「死をもたらそうとする死神 V.S. 生を豊かにしようとする座敷童」というマッチメイクはとても分かりやすい。主要人物の少なさに反比例して物語に深みを感じられるのは、そういう構図のソリッドさゆえだろう。善さんというひとりの人間の人格そして人生を浮き彫りにするにあたってファンタジーの強みが十二分に活用されている。
しかも話数が進むにつれ、そこからさらに味わいがもう一段進んでいるのが素晴らしい。具体的には善さんが一人暮らしをするようになった経緯が明かされる前後あたりから、三人それぞれキャラクターの根幹に細かいアヤがついてくるのだ。
死神の使命を果たす覚悟をもちながら人命を惜しむ私情で矛盾する、ウロ。
幸せを与える存在のはずが、ある不幸の引き金を引いた過去を背負う、ふく。
そして、名前の通り善人ではあるが、どうしようもない陰りを心根に巣食わせる、善。
ひとが生きることにも、死ぬことにも、つきまとうものがある。とても寂しくて、かなしくて、やりきれない“何か”だ。
上に書いた善さんたち三人のありさまを通してその“何か”の情感をすっと読者にしみこませてくる本作には、「ほのぼの」というよりも「しみじみ」という形容がよりあてはまる。
©暮/フロンティアワークス