2019.01.23

【日替わりレビュー:水曜日】『タベモノガタリ』電柱棒

コーヒーゼリー、混ぜて食べるか、真ん中にクリームを注ぐか

「らき☆すた」が最初に話題になったころ、序盤のネタ「チョココロネをどっちから食べるか」が多くの人を困惑させた。ギャグになるわけでもないどうでもいいことがわざわざ描かれた、ということにだ。

このような日々の何気ないことを、そのまま描くスタイルは「日常系」として、今ではすっかり定着した。実際チョココロネを食べる向きなんてどっちでもいい。そういう他愛のない会話をできる人間関係が存在していること、感じられるのが魅力だ。

今回紹介する『タベモノガタリ』は、日常系作品の魂ともいえる「日常に楽しさを見つける」部分を特化させた作品だ。タイトルの通り、話題の中心は「食べ物」。出てくるのは、プリンやコーヒーゼリー、ハムカツ、スナック菓子、食パンと、どこにでもあるものばかり。

それらをどういうスタイルで食べるか、三人の女子学生たちが真剣に考える。

例えばコーヒーゼリーのクリーム。先にかけて混ぜるか、真ん中を掘って池を作るか。端を食べて海岸を作るか。溝をひいて、運河を作るか。いくら真剣に考えたところで、味は変わらない。彼女たちのやっていることは、正解は存在しない。全部どうでもいいことだ。他にも、クロワッサンを皮を剥いて食べる、プリンの底にあるカラメルをストローで飲む、など様々な手法、「食べ型」が登場する。

彼女たちが楽しんでいるのは、誤解を恐れずに言えば、食べ物で遊ぶ行為だ。ただ、彼女たちは「食べ型」を追求することで、日常を倍以上楽しんでいる。コーヒーゼリー一つで、彼女たちは長い時間楽しみ続け、会話が盛り上がる。答えが存在しないものだから、自分たちの趣味嗜好をいかにプレゼンするか、に全力で挑める。

ファストフードのポテトを、キャンプファイアーみたいに組み上げる行動。はたから見たら何が面白いかわからないだろうし、もしかしたら親に怒られるかもしれない。でもそうすることで食べる事自体が楽しくなるのならば、ましてや友達と話すきっかけができるのならば、日常はより豊かなものになっているはずだ。

三人は型を探し求めながら、遊び半分真面目半分で食べ物に向き合う。やっていることは何の役にも立たない。けれども、彼女たちのお食事タイムはとても幸せそうで、充実していて、何より美味しそうだ。それを見守る姉の立ち位置が興味深い。成人済みの姉も学生三人と一緒になってワイワイやっているけれども、学生三人の仲間としては(いじわるではなく)素でカウントされない。

彼女の存在で、子供の時の「どうでもいい」が一番楽しい時間は、大人のそれとは違う、かけがえのない特別なものなのを感じさせられる。

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たまごまご

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