2019.02.16

【日替わりレビュー:土曜日】『灼熱カバディ』武蔵野創

『灼熱カバディ』

何かを茶化して嘲笑い、むやみに遠ざけるものがある。人はそれを偏見という。

偏見は「知らない」「なじみがない」あるいは「表面だけかじった段階で判断する」という、認識の門前払いによって生じる。よく知らないからおかしいと感じ、おかしいと感じるからよく知ろうとしない。そんなループがこの世のあらゆるところに分野やスケールを問わず存在する。

その悪循環を抜け出せるかどうかは、知るきっかけになる事物と、知ろうとする関心とが噛みあう瞬間をどのように生み出すかに尽きるだろう。

そこで、本日紹介する『灼熱カバディ』である。これは日本において我々がカバディという競技の存在にふれるにあたって、いちど読めばもはや読む前の自分ではいられない、大いなる“きっかけ”となる力強さをもった作品だ。

カバディ
インドをはじめ南アジア周辺のさまざまな国で神話的古代から続く伝統深い競技。日本で今より人気が低かったころはとにかく「何か呪文みたいなものをつぶやきながらおかしなことやってるマイナー競技」という位置づけでぐるぐる回されていたものだ。

そんな中、2015年夏から小学館「裏サンデー」で連載開始、マンガアプリ「マンガワン」でも配信中の本作は、あくまでもド直球に、カバディの内容面に取り組んだことで鮮烈なインパクトを叩きだしている。

主人公・宵越竜哉は中学サッカー界で群を抜く有能な選手だったが、勝利を目指す意識の強さからチームメイトとの関係が悪化し、高校に上がるとスポーツから離れていた。ネット生放送の配信主にチャレンジするも人気はいまいちで、くすぶった学校生活が続く……そんな矢先。同じ高校のカバディ部から、わざわざ自宅まで勧誘が押しかけて宵越は見学に引っ張りだされてしまう。

最初は、よく知らない競技を話のネタにできるかという軽い気持ちだった。しかし待ち構えていた先輩部員たちが異様な熱量でカバディを推し、ちょっとした取り引きまで持ち出してきて宵越はうまいことカバディを自分で体験する流れに乗せられていく。そうして、実際にふれて分かることがあった。

カバディは、ネタスポーツなんかじゃない!

この競技の作りは、シンプルでどこまでも奥深い。大きな枠組みとしては、二分したコートの内側で2つのチームがターン制で相手方選手へのボディタッチを狙う変形鬼ごっこである。

例の「カバディ、カバディ……」は息継ぎなしで連呼できる間だけ攻撃が許されるタイムリミットとなり、限られた時間空間内で攻撃側がどこへどう追い込み、守備側がどう回避するか。

味方との連携を含めて瞬時に無数の選択肢から行動をとるスピード勝負頭脳プレイに加え、敵陣地でタッチしてから味方側の陣地に戻れるか、その前に組み付いて動きを封じられるかで決まる点の奪い合いに大変なフィジカルも要求される。

レスリング系の格闘技に通じる要素を含み、実際に劇中でも「走る格闘技」と異名が掲げられるほど。試合シーンの大胆なアングルとパワフルな演出によって、われわれ読者は宵越と共に、「カバディ=タフなスポーツ」としての迫力・魅力を叩き込まれていくことになる。

そこで効果的なのが、宵越の態度だ。最初こそカバディをよく知らずに軽く見た彼だが、いったん認識をあらためると当事者に対して誰よりも真摯な目を向ける。

「…甘くねー世界だな…」「マイナーだからこそ、少ないチャンスに懸ける必死な連中が多いんだろ」

宵越は、カバディは初心者だがサッカーでは一級の元選手である。強豪校でも弱小チームでも関係なく、「必死な人間こそが強い」ということを、すでに知っている。だから宵越は、サッカーでもカバディでも、いったんやるとなったら手を抜かず、必死にやる……そして自分と同じ次元で必死な仲間がいて孤独にならない場として、カバディ部という土俵が立ち上がるのだ。

上に挙げたセリフが出るのは第4話、部のメンバーで買い物に行くだけの静かなエピソードだが、題材と主人公がガッチリかみ合う瞬間をとらえた印象深い回なので注目してほしい。

そして本作にふれた読者もまた、カバディをナメた言説にふれたら「いや、カバディってのは……」と物申す側にまわりたくなる確率がぐんと高まるだろう。それはこの作品が、カバディをひとつのスポーツとして丁寧にあつかい、またスポーツ青春少年マンガとしての基礎もおろそかにしないからこそ生まれる感化の力だ。

それを成り立たせた作者の誠実な取り組みに、敬意を表したい。

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miyamo

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