2019.03.01

【日替わりレビュー:金曜日】『数字であそぼ。』絹田村子

『数字であそぼ。』

数学は好きですか?

数学、好きですか? 私は大の苦手で、数学の授業がずっと苦痛でした。それでも無茶なことに、高校で理系受験コースに進んだもんだから、その後大惨事ですよ。数ⅢCのテストで0点連発して、文転を余儀なくされましたとさ。というわけで、未だに「数学苦手」って意識が強いのですが、コンプレックスの裏返しか、数学がテーマの読み物って結構好きで、ついつい手を伸ばしてしまうんですよね。

そしてなんと言っても、数学を扱っている作品は当たりが多い

『数学ガール』とか『博士の愛した数式』とか、最近だと『はじめアルゴリズム』とか。そしてなんと言っても『フェルマーの最終定理』。結構な文章量のある作品なのですが、むちゃくちゃ面白くて夜通し読んじゃったりしました。で、そんな数学作品群の中に、あの絹田村子先生が突っ込んできましたよ、と。

非凡さが招いた挫折

主人公・横辺建己は京都の名門・吉田大学理学部に合格し、意気揚々とはじめての授業に向かいます。ところが、「微分積分学」の高度な授業を1ミリも理解できず、はじめての挫折を味わうことに。

これまで勉強がわからないなんてことのなかった、挫折知らずの秀才は、この一件がトラウマとなり速攻で休学。そしてそのまま2年が経過。休学生活も板についた頃、大学から届いた長期在学者向けの面談を機に、再び数学に向き合い、卒業を目指すことにするのですが……というお話。

地元じゃ負け知らずの秀才が、天才たちの集まる大学に行って挫折を味わう……というのは現実でもよくある話。とはいえ主人公の横辺くんは、単に名門大学で埋もれてしまう程度の凡才だったというわけではなく、とある非凡な能力を持ち合わせています。それが、「記憶力」

一度見たものは忘れないというほどに、とにかくその抜群の記憶力だけを頼りに、これまでの授業や受験を切り抜けてきた横辺くん。そのため、問題は解けるけどその根本は理解出来ていないというやつで、大学に入って「考える力」が求められるようになると、とたんに脆さが露呈して挫折一直線という。

驚きの留年率

理学部に通う以上、数学は避けては通れません。2年という長いブランクを経て、改めて一般教養の授業から出直しを図る彼ですが、そこで同じく2年浪人をしていたという北方と出会い、共に卒業を目指していきます。

この北方ですが、勉強ができないというわけではなく、単にやる気が無いだけのクズ野郎という感じ。2年間取得単位ゼロなのですが、その理由はスロットにハマっていたから。数学でつまづく横辺に対し、ちょこちょこと良いアドバイスや、良からぬアドバイスを与えてくれます。

その他にも、奇人変人が多数登場。そして当たり前のようにみんな留年してるっていう。実際理系の留年率ってめちゃめちゃ高い印象があるのですが、京都大学(作中では吉田大学となっていますが、京都大学がモデルなのは明らか)ともなると、やはり群を抜いて留年率が高かったりするんですかね。

脱力系数学マンガ

数学マンガという括りではあるのですが、絹田村子先生の作品ということからも分かる通り、数学の理論を細やかに解説するようなものではなく、数学に関わる人たちの苦しみや悩みみたいなものを、面白おかしくゆるく描くというコメディとなっています。

このへんの力の抜けたテイストは相変わらずで、熱量や数学愛に包まれたそこらへんの数学作品とは一線を画する内容となっています。

話題としても、数学一本というわけではなくて、留年していることを家族に明かせないでいる悩みとか、テストを切り抜けるために過去問を売っている人に会いに行くとか、単位を取るために特別授業に参加するとか、いわゆるちょっと残念な大学生活の一面みたいなネタがちょこちょこと落とし込まれていて面白いんですよ。

私もしがない地方国立大学に通っていたので、どことなく親近感を覚えたりしました。絹田村子先生というと『さんすくみ』のイメージが未だに強いですが、これは結構絹田先生と相性良いテーマなんじゃないかと思いますし、もしかしたらこれが代表作になったりとかしたりしなかったりするかもしれません。

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いづき

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