2019.05.13
【インタビュー】『長閑の庭』アキヤマ香「この二人は『ついばむ』ようなキスじゃないといけない。」【完結&ドラマ化記念】
23歳の彼女が、好きになった相手は64歳の教授でした。
この想いは、「恋」なのか「嗜好」なのか。40歳以上若い女性に手を出していいものなのか。思い悩む二人が行き着く終着地点とは──。
40歳以上の歳の差恋愛を描いた『長閑の庭』がついに完結、5月13日に最終7巻が発売されました。
そしてなんと、テレビドラマ化も決定。23歳のドイツ文学を学ぶ大学院生の主人公・元子を橋本愛さん、41歳年上の大学教授・榊を田中泯さんが演じます。
アキヤマ香『長閑の庭』ドラマ化決定✨https://t.co/zZCbVUMTd5
— Kiss編集部 (@Kiss_kodansha) 2019年5月9日
作品にとっても節目とも呼べるこの記念すべきタイミングで、今回コミスペ!は作者のアキヤマ香先生へインタビューを実施。
64歳の教授に込めた「願い」、内向的で悩みがちな主人公だからこそ描ける深度、そして「キワ」を大切にすることで表現される心の距離感について。ゆっくり、赤裸々に語って頂けました。
榊教授には自分の願いを盛り込んだ
──まずは、作品ができた経緯について教えてください。
アキヤマ香先生(以下、アキヤマ):以前、本誌で映画を紹介する企画があって、そのときの作品が『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』だったんですよね。
いまの担当編集さんとその打ち合わせをしながら、主演のマッツ・ミケルセンさんがとんでもなく格好良かったね、と盛り上がっているうちに、実は私は歳上のおじさまが好きなんです、という話に行き着いて。「じゃあ、歳上の男性に恋をする作品を考えてみませんか」と提案してもらったんです。
──偶然にも性癖が作品のネタにつながったんですね。アキヤマ先生は他にも『片恋グルメ日記』などおじさま萌えの作品を描いていらっしゃいますが、ご自身の中で歳上好きだと気づいたのはいつ頃からですか。
アキヤマ:はっきりと自覚したのは、小学生の頃に『あぶない刑事』の柴田恭兵さんが好きで仕方なかったときですかね。ただ、もっと幼い頃からキャプテンハーロックがたまらなく萌えたりしていたので、きっとDNAレベルで歳上好きなんだと思います。
──一時期は「枯れ専」という言葉も流行ったと思うのですが、アキヤマさんから見ておじさまの魅力ってどういうところにありますか。
アキヤマ:やっぱり、水分量が多くてツルツルしている若者にはない魅力、ですかね……。歳を重ねたことによる深み、といいますか。円熟している中に哀愁を感じられて、その姿が格好いいな、と思います。でも、どうなんだろう。
枯れ専の立場から言うと、そうやってときめくようなおじさまって、すごく希少種なんですよね。現実ではほぼ遭遇しない。どうしても、歳を重ねるごとに、怒りっぽくなったり、みだしなみを気をつけなくなったり、そういう人が多い中で、ごくたまに、この人は違う、という存在がいて。そういう希少性に萌えているところもあると思うんですよね。
──たしかに、どこかファンタジーな部分はありますね。
アキヤマ:だから理想の王子様なんですよね。こうあってほしいという妄想を、二次元や俳優に求めているところはある。榊教授のキャラクターを考えるときも、やっぱり「こうあってほしい」という私の願いは詰め込みました。ただ、それでいてちょっと現実にいそうな感じも入れて、「完璧」にはならないように気をつけていました。
──厳格な榊教授の表情が時折崩れるシーンがとても好きでした。完璧っぽく見える人が、実はそうじゃない、とわかる瞬間。
アキヤマ:そうなんですよね。おじさまの魅力って、必ずしも完璧さにはないというか。どこか抜けてて、歳上なんだけど母性をくすぐる感じもあるところだと思うんですよ。可愛げというか。
シュバちゃんは動けないけど「深く」悩む
──主人公である朝比奈元子(通称:シュバルツさん、シュバちゃん)は、作中でなんども自分の「好き」が「嗜好」なのか「恋愛」なのか思い悩みますよね。とても「好き」という感情に対して丁寧に描いた作品だなと思っていました。
アキヤマ:ちょっと、悩みすぎなくらいですよね。でも、私自身も自分の感情がわからなくなることはあるんです。たとえば好きな俳優に対する想いって単なる「嗜好」なのだろうか、って。
もし自分の目の前に現れたとき、その人に対する想いは「恋愛」に変わるのだろうか、正直わからない。ちなみに、一度夢に好きな俳優が出てきたことがあるんですけど、私は結婚しているので、「不倫はダメだ」って断っていたりして(笑)。
──夢の中でも体裁を守ったんですね(笑)。少女漫画を読んでいると、わりと自分の「好き」の段階で思い悩むことはない猪突猛進型の主人公を多く見るな、と思うんですけど、シュバちゃんは正反対というか。
アキヤマ:猪突猛進型の方が、動けるからいいんですよね。物語も大きく展開していく。
──頭の中は大忙しだけど、シュバちゃん自身は全然動きませんね。そういったキャラクターって描くのって、難しくはないんですか。
アキヤマ:動いている、という点では同じなので、あまり苦ではなかったりします。物理的に広く動けるタイプのキャラクターと違って、シュバちゃんは悩む範囲も物理的に動く範囲も狭いのだけど、ただ、とても深く深く上下にぐるぐるしながら悩んでいるんです。
──上下にぐるぐる。
アキヤマ:イメージなんですけど、動けるタイプの子は、横に大きく動きながらぐるぐるしていて、動けない子は縦にぐるぐるしている、って感じです。狭いけど、その分悩みの密度は高い。そこまで考えなくていいし、考えることでこじれてしまうのだけど、でもそういう部分が面白かったりもする。性格もそうだし、コンプレックスがある人も、そういう悩み方をする印象があります。
──シュバちゃんは、大人っぽい容姿から黒色ばかり着ていることで「シュバルツさん(ドイツ語で黒の意)」というあだ名がついたりするなど、自分の容姿にどこかコンプレックスを抱いたキャラクターですよね。でも、この作品では「シュバルツさんが黒い服から脱する」という描き方は決してしない。
アキヤマ:それは、この作品がそういう立ち位置でありたかった、ということだと思います。歳の差恋愛もそうですが、「普通じゃない」ことに対してうしろめたくなってしまう、後ろ指を刺されてしまう、悩んでしまう、そういう人に対して、そういう人でもいいんじゃないか、ということが描きたかったんです。
むしろ、普通ってなんだろう。普通じゃなきゃいけないんだろうか、と考えるきっかけにしたかった。それは、同じことで悩みがちだったり、シュバちゃんのような不器用な性格をした私自身を救済する意味もあったと思います。
©アキヤマ香/講談社
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