2020.07.08
【インタビュー】『よふかしのうた』コトヤマ「こういう子、可愛くない?って読者に問いかけながら描いている」
「夜は遊ぶもんだ。遊ぼうぜ 少年」
初めて夜間外出した中2・夜守コウは、ちょっと風変わりな吸血鬼・七草ナズナと出会う。コウの美味しい血を求めるナズナと、吸血鬼になりたいコウ。奇妙な二人の夜ふかしの時間が始まる───。
真夜中に紡がれるボーイ・ミーツ・ガール「よふかしのうた」が「第4回みんなが選ぶ TSUTAYAコミック大賞」のトップ10に入賞! これを記念して、作者であるコトヤマ先生へのインタビューを実施しました。
少年×少女×駄菓子コメディ「だがしかし」に続く2作目の連載。その気負いを感じさせないナチュラルな発言の数々に刮目必至です。
ストレートなラブコメは恥ずかしいので、ひねくれたラブコメを描く
──2020年TSUTAYAコミック大賞でのトップ10入賞、おめでとうございます! 率直なお気持ちをお聞かせください。
コトヤマ:嬉しいです。自分が描いているものが読者さんにウケるかウケないかっていうのは、世に出すまで全くわかりません。だから受け入れていただけたという嬉しさ、安心感があります。
第4回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞でよふかしのうたが10位でした ありがとうございます超嬉しいです これからもがんばります #TSUTAYAコミック大賞 https://t.co/sx4XzMx94q pic.twitter.com/c34zQO5jYm
— コトヤマ (@cot_510) June 17, 2020
──投票に際して投稿された応援コメントを一部抜粋してお伝えします。「静かに描写されるこの『夜』感が癖になる。ちょっとひねくれたラブコメっぽさが良いスパイス!」
コトヤマ:ひねくれたラブコメが描きたいと思った結果なので、伝わっていて嬉しいですね。
──ストレートなラブコメを避けた理由はあるんでしょうか?
コトヤマ:私の性格的に、ストレートなラブコメって恥ずかしくて描けないんですよね。
──「絵がエロい。見せ方が上手い。着衣エロ。」「エロい」といった感想もちらほら。『だがしかし』と比べるとエッチな見せ方が増えているような気がします。
コトヤマ:意識して変えたわけじゃないんですけれども、そうですね、自分の好きなスケベを、スケベに描けたらいいなって気持ちでやってます。
──(笑)。フェチズムに関しては、ご自身の趣味を全開にして描かれているんですか?
コトヤマ:ん~どうなんでしょう? 趣味を全開にしちゃうと、たぶんマンガじゃなくなっちゃうと思うんですよ。『だがしかし』の頃から「好きなものを隠しながら出す」くらいの心構えで描いています。
自分の好きなものを、足したり引いたりを繰り返している感じですね。全開にしているつもりもあるし、全然出してないつもりもあって……その間で揺れているのかも。
最初は「団地」からだった。日常の中の非日常としての「吸血鬼もの」
──『よふかしのうた』がスタートしたきっかけから伺えればと思います。最初の着想はどこからだったんですか?
コトヤマ:一番最初は「団地が描きたい」でした。でも団地だけだと、どうにもちょっと少年マンガ的じゃなくなっちゃうっていうのがあって。
──「団地」という言葉からは、少し昭和っぽさを感じる印象もあります。
コトヤマ:もともと団地が好きで、ちょっと不思議な雰囲気に惹かれるんです。昔っぽいってイメージはあるかもしませんけど、別に今でも、どこに行っても団地は残っていますし、そういうのを見るのが好きなんです。大きい団地って、一つの街みたいになっているじゃないですか。
──コミュニティーになってますよね。
コトヤマ:あれがなんかいいな、描きたいなって。そんな時、何の理由もなくポン! っと「吸血鬼が描きたい」って思ったんですよ。吸血鬼って夜に活動するじゃないですか。夜の時間帯に子供を夜に出すってなったら、夜ふかしするしかないって流れですね。
──数珠つなぎのように決まっていったんですね。以前からファンタジーを描きたかったということは?
コトヤマ:日常の中に非日常を入れたい思いがあって、吸血鬼をガチガチにファンタジーとして入れたいわけじゃないんです。『だがしかし』の時と考え方は一緒で、あの時は「枝垂ほたる」がファンタジー要素だったんだろうなって思います。
──夜の景色やセリフ回しなど、情緒や余韻を感じさせるのが魅力的です。『だがしかし』後期のエモーショナルな部分が、『よふかしのうた』では最初から前面に出ているように感じるんですが。
コトヤマ:そうですね、昔からエモかったり雰囲気的なものが大好きなんです。デビュー前に趣味でマンガを描いていた時は、完全に雰囲気だけの内容になっちゃってました。そんな反省もあって、『よふかしのうた』では情緒的な様子は出しつつも、バランスが崩れないように心がけてます。
──その調整は難しそうですね。
コトヤマ:最初にボツになった第一話があるんですけど、それはもっと『だがしかし』寄りの、ギャグ強めでバカバカしいノリだったんですよ。でも後に繋がらない一話目だったのでネームを作り直したって経緯があります。
──モノローグが多いのも、エモさに繋がっていると感じました。
コトヤマ:最初は意識してなかったんですけど、モノローグを編集長に褒められて、「やったあ!」って多用するようになりました(笑)
精神的に自分よりも強い存在としてナズナを描いている
──七草ナズナは、どういう設定から決めていったんでしょうか?
コトヤマ:キャラを作る時は、まず自分が好きな人間を考えつつ、仲良くなりたいって思える人を想定しています。ナズナもその一人です。ヒロインに対して、精神的に自分より上ってことをいつも考えちゃうんです。
──枝垂ほたると同じく、女の子側に主導権がある関係性ですね。
コトヤマ:はい。自分の精神年齢が低いからだと思うんですけど、自分より強い存在としてナズナを描いています。
──ナズナの、下ネタは口にするけど恋愛トークが苦手なこともユニークで面白いです。
コトヤマ:恋愛が主軸のつもりで『よふかしのうた』を描いているので、ナズナが恋愛慣れしていたら、物語がすぐ終わっちゃうかもってまず思ったんですよね。簡単に完結しない要素が欲しかったんです。
──ナズナのマントっぽいパーカーがカッコいいです。『だがしかし』の尾張ハジメもたびたびコートを着ていましたし、コトヤマ先生の好みの要素かなって勝手に想像したんですけども。
コトヤマ:どちらも好みなんですけど、大きいパーカーとコートって、別々の要素なんです。ハジメさんのコートって社会人女性が着るヤツじゃないですか。あれはその良さとして認識していて(笑)、ナズナのパーカーはストリート系としての良さなんです。
──なるほど、確かにそう伺うと、別々の種類の良さですね。
コトヤマ:パーカーみたいにぶかぶかの服を着ていると、脱いだ時に隙間が大きく出るじゃないですか。服の隙間が好きなので、それが描ける構図になった時はテンションが上がります。「なんかエロいよな」って(笑)
──そこがグッとくると。次に主人公の夜守(ヤモリ)コウについてはいかがでしょうか。
コトヤマ:コウは気軽な人間にしたくて、外見に気を遣うでもなく、適当にジャージを羽織って短パンで歩いている子供って認識で描いてます。
──引きこもりですが暗い性格でもなく、ニュートラルな男の子です。
コトヤマ:学校に行かない人でも、家にいる間ずっと鬱々としているわけじゃないと思うんですよ。なので等身大の普通の十代として描いてます。
──「どこからが友達なんだろう?」みたいに悩む姿が、昔あったなーって共感を覚えました。思春期の悩みとか、リアルな等身大の十代を描けていることに驚くのですが。
コトヤマ:描けているのかいつも不安なんですけれど、もし描けているんだとしたら、自分の精神年齢の問題だと思います。自分は社会に出ていない人間なので、たぶん成長してないからなんですかね。
──アシスタントのご経験は?
コトヤマ:あります。でも服装も自由で、スーツを着るわけでもないですし、みんなで日常会話しながら作業していて、仕事というよりはお手伝いという感覚でした。
©コトヤマ/小学館
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