2019.05.09
66歳新人風俗ボーイの奮闘記!『はたらくすすむ』 安堂ミキオ【おすすめ漫画】
『はたらくすすむ』
第二の人生は「ピンサロ」ボーイ
小さな下着メーカーの営業として四十年の会社員生活を送ってきた主人公・進は、妻に先立たれ傷心の中にいた。四十九日が終わっても四六時中妻のことばかり話し、それまではまるで話す機会もなかった娘にも気を使うように。しかし、それは娘にとって疎ましいことで、ある日友人に「引っ越そうかな」と愚痴を言っているのを聞いてしまった。
進は「シニア アルバイト」で検索し、清掃員のバイトを見つける。これだったらできそうだ、と電話をし面接に行くと、そこはピンサロ「世界観」であった。激しい音楽がかかるギラギラとした店内、半裸状態で客にフェラや手コキなどをする風俗嬢。今まで風俗に行ったことがない進は顔を真っ赤にして驚く。
それこそ最初は偏見をもっていた進だったが、裏で風俗嬢たちがひたむきに頑張る姿を知り、ここで自分も頑張っていこうと考えを改めるのだった。
仕事一筋で家族を省みてこなかった進は、子もちで働く風俗嬢や、父親の話をする若い学生の風俗嬢、薬指に結婚指輪をつけながら平気で客として来る人たちの姿を見るたびに、自分の今までの人生をいやでも思い出してしまう。自分はもっと妻や娘に愛情を向けられたのではないか。自分のことばかり考えていたことを、今更ながら悔やむ。
風俗嬢と仕事終わりにスパに行き、自分が家族サービスをしてこれなかったのは、忙しくて無理だったのではなく、単純に心持ちがなかったからだと気づき泣くシーンはなんとも切ない。
ずっと後悔につきまとわれる進だが、しかし、彼にとってこの風俗ボーイという第二の人生は、まさに再生の記録でもある。風俗嬢の身体を心配して性病検査をするよう促したり、ときには風俗嬢の大学の課題を徹夜で一緒に解いたり、一生懸命働く彼女たちのために自腹を切って熊手を買ったり……それと同時に、娘にも性病の心配や熊手のプレゼントをしたりする(毎回引かれているが)。
戸惑いながら、ときに自分の偏見を覆され恥じながら、進は歩むことをやめない。次第に変わっていく進と風俗嬢との関係性にも心温まる作品だ。
©安堂ミキオ/講談社