2019.06.18
【インタビュー】『初恋ゾンビ』峰浪りょう「二人は恋をやり直した」【完結&17巻発売記念!】
性別を偽った男装女子ヒロインの指宿くん、何だか最近気になる幼なじみの江火野さん、自分の理想の女性像が具現化した存在である「初恋ゾンビ」のイヴ。この3人のヒロインと、省エネ系主人公のタロウを中心に織り成す物語は、甘く切ない──。
誰と結ばれるか分からない緊張感に、時に言葉を無くしてしまうような、青春の最前線を走り続けてきたラブコメが『初恋ゾンビ』です。
6月18日に最終巻である17巻が発売されたのにあわせて、作者の峰浪りょう先生にインタビューを実施。主要キャラの誕生秘話から、先生の漫画家としてのルーツなど、これまで表に出ることの無かったお話が盛り沢山! どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい!
ネームは書き上げる時は一日
──週刊連載を終えての率直な感想をお聞かせ頂けますか。
峰浪りょう先生(以下、峰浪):もう、ほっとしてます(笑)。
──これまでの連載に比べてスケジュール的にはやはりタイトでしたか?
峰浪:そうですね。週刊連載も初めてだったので。それがもう3年半くらいやっていたので、今は虚脱感があるというか。
──1回も休載されませんでしたよね?
峰浪:何となく上手くいきました(笑)。
──おかげさまで毎週水曜日はとても楽しかったです! 初恋ゾンビの休載はないだろうという安心感はありました。
峰浪:似たようなタイミングで連載が始まった『天野めぐみはスキだらけ!』のねこぐち先生も休載無しで連載されているんですが、お互い「休載しないように頑張ろうよ」みたいな感じで励ましあった効果があったかなと。
──「週刊少年サンデー」の二大幼馴染ヒロインが出てくるラブコメだと私は勝手に言っていますが、その2作品は本当にずっと載っているというイメージと言うか、安心感はありましたね。
峰浪:ありがとうございます。頑張ったかいがありました(笑)。
──週刊連載のスケジュールはどういう形だったのでしょうか?
峰浪:作画が3〜4日ですね。ネームは書き上げる時は1日です。その間の2日間でストーリーをどう動かそうかなと考えていたりはするんですが。
──猫と戯れながら考えていたりするんですか? (※峰浪先生は飼い猫の写真をSNSに時折UPしている)
お二人とも、猫の日ですぞ!
起きて起きて〜?#猫の日 pic.twitter.com/5p9wSbo9BA— 峰浪りょう「初恋ゾンビ」16巻5月17日頃発売です! (@ryo_minenami) 2019年2月22日
峰浪:そうですね。でも逆に作業的に「どっか行ってて〜」という時もあって。追い出したりすることもあります(笑)。
──週刊連載中に1匹増えたんでしたっけ?
峰浪:いや、2匹とも確か連載中に飼い始めたんですよね。
──元々猫はお好きだったんですか?
峰浪:どっちかと言うと、犬派でした。実家では犬を飼っていたので。ただ犬はなかなか散歩に連れて行ってあげられないだろうなと思ってそれで猫を飼ったら、今度は寂しいかなと思って、1匹増やしたんです。とても癒やされてます!
編集部側がラブコメディーと銘打っていたので、この作品はラブコメなんだなあと(笑)
──恐らくご自身が始めて挑戦するであろう、ラブコメというジャンルの作品をなぜ描くことになったのでしょうか。
峰浪:これってはっきり言うと消去法だったんですよね……。スポーツとかアクションを描くことを、自分には求められていないと思って。描けないというのありますけど(笑)、何をサンデーに描きに来たのかを考えた時に、人間関係を描くのが得意だなと。
ただそこでドロドロしたのをサンデーで描いても仕方ないので、だったらラブストーリー、それも明るいものをと考えたら、自然とこの形になったという感じですね。
──求められているものと自分が得意なものを少年誌で生かすジャンルを考えていったら、結果としてラブコメになったということですね。
峰浪:元々、私はラブコメディーを描くとは言わなかったんですよね。青春ストーリーを描くと言ったら、編集部側がラブコメディーと銘打っていたので、この作品はラブコメなんだなあと思いました(笑)。
──前作の『ヒメゴト』を描いた作家というイメージがやはり強いと感じていて、SNSでも「初恋ゾンビってヒメゴトの作者が描いてたんだ。意外!」といった感想も見受けられます。
峰浪:未だに言われますね(笑)。このジャンルは本当に選んだわけではなく、結果としてそういう形になったので、意図的にジャンル転換したとかそういうわけではないです。
──元々『ヒメゴト』は「モバMAN」で連載されていた作品です。そこからどういう経緯でサンデーで描くことになったのでしょうか。
峰浪:『ヒメゴト』の時に担当だった編集さんがサンデーに異動になり、その編集さんに「サンデーで描いてみない?」と誘われて。それで一度実験的に読み切りをコンペに出してみて、通らなかったらサンデーでの連載を目指すのはやめようと思っていたんですよ。そしたら通ったので、「あれ、もしかしていけるんじゃないか?」と思うようになりました(笑)。
──ファンの間で幻の読み切りと呼ばれている作品の話ですね。
峰浪:『ハナヨメわらし』ってタイトルでした。
──どこにも収録されてないので、今や読めないという……
峰浪:確かにどこにも収録されてないですね。あの作品も急に少年誌向けに描いてと言われて、描けるものを描こうとしたらやっぱり青春系かなと。そして読み切りなら、ジュブナイルみたいなのが良いかなとなって生まれたものでした。
どういう人になるのかは全然予想できなかった。
──本作はキャラの成長をダイレクトに感じられる作品だったと思います。ある程度このキャラはこういう成長をするだろうなという考えはあったかと思いますが、その想像を越えてくるようなキャラはいたのでしょうか。
峰浪:これは逆に、指宿くんなんですよね……。
──それは意外な気もしますね。
峰浪:出した時は本当に、ただのフェチというか。男装女子が好きなだけで描いたという部分が強かったです。だからもっとボーイッシュな子だと思ってたんですよ。ところが、2〜3巻くらいからめちゃくちゃ乙女になりだして、描きながら「この子こんなに乙女なんだ」と思っていましたね。
──確かに、1巻の時に比べるとどんどんイメージが変わった印象はあります。
峰浪:私自身も、こんな子になるとは思ってなかったし、指宿くんも思ってなかったんじゃないかな(笑)。多分今までバリアを張って生きてきたのに、タロウと会ったことでボロボロと女の子の部分が出てきちゃったというか。
──作中でクラスメイトたちも感じていましたが、指宿くんはどんどん女の子らしくなりました。それは外見だけではなく、内面的にもだったと思います。
峰浪:他のキャラは元々持っている強さ、例えば幼馴染の江火野さんだったら情熱的な部分とかはある意味変わっていなくて、彼女ならこう言うだろうみたいな理解はありました。でも指宿くんは、恋をしてどんどん変わったキャラだったので、最後にはどういう人になるのかは全然予想できなかったですね。
──16巻の指宿くんなんて完全に乙女過ぎて震えました。キス待ち顔は悶絶ものです。
峰浪:1番いやらしい子だったかもしれませんね、結果的に(笑)。
──それくらい指宿くんは、作者にとっても想像できない成長を見せたってことなんでしょうね。
峰浪:個人的な好みはボーイッシュなので、そんなタイプの子だとずっと思っていたんですけど、むしろ江火野さんの方がずっとボーイッシュだったかもしれません。
──ちなみに主人公のタロウはどうでしょうか。
峰浪:週刊連載っていつ終わるか分からないので、タロウはとりあえず作っためんどくさがりというキャラクターのまま、女の子にグイグイ来られて「ハイハイ」って感じで終わってもいいやと思ってたんですね。
──そうだったんですか!?
峰浪:だけどきちんと作品を良い形で終わらせようと決めた時から、タロウも育ってくれないといけなかったので、本気を見せろよと私もどんどん煽るというか、彼を追い込んでいって(笑)。それで本人の蓋が外れたら、今度は私も知らなかった彼の本心がどんどん出てきたなあという感じです。
──タロウをちゃんと描かなきゃと思ったのは、大体どれくらいの時ですか?
峰浪:うーん、どこだろう……。
担当編集:でもやっぱり、9巻くらいじゃないですか?
峰浪:そうかもしれない。江火野さんが自分の素直な気持ちを伝えたことで、彼女を異性と見た時に、真顔になってきたんですよね。本心が垣間見えたというか。
──9巻の江火野さんの素直さに感化されて、タロウの気持ちが溢れてくるシーンが印象的でした。
峰浪:段々イヴに対しても本気で消えてほしくないとタロウが思い始めたり、江火野さんが綺麗だなと思うようになったり、指宿くんにもなぜかときめく……ってなった時から、彼はもう「ハイハイ」的に流されるようなキャラにできなくなりました。
油断すると全部シリアスになる
──物語の終盤はシリアスな展開が続くことも多かったと思いますが、だからこそ16巻の「お泊りコメディ回」が強烈に印象に残ったという気もします。シリアスとコメディのバランスは、どのように意識していたのでしょうか。
峰浪:油断すると全部シリアスになるんですよ。だからもう、担当さんと「ここって何とかしてコメディになりませんかね?」みたいな相談をして。
担当編集:毎回その話はした気がしますね。終盤の方は特に……。
峰浪:でも担当さんも割とシリアスが好きなんですよね。なので、二人で「シリアスでめっちゃいいよね」ってうっとりしている時は、逆に止めようってなります(笑)。
──それはもう、どんどんシリアスな展開になっていきそうですね。
峰浪:素でやるとシリアスになりがちなので、常に意識的にもっと明るくできないかなというのを、一コマ一コマ考えていたりします。
──ちなみに、お二方にお聞きしたいんですが、気に入っているコメディ回はありますか?
峰浪:私は「指宿くんの誕生日回」ですかね。1つの物語としてもよく描けたなと思っていて。馬鹿馬鹿しさと、指宿くんの嬉しい気持ちとか。あとは前々から江火野さんの着物姿をかっちり描いてみたいと思っていたので、それも叶った良い回だなと。
担当編集:私はやっぱり、16巻のお泊り回ですね。指宿くん全開って感じなので。個人的に、指宿くんが好きだからというのもあります(笑)。
──お泊り回は指宿くん好きにはたまらない回ですね。指宿くん好きには、女性ファンが多い印象もあります。
峰浪:女性ファンからは、圧倒的に指宿くん人気が高いですね〜。
担当編集:かなり熱のこもったファンレターも沢山届きました。
──Twitterで検索しても、指宿くんを応援する声が多いです。
峰浪:コンプレックスを持っている子だから、応援したくなるのかもしれません。報われていない人生をずっと送ってきた子なので、報われて欲しいと思ってもらえてるのかなと。
©峰浪りょう/小学館
告白しないだろうなというのは、何となく予感がしていた。NEXT
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