2019.06.21
【インタビュー】『ヴィンランド・サガ』幸村誠「『暴力が嫌い』を描きたかったら、描く世界は暴力に満ちたほうがいい。」【アニメ化&22巻発売記念!】
2019年7月7日(日)24:10より、NHK総合にて放送開始されるアニメ『ヴィンランド・サガ』。原作は、幸村誠先生による講談社「アフタヌーン」連載の作品である。
現代から約千年前の北欧。あらゆる地に現れ暴虐の限りを尽くした「ヴァイキング」の中でも、最強と謳われた戦⼠・トールズの息⼦トルフィンは、幼くして戦場を⽣き場所とし、幻の⼤陸“ヴィンランド”を⽬指す──激動の時代で巻き起こる、本当の戦⼠の物語(サガ)。
アニメ化&最新22巻の発売記念として、6月2日に都内某所で行われたアニメプレミア上映会にてゲスト登壇された直後の、幸村誠先生(ヴァイキング装備)にインタビューを敢行!
暴力を否定しつつも、荒々しいまでの残虐非道の様を描くのはなぜか。トルフィン、トルケル、アシェラッドといった魅力的なキャラクターの見解。そして、14年に渡る長期連載に必要な心構えとは──。
『ヴィンランド・サガ』の深層に迫るインタビュー、どうぞご覧あれ。
ヴァイキングの斧を携帯して職質されたマンガ家・幸村誠
──イベントの登壇、お疲れ様でした! その話よりも前にまず、今朝方に警官に職務質問されたという件なんですが……。
幸村誠先生(以下、幸村):その件ですね(笑)。イベントのために今朝、斧と兜とマントを背負って迎えの車を待っていたんです。そうしましたらお巡りさんに「今日はどちらへ行かれるんですか?」って職質されまして。
「返答に手こずったら俺、今日のイベント出られなくなる!」ってめちゃくちゃ焦りました。
この斧は私が発泡スチロールで作ったレプリカなんですけど、危うく職質で持ち物を調べられたら長引きそうだなって(笑)。
担当編集:「これは、斧だよねー?」って連れて行かれる初のマンガ家になるところでしたね。
幸村:こういう時は、ニッコリだ! ニコニコだ! って笑顔でなんとか乗り切りました。
──もともとは作画資料用として作成されたんですか?
幸村:そのつもりで作ったんですけど、むしろイベントに多用されていますね。マントも自作なんですが、シワの入り方の作画が難しかったから参考にするために作ったんですよ。
籔田修平監督は意思の力を感じる人。アニメ版は間違いない。
──完成したアニメを観たご感想はいかがですか?
幸村:今回のイベントより先に、第4話まで拝見しております。もう本当に見どころが多くて、まず声優さんたちの喉も裂けよと言わんばかりのすさまじい演技力!
重厚な音楽も素晴らしくて、「ああ、ずるいなー音楽! いいなー、音楽欲しいなー!」って羨ましくなりました。マンガを描いていると「ここに音楽があったらいいな」ってよく思うんです。
そして何よりも、絵! 本当に籔田修平監督はじめスタッフの皆さんが、健康を害されないか心配になるくらいのクオリティで描いてくださっています。ある日アフレコ現場にお邪魔した時に、監督が「何日寝てないんだ」って疲労困憊の姿でグッタリしているんですよ。
──『あしたのジョー』のラストみたいな。
幸村:そうそう、真っ白に燃え尽きていて。心配していたら、急に「今のところ、もう少し悲しみを抑えめで」って発言されていて、「こんな状態でもしっかり聴いてる! すごい!」って驚きました。
──妥協を許さない制作現場が垣間見えます。
幸村:籔田監督と初対面した瞬間に、「あ、大丈夫だ」っていうのが直感で伝わったんですよね。途方もなく真面目な方で、全身全霊でやれるだけのことをやる「意思」が非常に強い方。ウィルの力を感じました。
ヘトヘトでアフレコに来ていて、それでも仕事する姿を見て「この方なら間違いない!」と改めて感じた次第です。
──アニメスタッフから内容に関する質問は受けましたか?
担当編集:ヨー(↑)ム戦士団ですか? ヨ(↑)ーム戦士団ですか? とかイントネーションみたいな細かい部分までいろいろ訊いて頂けましたね。
幸村:ちなみにそれは、ヨー(↑)ム戦士団、ですね。
──NHK地上波で、首が飛んだりする描写は修正されるのか、気になります。
幸村:各方面で頑張っていただいているみたいで……本当に全部、自分が悪いって気持ちでいっぱいです。昔の俺、マイルドに済ませろよ!
──(笑)。他のインタビューで「クヌートをマンガより美人に描いてくれ」というオーダーをアニメ制作サイドにされたとのことですが、美人になっていましたか?
幸村:美人ですね! はい、大丈夫です。連載時、クヌートに髭を生やしたら担当編集から「だから売れねえんだよ。わかってねえんだよ、お前は」って説教されて……。
一同:(笑)
幸村:私がその時に返した言葉が「でも、この時代の男性はみんな髭を生やしていましたよ」って、まったく面白味のない平凡な答え!
「髭を生やすのが普通でした」? だから何? マンガでしょこれ!って、今思い返してみるとそうなんですけども。実際トルフィンは、大人ですが髭を剃っていますしね。彼については強そうに見えない方がいいって理由でそうしてますが。
トルフィンの人生を追体験することで、大西洋を渡る覚悟を一緒に感じてほしい。
──改めて、ヴァイキングを題材にしたマンガを描かれることになった最初のきっかけから伺えればと思います。
幸村:デビューした『プラネテス』の1話は読み切りのつもりで描いたんですが、幸運にも続けさせてもらえることになりまして。その頃からヴァイキングをマンガにしたいって気持ちはずっとあったんです。
興味を持ったのは、ソルフィン・カルルセフニ・ソルザルソン(Wikipedia)という実在の人物を本で読んで知ったことですね。
──トルフィンのモデルになっている商人・探検家ですね。
幸村:はい。彼が二番目か三番目くらいにヨーロッパ人で大西洋を渡った人物と言われています。太平洋の向こう岸に国を作るつもりで、永住する覚悟で海を渡った、そんな古い文献があるんです。
彼の動機としては、「赤毛のエイリーク」(Wikipedia)に誘われて「よし行ってみようか」みたいなノリで書かれているんですけど、そんな程度のモチベーションかな? とは疑問に思いますよね。ってことは、マンガで好きに描いていいのかなって。そこに想像の余地が多分にあったことが、興味を引くきっかけでした。
──成人のトルフィンが、困難を乗り越えて海を渡っていく。そこからマンガをスタートさせず、幼少期から始めた理由はなぜでしょうか?
幸村:例えば、一人の青年がヴィンランドに行く話をいきなり始めたとします。私がいかに開拓団のリーダーの気持ちを描こうとも、ほんの数十ページでは、その真剣な一大決心が描けません。
なぜそんな不退転の決意で大西洋を渡るのか。渡った先で何がある? 何をする? そこには非常に強いモチベーションがあるはず。生い立ち、来歴など、いろいろ背負って大西洋を渡ったんだろうと想像したんですね。
間を省こうと思えば省けたかもしれません。ただ省いた分、真に迫って読者に提示することは難しくなります。一緒にトルフィンの人生を追体験していただけたら、彼が西洋一強いまなざしで西を目指していることがご理解いただけるんじゃないかと思います。
担当編集:連載前に幸村さんが奴隷編から描こうとして、当時の担当者が、「そんなマンガが売れるわけないだろ」ってストップさせたと聞いています。
幸村:それは正しい。
担当編集:戦争の溢れる時代に、戦争から遠のいていこうとする商人、更にはヴァイキングから奴隷に一度身を落とした男がヨーロッパから新大陸に目指すという物語を描く時に、いきなり奴隷になった時点から始めても途中で頭打ちになってしまう。
そうでなく、前段としてバキバキに戦争をさせる。そしてトールズという父がいて、アシェラッドという鬼畜に育てられて──、という風にいろんな要素が主人公の人格を形成していることを伝えていく。「なんでこうなったのか」の背景が練られているからこそ、1話目から面白かったんだと思います。
©幸村誠/講談社
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