2018.02.22
【まとめ】幸せのおすそわけ♥ 幸福感たっぷりの「結婚」を描いた作品4選
幸せな結婚生活、憧れますよね。
結婚や夫婦をテーマにした作品は数多くありますが、最近話題になるのは『あなたのことはそれほど』だったり『1122』だったり、どちらかというと不倫のテイストを含んでいるものが多いような印象があります。もちろん刺激的な不倫ものは面白い……けれども、私は今、刺激よりも幸福感を得たいんだ!
そう思っている方がどのぐらいいらっしゃるのかわかりませんが、そんな方向けに、幸せ成分多めな結婚生活を描いた作品をご紹介したいと思います。
『マリーマリーマリー』
あわてんぼうの鍼灸師・リタが往診先で出会ったのは、メガネをかけた怪しげなミュージシャン・森田。出会っていきなりプロポーズをされ、なぜだかリタの部屋に転がり込んできて、その後なし崩し的に一緒に過ごし、勢いで入籍までしてしまうのですが、森田と過ごす日々は、奇妙さと刺激に溢れていて……。
「マンガを読んでいる」というよりは、まるで「ミュージカルや喜劇を観ている」かのような感覚に襲われるのが、勝田文作品の特徴。勝田先生の手にかかれば、穏やかで静かに描かれがちな結婚生活も、目まぐるしく物語が転がる、ジェットコースターのような日々へと早変わりです。
自由奔放に行動する森田が運んでくる非日常的出来事のなかを、どこまでも所帯じみた日常的ヒロイン・リタがドタバタと走り回る様子が面白おかしく、そして何よりキュート。ひとたびページをめくれば、めくるめく物語にあっという間に吸い込まれ、気がつけば読み終わっているなんてことになっていることでしょう。結婚していても、していなくても、一つの”作品”としてただただ純粋に楽しく面白い良作です。
『夫婦サファリ』
「私のマンガをパクったことをバラされたくなければ結婚してください」……そう脅されて、編集者・日歌(元マンガ家)と結婚することになったのは、売れっ子マンガ家のジョー。日歌は同棲7年のヒモを捨て、ジョーはバツイチの傷が癒えぬまま、夫婦生活をはじめることに。〆切に追われるテンパリマンガ家が暴走する、夫婦コメディ。
『溺れるナイフ』や『ダンス・ダンス・ダンスール』が有名なジョージ朝倉先生ですが、こんな夫婦ものも書いています。(そして現在休載中……再開はいつになることやら……)
これも先にご紹介した『マリーマリーマリー』と同じく、目まぐるしく物語が転がるタイプの勢いに溢れるコメディ。あれおかしいな……夫婦生活って、夫婦ものって、穏やかで安定した雰囲気こそが売りになるはずなのに……。自分の趣味に偏りが……?とまあそんなことは気にせずご紹介。だって面白いんですもの。
主人公のジョーはテンションの浮き沈みが激しいキャラクターで、時に救いようのないぐらい落ち込み、時に抑えきれないほど暴走してしまうような扱いの難しいタイプ。一方の日歌ちゃんはジョーとは対照的に、安定した心の持ち主で、そんなジョーを色々な思惑のもと、優しく包み込みます。脅しからはじまった夫婦生活ですが、新婚旅行に新居の購入、子づくりに子育てと、夫婦であれば直面する様々なイベントを共に迎える中で、二人の絆はより強いものに。
とにかく何をするにもムチャクチャなテンションで勢いのままに突っ走り、不安定な土台の上で全力で踊り回るような、このどうしようもないオフビート感が圧倒的に痛快。これこそがジョージ朝倉だと言わんばかりの快作……いや、怪作です。
『われなべにとじぶた』
役所で働くこず江・29歳は、新婚ほやほや。お相手は、配達員の暎人さん。家事が苦手なこず江に対して、料理上手で洗濯も掃除も得意。まるで熟年夫婦のような、穏やかで息の合った様子の2人ですが、実はお見合い結婚で……。生活も、恋愛も、ひとつずつ積み重ねながら歩んでいく、ほのぼの新婚物語。
こちらは先の2作品とは異なり、穏やかで安定した夫婦生活を描いた作品ですね。お見合い結婚をした2人の、結婚生活におけるちょっとした出来事を微笑ましく描く一作です。
妻のこず江は公務員、夫の暎人は郵便配達員と、職業からして安定を象徴するような2人ですから、その日常も実に庶民的というか、ありふれたもの。
家事の分担の話、子づくりをどうするかという話、一緒に生活してわかった相手の気になるクセの話など、結婚をすれば誰しもが経験するであろう話題に対して、一つ一つ丁寧に向き合い、答えを出していく様子が描かれます。
2人の関係は盤石で、これといって大きなトラブルもなし。どちらかというと幸せな2人の様子を見せられる惚気っぽい作品になるのですが、その様子が実に素朴でささやかなので、嫌味っぽさはなく、むしろこんな夫婦になりたいとすら思わせる温かさがあります。心安らぐ日常生活で癒やされたい方にオススメの一作です。
『くらしのいずみ』
独身女子を描いた『おひとり様物語』の谷川史子先生は、夫婦を描かせても天下一品。あの素朴であたたかでちょっぴり切ない雰囲気が、結婚というフォーマットでもしっかりと機能しています。
本作で描かれるのは、異なる7組の夫婦の物語。出来すぎた妻に夫が色々と疑念を積み重ねてみたり、男らしい妻が夫に近づく可愛らしい女性に危機感を覚えたり、とある事情があって仮面夫婦をしている2人だったり、いきなり妻が出ていってしまい戸惑う夫だったり、年の差夫婦だったり、妻に先立たれた夫だったり、描かれる夫婦の置かれた状況は実に様々。
そしてどの物語にも共通しているのが、もれなく感動できるというところ。描き込みの密度がすごいわけでも、突拍子もない設定や展開を入れているというわけでもないのですが、20ページ前後の中でじんわり切なさを積み重ね、最後にグッと救いを見せ、泣かせてくれるんですよねぇ。
それも切ない感動もあれば、ただただ幸せな感動もあり、感情の着地点の振れ幅も話によって大きく変わるところがポイント。
1冊で感動を7回も味わうことが出来るのですから、読み終わったときには心が洗われすぎてもはや別人になっているかのような感覚です。数々の感動的な短編集を送り出している谷川史子先生ですが、その中でも特にオススメしたい1冊です。
以上、4作品をご紹介しました。結婚は本来幸せなものだと思うのですが、幸せなことを、ただ幸せだと描くことの難しさってあると思うんですよね。
何もなければ退屈になってしまうし、幸せアピールが激しいと惚気けすぎてウザくなるし、突拍子もないイベントを投入すると、途端に現実味と説得力が無くなってしまう。それぞれを、作者さんなりの配分でバランシングして、エンターテイメントとして仕上げている……今回ご紹介した4作品は、どれも物語としてきちんと面白い作品になっています。読む際に、そんなことも頭の片隅に置いてもらえると、より作品を楽しめるかもしれません。
©勝田文/集英社, ©ジョージ朝倉/祥伝社, ©山田可南/集英社, ©谷川史子/少年画報社