2018.11.29

【まとめ】少女マンガ家が語る!「押し倒したくなる男子キャラクター」が登場する作品

私は健康な成人男性である。健康な成人男性なのでマンガの女性キャラクターに強い興奮を覚える時があり、それは生物学的に当然なのだが(当然なのだが!)、しかしもちろん、こういった感情を覚えるのは男性読者に限られた話ではない。

今回、お話を伺ったのは少女マンガ家の細堀ゆかり先生。「マーガレット」にて『僕だって、キスしたい。』を連載中の作家である。作品のあらすじはこんな感じだ。

『僕だって、キスしたい。』1巻書影

「学年一の美女に、押し倒され全てのハジメテを奪われる…。」──高1の晴一は、誘われた合コンで学年一人気の美女みほと出会う。みほに恥ずかしいシーンを見られてしまうが、晴一を気に入ったみほは「私が愛してあげる」「彼女にして」と深いキスをしてきて!?

そう。まさに「男子を押し倒す」ことに重点が置かれた作品なのである。少女マンガもイケメンヒーローに救われるパターンばかりではない。女性には女性の「押し倒したくなる男性像」が存在するのだ。

ここに注目した筆者は細堀先生への突撃取材を敢行。「どういう男子を見たら押し倒したくなるんですか!?」と質問したところ、こんなことを聞かれたのは初めてだったのか、細堀先生は大変に悩み、熟慮し、長考した。

そして、その結果、挙げてくれたのが、以下の「押し倒したくなる男子の3要素」である。

押し倒したくなる男子の3要素

1.自分にあまり自信がない
2.女子に対しての欲求があるが、それを上手く表現できない
3.誰に対しても基本的に優しい

これらは一要素だけではダメで、複合することで「押し倒したくなる」キャラクターになるという。では、その要素を一つずつ見ていこう。

1.自分にあまり自信がない

細堀ゆかり先生(以下、細堀):「少女マンガのヒーローはイケメン設定や人気者設定が多いんです。そういうマンガは私も好きなんですけど、私自身が自分にあまり自信がないので、『こういう人が現実にいたらいいのになぁ』って憧れはするけど、共感はできなかったりします

でも、自分に自信のない男の子だと共感ができます。共感して認めてあげたくなるんです。」

2.女子に対しての欲求があるが、それを上手く表現できない

細堀:「少女マンガのヒーローは、最初はあまりヒロインのことを恋愛対象として見てないことが多くて、ヒロインを恋愛対象として認識し始めるところから物語が動き出すイメージがあります。

一方で、最初からヒロインを恋愛対象として見ている場合ですと、『女子が自分のことを想ってくれている』『でも、それに上手く応えられない』というところに読んでいてもどかしさを感じるんです。『えいっ!』って押し倒したくなりますね!

3.誰に対しても基本的に優しい

細堀:「これが一番重要かもしれません。自分よりも相手を優先して、その結果、自分が損を被るようなところがあると、『押し倒したい!』って気持ちになります。

ここの『押し倒したい』は、『君の優しさを私だけは分かってあげたい』『肯定してあげたい』『守ってあげたい』の感情のごちゃ混ぜですね。」




細堀先生の話を聞いていて、「なるほど」と思ったのは、これは従来の典型的少女マンガからの構造の逆転なのである。

3の要素が一番分かりやすいが、例えば典型的な少女マンガだと「ヒロインはすごく頑張っている」「しかし、周りからは不当な扱いを受ける」「そんなヒロインの苦境と頑張りをヒーローだけは理解している」といった構造になり、女性読者はヒロインに自分を重ねて、庇護者たるヒーローへの憧れを得る。

一方で、「押し倒したくなる」作品の場合は、女性読者はヒロインに自分を重ねるところまでは同じだが、「頑張っているが不当な扱いを受ける」のはヒーローの側である。作中のヒロインがヒーローの頑張りを「認める」ことにより、ヒロインの感情と行動に読者が共感を覚える(私も認めてあげたい=押し倒したい)という作りになっているのだ。

では、具体的にどんなマンガの男子を押し倒したいのか、細掘先生にさらに尋ねてみた!

思わず押し倒したくなる男子マンガ3選!

『彼女、お借りします』

細堀:「これは少年マンガなんですけど、彼女に振られちゃった男の子が、寂しさのあまりレンタル彼女サービスに申し込むんですね。そこで出会ったヒロインとデートするんですけど、男の子はヒロインに惹かれながらも、相手が仕事でレンタル彼女やってることへの葛藤もあって、結構、二人はケンカもするんです。でも、何度か彼女をレンタルするうちにヒロインの本当の良さに気付いて好きになっていく話です。

で、この男の子が元カノから、みんなの前で小馬鹿にされたりするんです。けど、彼は自分を責めてしまい、相手に言い返せないんですよ。それをヒロインが庇ってあげるんです。男の子は『俺物語!!』の猛男くんみたいな『明らかなイイ人』ではなく、『実は根はイイ人』って感じなんですけど、そういうところを『私だけが分かってあげてる』という気持ちになるんです。

元カノが悪いコなのもあって、『もうそんなコいいじゃん!』『私にしなよ』って気持ちで押し倒したくなります!」

『3D彼女リアルガール』

細堀:「こちらは少女マンガです。ヒーローはオタクの男の子で、周りからはそれをバカにされてます。ヒロインはギャルの女の子で、ヒロインの方から『付き合って』って言って、ヒーローの方は『遊ばれてる』と思いながらも、ヒロインのことを好きになっていく……みたいな話です。けど、彼女からは半年後に転校することを告げられます。両想いになってからも、『半年後、この幸せな時が終わるんだろうな』という思いがあって、そこに切なさがあるんですね。

このヒーローもやっぱり根が優しくて、他の女の子にも優しく接しています。ヒロインもすごく良いコなので二人を応援したくなります。自分への自信のなさや、他者への優しさが押し倒したくなるポイントですね。

ただ、このヒーローは恋を通じてどんどん成長していって、友達もどんどん増えていき、普通にかっこいい男の子になっていくんです。途中で逆にヒロインの方が自信を失ったりもするので、『押し倒したい』欲求で言うと、最初の自信がなかった頃のヒーローの方が欲求は強いかもしれません。」

『分裂ラバー』

細堀:「最後に変わり種の作品を紹介します。これは実際にヒロインが男の子を押し倒してる作品です。

設定的には、欲望とかの我慢を溜め込むと、体が分裂して、分裂体が欲望のままに振る舞っちゃう世界での高校生の話なんですけど、男の子とヒロインがお互いに相手のことが好きなんですね。それで、男の子は分裂しないよう必死に頑張ってるんですけど、ヒロインの方が耐えきれずに分裂して、みだらモードになって男の子を押し倒すんです。

男の子の方は自分の気持ちをあらわにしないように必死に頑張ってて、その欲望がすごく可愛く見えて『我慢しなくていいよ!』って思うんですけど、そこでヒロインが実際に男の子を押し倒しちゃうので読んでてスッキリするんです。」



細堀先生による「思わず押し倒したくなる男子マンガ」3選、いかがだっただろうか。女性読者の方も「言われてみれば、男子を押し倒したい気持ちあったわ」と思われたのではないだろうか。人それぞれ、色んなタイプの「押し倒したい男子」キャラがあると思うので、そういった作品を探してみるのも面白いかもしれない。

なお、細掘ゆかり先生の男子押し倒しマンガ『僕だって、キスしたい。』は単行本1巻が好評発売中です。

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この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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