2019.06.21
【インタビュー】『ヴィンランド・サガ』幸村誠「『暴力が嫌い』を描きたかったら、描く世界は暴力に満ちたほうがいい。」【アニメ化&22巻発売記念!】
アシェラッドは作者の意図を超えた行動を取る、不思議なキャラクター
──レイフも違う意味で、安心できる良心のような存在でホッとします。
幸村:史実のレイフ・エイリクソンはおそらく最も有名な北欧人の一人だろうと思われます。ただ彼は、戦士という性質は非常に薄かっただろうと想像はつきました。冒険家のイメージが強くて、そこから肉付けしていったんです。
背丈は低くて、体格に恵まれてはいないけど、元気ハツラツとした風で。未知のものを求めている性質がある人物なので、イメージさせる材料には欠かなかった気はします。
──史実のキャラクターといえば、グズリーズもそうですね。
幸村:ようやく死なない女の人が出てきました。このマンガ、女の人が出てくるとすぐ死んじゃうんですよね……。死ぬか売られるかする……酷いマンガだな!
トルフィンと共にヴィンランドまで行く女性なので、まず元気で、船に乗って旅をすることに意欲的だったのではないか。そういう感じで進めていくと、グズリーズはああいう跳ねっ返りな性格の子になりました。
──トルケル同様、人気キャラクターだと思うアシェラッドについては、いかがでしょうか?
幸村:登場人物は全員、「トルフィンにとってどういう人間が必要か」を基準にしているんですが……アシェラッドは難しいですね。全キャラクターの中で、アシェラッドだけはちょっと違う感じがしています。
彼はトルフィンを鍛えて導く存在です。幼くて視野狭窄な若い頃のトルフィンに変わって、話を牽引することが私がアシェラッドに与えた使命です。彼はその役割を果たす上で、トルフィンの仇であり父親であるという二面性を持ちました。
仇であり父親、それが最適だったんですね。憎んでるんだか可愛いがってるんだか。悪人なのか善人なのか。バカなんだか利口なんだか。描いていけば描いていくほど、父親なんだか敵なんだか曖昧になっていくんです。アシェラッドはそうした矛盾をたくさん抱えたままなんですが、そのままでいいという気がしています。
──まさに、あだ名通りの「灰色」といった印象です。
幸村:私がアシェラッドにいちいちお伺いを立てて、「お前どうする?」って訊くと、「俺ならこうする」って面白い解を出すんですよね。
スヴェン王をやっつけて、クヌートの新時代を導くまでが彼の役割ではありました。そこに当然トルフィンは、駆けつけるだろう。その時アシェラッドはトルフィンに対してどんなリアクションをするのかと思ったら、「来るな!!トルフィン!!」なんて言うんですよ。
幸村:「あれ? お前のトルフィンに対する気持ちはなんなんだ?」って。あれは描いていて本当に珍しい体験でした。
アシェラッドは舵が効かなくて、言うことを聞かない癖に役割は果たすし、面白い行動を取る。それが不思議で、偶然の産物のような気がします。
──よく「キャラが勝手に動く」って言い方がありますけど、そういうことなんでしょうか?
幸村:ハッ! 今までマンガを描いていて気付かなかったけど、アレがそうだったのか! キャラクターが動くってああいうことなんだ!
アシェラッドの敗因は、自分のスタイルを崩したこと
──途中でアシェラッドの運気が下がったことが気になります。彼はどうして途中でしくじったのか。しくじらない未来は存在したのか、伺いたいです。
幸村:アシェラッドの運の変わり目は、クヌートを奪取してトルケルに追われた辺り。クヌート殿下を守って逃避行なんてことは予定になかったことでしょうけども、ウェールズに逃げるまでは彼の想定でした。
──マーシア伯領を突っ切らずに、あのまま北上してデーン支配域に入るルートを取っていれば、トルケルから逃げ切れたんじゃないかなと。
幸村:雪に焦って近道をしたと言ってましたけど、なにか邪念が入ったのかアレがまずくて、うまく歯車が回らなくなったきっかけだろうと思います。トルグリムも「らしくねーぞアシェラッド。あんたそんな必死な男じゃなかったろ」って言ってました。要はアシェラッドが、自分のスタイルを崩したことが敗因です。
──アシェラッドの必勝の型とはなんでしょうか。
幸村:それまでのアシェラッドは、勝ちの薄い戦からはさっさと手を引くし、物事に拘らない。世の中をスイスイ渡って漁夫の利を取っていくタイプです。
そんな男だったはずが、積極的に大きな世界情勢の流れの中へ身を投じる気になった。それは非常にアシェラッドらしくない。クヌートという駒を手に入れて欲が出た。それが運気の分かれ目だった気がしますね。
──もともとアシェラッドの人生の目的は、アルトリウスの子孫としてウェールズ領を再興させることなのかなって推察したんですが。
幸村:アシェラッドの人生の目的は、彼が美しくないと判断した者たちを皆殺しにすることだと思います。ヴァイキングたちはもちろん、気に入らない人間を皆殺しにするのが彼の最後の望みだったように思えます。
──狡猾さの裏にそんなことを考えていた……。
幸村:でもそれは彼の夢想の中にあったことで、具体的な行動はそれまで取っていなかったはずです。ところがクヌートとの出会いが、「俺がこの世界を変えられる、その立ち位置に立てるかもしれない」という夢をアシェラッドに見させた。そこが最大の運気の変わり目だと感じています。
──なるほど、納得です。
少年時代のトルフィンには、加害者意識がなかった
──アシェラッドが勝手に動くという話でしたが、動かなかったキャラクターはいるんでしょうか?
幸村:キャラが動かないことはいっぱいあります。エイナルなんか、ビクともしなくて動かないことが多かったです。彼は強い特徴のない人物です。だからこそ、私が話の展開のために「ここでこれをやっといて。だってお前暇でしょ?」って頼んでも、「駄目っすね」って。「私には私の俳優哲学あるんで」みたいに動かない。お、俺……創造神だよ……?
一同:(笑)
幸村:でもこれは、私が欲をかいたせいなんです。いろいろ便利に働いてもらおうとしたのがいけなかったんですね。スべき者がスべきことをするのが適切で、せざるはしないってことなんです。しないことをやれって言ってもたちまち動かなくなるんですよ。
動かないことを確認してから、「あ、このルートじゃなかった」って気付かされて、舵を切ったりするわけですよ。
──物語の最適解を見つけるまでに、時間がかかるキャラがエイナルなんですね。
幸村:私が悪かったと思ってます。ゴメンな、エイナル、便利に使おうとしたせいで。
担当編集:アルネイズが死ぬときも、役に立たなかったですもんね。
──荒れ狂う暴力の中では、エイナルみたいな一般人ができることってほとんどない気がします。
幸村:トルフィンが戦う時ってエイナルは役に立たないんですよ。「しまったー!」と思いました。やっぱり同じ船に乗るヤツは戦えないとうまくいかないんだ、手足が伸びたりしないとダメなんだ!
──麦わらの一味が羨ましくなってきますね(笑)。
幸村:でもそういうマンガじゃなかったな、これ。エイナルはトルフィンが本気で喧嘩する時に、助っ人することは無理です。エイナルにはエイナルのやり方でやっていくしかない。トルフィンに対する友情と勇気を示せればいいので、具体的にはお鍋をガンガン叩くとか。
──ヒルドとの戦いでは彼なりに体を張っていました。そのヒルドが、現在はトルフィンの命を狙っています。アシェラッドに復讐する少年トルフィンとは逆の立場ですね。
幸村:復讐していた側が付け狙われるようになって、トルフィンは思い知ったでしょうね。彼が子供の頃に一番よくなかったのは、「自分は被害者で、俺があいつをやっつける」って気持ちが強かったことですよ。トルフィン自身に加害者の意識がまったくなかったんです。
それを奴隷編で気付かされて、更に追い打ちをかけてイジメてやれって登場したのがヒルドですね。
幸村:「常に24時間、お前は復讐される側だということを忘れるな」という戒めとして、良い役割を担ってくれています。同時に、「仕方ない、たまには殺すこともあるって行動したら、直ちに殺すからな」ってピースキーパーとして、ヒルドは作者にとっても役に立つ人です。
──ヨムスボルグの潜入でも、戦闘能力が高くて有能さが際だっていました。
幸村:トルフィンのサポート役として、あんなに役立つスーパーウーマンになる予定はなかったんですけどね。遠距離攻撃で、頭もいいし、体力だってあるはずです。凄いなこの人!
でも唯一最大の欠点は、怒りが強いことです。怒りは耳目を曇らせます。あんなにクレバーなのに、ときどき怒りのせいで正確な判断ができなくなる事がある。
──過去のヒルドに起こった悲劇からすると、納得ではありますが。
幸村:全部トルフィンが悪いんです。思い知れトルフィン!
創作のモチベーションは誰でも途中で必ず失う。昔の自分を信じて、それでも形にする。
──連載開始から14年が経ちました。今の心境を振り返っていかがですか?
幸村:運が良かった、運ですよ。よく長いこと続けさせてもらったという感謝の気持ちが強いです。最初に描き始めた時は10年かかると予想していましたが、14年かかっても終わらない。
全4部の構成で、一部が5巻ずつとして20巻でおしまいだと計算していたんですが、今22巻ですよね、計算がどこかで狂っています。
連載開始当初から「いつだよヴィンランド行くの」って途方に暮れて、ヒーヒー言いながらでも手を止めなければ、いつか近づいて来るんですね。それを皆さんに読んでもらえて、連載を続けさせてもらえたのは、温情と運の他に何があろうかと感じます。
──長期に渡り連載を重ねてこられた中で、「これって、本当に面白いのか?」と自分に対して疑問を抱くこともあると思うんです。にもかかわらず強い意志と覚悟で14年間続けられている。長期連載されているモチベーションの原動力を伺えますでしょうか。
幸村:新人さんとお話をする機会に、「私はモチベーション保てないんです」って質問や相談を多く受けます。凄くわかります、私もです。ホントです。
だって私が『ヴィンランド・サガ』面白い、これ最高! ってアイディアがホットだったのは、連載開始よりずっと前の『プラネテス』1巻の頃ですから。「でも昔、私はこれを面白いと思ったのだ!」っていう、その事実だけを覚えています。これだけを信じるしかありません。
──かなりの精神力がいると思います。
幸村:創作している最中に「これ面白いんだっけ?」ってわからなくなるのは、ハリウッドの脚本家だろうが誰でも同じで、例外はありません。例外があるとしたら、思いついたものを3分で形にできる人だけです。
そうでなければ、形にする過程で、必ず初期衝動は失います。それは慣れましたし、慣れなければいけません。
──メモにとって毎日見返すこともせず、心の中で。
幸村:そうです、全部忘れちゃいました。失うものは失う。どうしようもありません。面白かったはずだって事実だけを頼りに、形にしてみて、人様がお読みくださった時の反応を見て、「やっぱり昔の自分は間違っていなかった」って確認します。
──モチベーションを失わない方法はないってことですね。
幸村:中には保ち続けられる人がいるかもしれませんが、知りうる限りでは無いと考えています。だってその方が勇気が出るでしょ? 「モチベーション失ってもいいんだ、それでもみんな描いてるんだ」って思ったほうが、勇気になりますし。
──すごくタメになりました。それでは、最近オススメのマンガを教えてください。
幸村:近頃、机周りに置いてあるのは『進撃の巨人』です。ご存知の通り、最近始まったマンガではありませんが、相変わらず面白いですよね。
諫山創先生はストーリーを監督する力がすごい。大きな物語の流れをコントロールしている技量が凄まじくて圧倒されます。20巻を超えた辺りからの諫山先生の手腕たるや、爪の垢を煎じて飲ませていただきたい。
──もう一点、挙げていただけますか?
幸村:『推しが武道館いってくれたら死ぬ』が超面白い! アイドルとキャンプに行くとか、CDいっぱい買うとたくさんお話できるシステムとか、こんな世界があるんだってカルチャーショックの連続でした。
あと、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』を読んでからアニメの『ゾンビランドサガ』を観たのですが、アイドルカルチャーの予習にもなってよかったです(笑)。
知らなかったら、「なんでこのファンたちは並んでいるんだろう」とか、意味がわからなかったかも。ユーモア、コメディ、センス、女の子の可愛さが詰まっていて、本当に素晴らしい作品ですね。
──最後にメッセージと単行本最新刊の見所をお願いします。
幸村:まずアニメについて。楽々とマンガの面白さを超えている事は言わずもがなですが、観ない人が損をするんです。そこのあなたに損をしてほしくないんです!
NHKなので受信料だけで観られます。観ておくのがいいです。観なさい!
そして、22巻の見所……そうですね。状況が寄ってたかってトルフィンに人殺しをさせようとするところです。どうしのぐトルフィン!? 受け身の主人公!
──本日はありがとうございました!
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) 2019年6月21日
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