2020.08.21
【インタビュー】『スキップとローファー』高松美咲「王道な少女漫画設定を入り口に、心の機微を軽やかに描きたい」
空気を読む境遇、空気を読まない境遇
──キャラクターの一人ひとりが、実際いそうなくらいリアルですが、キャラクター設定の際に意識していることはありますか?
高松:キャラクターは全員、クラスにいたなーってイメージはしてます。
結月は「美人でこんないい子いない」というレビューを見かけたりするんですけど、見た目が整ってるから美人扱いされているけど実はそんなに恋愛に興味がない子や、美人扱いされることに対してうんざりしてる子は実際に周りにいるかなと。
志摩くんは都会ならではの育ち方をした子のイメージです。都会はこう・田舎はこうみたいな差を見せるのはよくないので、すごく気を付けているんですけど、やっぱり美津未ちゃんの性格と志摩くんの性格って、田舎じゃないと育ちえない性格と、都会じゃないと育ちえない性格と決めています。
美津未ちゃんの場合、空気を読まなくていいというか、人口密度的にそこまで隣人に気を遣わなくていいんですね。例えば電車の中でくしゃみをしようが、人と人が離れすぎているので気にならないけど、東京でくしゃみを満員電車でしたら気を遣うし横からキッと睨まれるように、空気を読まなきゃいけない状況が圧倒的に多い。
都会育ちの子から、「都会出身の子より、田舎出身の子の方が自己主張やコミュニケーションが得意に感じる」と聞いたこともあって。
もちろん田舎でも嫌なやつやとんでもないやつもいるんですけど、素直な子はとことん素直に育つことができる。美津未ちゃんは空気を読もうとしていない訳じゃないけど、そのままやっちゃうことがバンバンある。けれど、格好つけようとしてやってることじゃなくて、素直な気持ちでやってるのであまり人から恨まれないし、なんだったらちょっと羨ましいくらいに思われちゃったりする。
志摩くんは空気が読めすぎてしまい、なかなか本心が見えづらくて、見る人が見たらコミュニケーションがすごく下手な子ですよね。気を遣いすぎて、自分が何をしたいのかが言語化できない。周りの求めてることはわかるけど、自分の主張がどうしたら通るのか、そもそも主張をしたいのかが分からないことも。
美津未ちゃんと志摩くんはお互い、ないものねだり的に興味を持っていくんです。
──キャラクターたちの小さい頃もイメージは固まっていますか。
高松:そうですね。自分の学生時代はもちろん、1ヶ月ほど中学校に教育実習に行った経験が、キャラクターに大きく影響を与えている気がします。中学一年生とか、当時は全員怖く見えていたのに、大人になって中学校に行くとみんなかわいい(笑)。
ヤンキーやギャルも全然怖くなくて、みんないろんなバックグラウンドがあって、「カテゴリ」と「気が合う子」は違うことが、改めて見た時に衝撃でした。
自分が学生時代にこういうフラットな目線を持っていたら、もっと別の友達ができてたんじゃないかなっていう気持ちもあって、漫画の中に違う境遇の子をいっぱい置いてみて、何でそうなっちゃったのかとか、どういう家庭環境とか中学時代を過ごしたのかを逆算して考えています。
──ちなみに、設定資料などはありますか?
高松:いや〜参考に何か設定画とか出せればとも思ったんですけど、キャラクターのラフとかばんばん捨てちゃうんですよね……。
でも美津未ちゃんと志摩くんは最初からそんなに変わっていないと思います。美津未ちゃんも眼鏡掛けたらどうだろうとか、ひっつめ髪だったらどうだろうかとかは考えてはいたんですけど、結局いまのスタイルになりました。
本当はもっと真面目な見た目を想像していたんですけど、田舎で育つってそういうことではないのかもて思いだして。
──逆に、最初といまで結構変わったキャラクターは誰ですか?
高松:ミカちゃんですね。どれだけ好かれる人でも気が合わない人っていうのはいるものだし、お互い深く関わって仲良くなることはないけど、ほどほどの距離感でお互い認められるようなキャラクターが欲しいなと思ってミカちゃんを入れたので、こんなに仲良くなるとは思ってなかったです(笑)
──いつのまにかお泊まり会をするほどに。ふたりを繋いだのはナオちゃんの存在が大きい気がします。
高松:ナオちゃんは東京の水があっていた人ですね。トランスジェンダーであり、自分の好きな格好で生きていくには東京の方が圧倒的に向いているし、スタイリストって仕事も東京じゃないとなかなか難しい。
都会だ田舎だみたいな対立はいつどこでも起こると思うんですけど、それぞれ生まれた場所以外での向き不向きもあるとも思っていて、水の合う場所で好きに生きている大人が欲しいなと、ナオちゃんを入れました。生きづらさを知ってる大人として。ミカちゃんと絡ませる気はなかったですけど、勝手に絡んじゃいました(笑)。
誰が誰に救われるか分からないって話をさっきしましたが、仲良くはしてるんですけど、ミカちゃんがこの女子メンバーのなかに深く入るにはちょっと遠慮していた時に、ミカちゃんを救うのは同級生じゃないのかもと思えてきて。ミカちゃんは同級生の前では意地を張りすぎたりかっこつけすぎるので、ナオちゃんが一番しっくり来ました。
──先生自身は都会と田舎、どっちの水があってそうですか?
高松:東京で住んでいるとはいえ、都心なわけではなく、ちょっと田舎のほうが合っているのかなとは思います。もちろん仕事の刺激も多く、同業者も多いのでいろんな話が聞けて、面白いのは完全に都会なんですけど、もうちょっと近所に自然があればいいなと思ったりします。どっちにもいいところがあって、どこでもドアがほしい!
──先生自身と似ているキャラクターは?
高松:自分の中ではミカちゃんとか久留米 誠ちゃんみたいな、どっちかっていうと陰キャラ(ミカちゃんはマインドが陰で、陽をかぶっている)だと思っているんですが、周りからはダントツで美津未に似てる、あれ自分でしょって言われます(笑)。そんな私主観の「普通」、あるあるみたいなのを入れていったら……あれ? みたいな。
『スキップとローファー』の1、2話あたりとか、美津未ちゃんそんなに変かな? って思いながら描いていました(笑)。
最初は手探りすぎて、そもそもキャラクターが弱い、キャラクターをもっと強くしていこうって、連載が始まる前のボツ期によく言われていて、キャラクターって何なんだろうみたいな迷走に入ってしまっていたんです。
そんな時に凄く素直に描いた美津未ちゃんって、自分としては正直、全然特徴ないなこの子って思ってたんですけど、「こういうキャラクターの濃さだよ!」みたいになって、ええ!? って感じでした。
──学生生活の先輩との出会いだったりとか部活何にするとか色んな出来事が詰め込まれていますが、思い入れのあるシーンはありますか?
高松:本当にあったエピソードや主観はなるべく削いでいこうと考えているのですが、個人的には帰省のシーンですね。なくなっちゃうかもしれない風景って意味で作画や空気感に思い入れがあります。
学生生活のエピソードで言うと、クラスマッチでミカちゃんにバレーボールを教わる回。明るいコメディでやってきた中で、このエピソードは暗過ぎるのではと心配したんですけど、一番反応良かったのもこの回で意外なうれしさでした。
──ミカちゃんの言ってるセリフがすごく染みました。「私がいやな先輩の名前をふたり覚えてるうちに、岩倉さんはいい先輩をひとり覚えてる」というセリフにはっとした人、たくさんいそうです。
高松:あれは実際、自動車学校でギャルに感動した思い出を入れているんです(笑)。
自動車教習の教官が怖いと嫌じゃないですか、車って密室なのに。酷い教官がいて、私は最後のアンケートで絶対こいつの悪口書くんだ! って思っていたんですが、二十歳くらいのかわいいギャルに何を書いたか聞いたら、「〇〇さんと〇〇さんが分かりやすく優しくしてくれたから書きました!」って言われて。
私、嫌だったあいつの名前しか覚えてない!と衝撃を受けて、それを入れちゃいました。
ミカちゃんの性格って、嫌なところを自分でも否定しちゃうから、読んで愛しく思えるし、多分ちょっとほっとするというか。
何がいいかとか好かれるかとかも頭で分かってるのにそうはなれない自分や、いいなと思いつつ心の中で「でも私この輪の中に入れないな」って気持ちになる自分がいる。
もしかしたら私以外の人もそう思うかもしれないと思って、ミカちゃんみたいな気持ちを抱えている人も、美津未ちゃんとコミュニケーションをとることができることを描いたら、受け入れてもらえたのかなと。
許し合って、コミュニケーションをしていく
──『スキップとローファー』には学生生活での恋愛や友人関係にとどまらず、幼少期の経験や、どこで育つかなど様々な切り口がありますが、軸にしているものは何でしょうか?
高松:テーマはやっぱり「コミュニケーション」ですね。一人ひとり違う価値観を持った人間が、クラスに40人ぎゅっと集うことでお互いに影響を与えていくという。
一見すると天然な女の子のスクールライフコメディのようですが、美津未ちゃんが最強の主人公で周りにサブキャラクターがいる話ではないんです。
個性の許し合い・許容のし合いというか……、自分に自信を持つことや、アイデンティティを大事にしながら人とコミュニケーションするってどういうことなのかをテーマにしています。
──確かに、誰目線であっても話が進みそうです。『スキップとローファー』はモノローグが少ないので、読者もクラスメイトのひとりとして、みんなのやりとりを見ている感覚になるのかなと思いました。
高松:確かに、ナオちゃん目線で美津未ちゃんを姪っ子のように見ている人がいたりとか、周りに聞いてみても誰に共感して読んでいるのか分散している気がしますね。好きなキャラクターもばらけてるし、思惑としてはうまくいってるのかなと。
少女漫画っぽくしたいという気持ちもありつつ、女性誌の少女漫画よりはモノローグは意図的に少なくしていると思います。この漫画に関しては、ひとりに加担しすぎないこともテーマのひとつなので。
あくまで美津未ちゃんが主人公ですが、できれば他のキャラクターがメインの話も入れながら、それぞれのキャラクターの違う側面も描いていきたいと考えています。
──高松先生のおすすめ漫画や影響を受けた漫画を教えてください。
高松:最近あんまり読めてないんですけど、『スキップとローファー』を描くにあたって一番影響を受けてるのはくらもちふさこ先生の『天然コケッコー』です。
シティボーイが田舎に引っ越してくるんですが、ひとつの漫画でこんなにいろんな人に共感できるんだって感動したんですよね。田舎にいそうな、変わり者なおっさんのシゲちゃんみたいな人をちゃんと描き切るところとか、大好きな漫画ですね。
あとは藤子・F・不二雄先生が私と同じ富山県出身で、どの図書館にも藤子先生の作品が並んでいたので、影響を受けていると思います。特に『ミノタウロスの皿』は、子供心にすごい漫画だなって思ってました。「僕の漫画はお子さまランチだから」と言って青年誌で描いてこなかったらしいんですが、初めて青年漫画を描いてこれかあ! って。
単行本はまだ出ていませんが、「アフタヌーン」ではつるまいかだ先生の『メダリスト』ってフィギュアスケート漫画もすごく面白くておすすめです。
また、自分がスクールライフを描いているからか、すごくファンタジーを読みたくなっちゃって、つくしあきひと先生の『メイドインアビス』を楽しく読んでます。映画も観に行きました。漫画のラフなタッチが想像を膨らませてきて、ハイクオリティなアニメの描き込みで、さらにこういうことだったのかといつも驚きます。
女性作家さんの漫画を読むことが多いのになぜか青年誌で描いていますが、どんなジャンルも大好きです。最初は青年誌ってこうあるべきと思ってボツ続きでしたが、少女漫画も少年漫画も青年漫画も好きだから、『スキップとローファー』にはいろんなジャンルの漫画のいいところを怖がらずに乗っけていこう! と思って描いています。
──最後に読者へのメッセージをお願いします!
高松:基本的に読み切りスタイルの漫画なんですけど、4巻の文化祭編では珍しく長いスパンでキャラクターを掘り下げました。少女漫画や青年誌といった肩書に関係なく、いろんな人に読んでもらえる漫画だと思うので、これからも応援よろしくお願いします!
──ありがとうございました!
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