2020.09.11
【インタビュー】『ウンナ母斑』sacco「望まれずに生まれてきた子が幸せになる方法を考えるきっかけになれば」
第86回小学館新人コミック大賞・青年部門で入選を果たした『ウンナ母斑』。圧倒的な画力で表現された美しい世界で、現世に生れ落ちていく命をはぐくむ小さな天使たちの物語は、美しくも悲しい展開で読者の涙を誘います。
WEB公開に続いて「ビッグコミックスペリオール」19号(9月11日発売)にも掲載が決まったのを記念して、天使たちの純粋な慈悲と愛・無慈悲な現実が同居する本作品を描かれたsacco先生にオンラインで取材を実施!
美しい筆致で表現されたメルヘンでファンタジックな世界観についてや、作品内で描き切れなかった設定、作品に込めた想いなどを語っていただきました。
最初は絵本にする予定の作品だった
──この度は受賞おめでとうございました。受賞作『ウンナ母斑』は新人賞の応募作とは思えないような完成度でした。
sacco先生(以下、sacco):ありがとうございます。
──以前どこかで描かれていたのかと思ったくらいだったのですが、こういったマンガ賞に投稿するのは初めてだったのでしょうか。
sacco:はい、賞に投稿したのは初めてです。一度だけ、思い付きで8ページのマンガを持ち込みのような形でWEBのマンガサイトで見ていただいたことはあります。
──長めのお話は初めて描かれた?
sacco:そうですね。
──初めてで……本当にすごいです。受賞の連絡がきたときの感想はいかがでしたか? 率直な気持ちをお聞かせください。
sacco:まさか入選まで行くとは思っていなかったので、驚きました。担当さんから電話をもらったときは家の中をうろうろしながら受け答えをしていました。
──連絡は電話でだったのですね。やはりびっくりされたんですね。
sacco:自分なりに頑張ったなとは思っていたんですが、初めて30ページを超える作品を描いたので。初めての長めの作品が賞に入るとは思っていませんでした。
──ひとつひとつの絵が美しくて、とても初めてとは思えない作品でした。描き慣れていないという印象がなくて……マンガではなくても、なにか絵の勉強などをされていたのでしょうか。
sacco:絵のほうは、美術大学で日本画を学んでいました。
──美大で専門的に学ばれていたのですね。そこで身に付けた絵の技術は今回の作品にも活かされていると感じますか?
sacco:それはあるかもしれません。日本画の筆で描いた線がすごく好きで、そういうタッチは意識して描いたと思います。
──筆で描く絵画的な絵とマンガの手法は違うような気はするんですが、やっぱり相通ずるところはあったのでしょうか。
sacco:あると思います。デッサンが狂わないように描くというようなところは一緒だと思うので。あとは自分がどういう世界を作りたいのかっていうのは、一枚の絵でもマンガでも同じかなとは思っています。
──作品を作るうえで、これまで影響を受けてきた作品や作家さんはおられますか。
sacco:『ダンジョン飯』を描かれている九井諒子先生にはすごく影響を受けました。個人サイトのころからずっと拝見していて、そこで描かれていた落書きなども好きでした。
あとは『銃座のウルナ』の伊図透先生です。あの作品の光の表現とか陰影のつけ方は、今回の『ウンナ母斑』でも参考にさせていただきました。
──今、オンラインでインタビューさせていただいてる画面に表示されているアイコンのワンちゃんは、作中のアンナかなーと思いながら拝見していたのですが……。
sacco:この絵はマンガができる前にイメージで描いたイラストです。最初はこのお話は絵本にする予定だったんです。赤ちゃんと天使と、それを見守るなにか大きな動物がいる世界ってちょっとかわいいなーって。
──確かに、メルヘンチックでかわいいですね。ではつまりこの作品、全ページがフルカラーで絵本に、という考えがあったということですね。
sacco:はじめはそうですね。ありました。A4サイズくらいの小さな絵なんですけど。
──アイコンのイラスト、雰囲気が柔らかくてすごく素敵なので、それはそれでとても読んでみたいです。
実際に起きた虐待死事件が着想のきっかけに
──では、作品の内容についてなんですけれども。けっこう一読してズシンとくるような、いろいろ考えさせられるような内容だったと思います。
sacco:そう言ってくださる方が多くて、ありがたいです。
──2回目・3回目と読まないと理解しきれないな、となるような重厚なお話でしたが、このお話はどのように生まれてきたんでしょうか。
sacco:マンガの構成とかはよくわからないんですけれど……。さっきも話したように最初は絵本にするつもりだったのですが、その絵本の構成を練っているときに、ある女児虐待死事件が起こりました。
その事件が自分にはとてもショックで、ずっと事件のことが頭から離れなくて。もし天使が亡くなった少女の運命を知っていたらどういう行動をとるんだろうってふと考えて。そこから、その少女が生きていたかもしれない世界を作ってみようかな、と。
──そうだったんですね。では実際に起きた虐待事件のニュースを見て、そこから子どもが生まれる前の世界はどんなだろうっていう、時間の逆算みたいな考えで生まれてきた?
sacco:はい。どうせなら自分が考えられる限りで、精いっぱいのきれいな世界を作りたいなと思いました。そこから作品の風景が生まれてきました。
少女は誰にも守ってもらえなかったように思えて。だから、命を懸けてでもあの子を守るような存在を作ろうと思って。なので、悲しいですけども、主人公のセサルにはああいう行動を取ってもらったというか。私としては、ああするしかなかった部分があります。
──お話が生まれたのもヘヴィーなきっかけからだったんですね。でもそれをうかがったら、このお話の流れが腑に落ちたような気がします。お話は、望まれなかったセサルの赤ちゃんが生まれたところで終わっていますが、あの後の展開は、先生の頭にあったりするんでしょうか。
sacco:最後は私なりに、希望を持てたらいいなと思って。お母さんはしっかり赤ちゃんを抱いているし、付き添ってるのはお父さんなんです。
お父さんはマンガの中では母親になる女性を責めてはいるんですが、命を育てるっていうことにお金がかかることとか責任があるっていうことをわかっているから──高校生の自分じゃそれは難しいっていうのをわかっていて、ああいう言い方になってるという設定の言葉なんです。
──あのシーンで病院にいたふたりは誰なのかずっと気になっていて。あの子のお父さんがちゃんと立ち合ってくれていたんだと知って、ほっとしました。読後からずっと、あのあと生まれた赤ちゃんはどうなるんだろうって心配で心配でしかたなかったんです。作品を読まれた方の中にも、そういう方が多かったんじゃないかなと思います。
sacco:若い両親のことまで描いちゃうとストーリーとしては詰め込みすぎというか、視点がずれてしまうので描けなかったんです。
物語の根底にあるのは仏教の倫理観
──このお話は天使の世界のことがメインだったと思うので、確かにあの終わり方になったのは必然かもしれませんね。今回の舞台になったメルヘンチックな天使たちの世界観は、かなり練って作られたんでしょうか。
sacco:天使っていうとチープな題材になりかねなくて、世界観はしっかり作らないと見る人も飽きちゃうかなと思ったので、どうして天使が生まれたのか、というところから自分の中で考えて作っていきました。
──作品中で表現されていたのは世界のごく一部で、細かい設定は整っているという感じですか?
sacco:細かい話なんですが。7万年前に人間が動物から離れた、「認知革命」っていうのが起きているんです。神秘性を人間が感じた……宗教が生まれた時代というか。そこから概念の世界として成り立っているという風に考えていきました。
設定として、『ウンナ母斑』の世界の天使はもともとは一対で生まれてくるんです。
人間がまだアニミズムを信じていた時代は、ちゃんと2人一緒に天使として活動していたんですが、アニミズムが終わって宗教の時代に入っていったとき──人間が上の生物で、それ以外の動物は下等な生物だとみなした瞬間に、動物と天使の形に分かれてしまいました。それがアンナとセサルです。
──じゃあアンナとセサルは最初から一緒に生まれてきた一対?
sacco:そうです、最初からずっと一緒です。
──そうだったんですね。命は巡っていくという話が作中にありましたが、セサルが神に逆らって赤ちゃんをつれて逃げてしまったとき、アンナが内側から鳥に食い破られたシーンがありました。あれは読んでいて本当にぞわぞわっとするような絵でした。そしてセサルは犬に変わってしまいました。このあと、この子達はどうなってしまうんでしょうか。
sacco:セサルはこれから神殿で一人ぼっちで、20年くらいアンナの復活を待つんです。
──アンナは鳥になったけれどもまた戻ってくるということですか?
sacco:風の巡りと一緒で、雲とか風とかと一緒に世界を旅して、いろんなことをリセットして戻ってきます。
──その時に今の記憶は……。
sacco:持ってないです。アンナは次は天使になって、まっさらな状態で戻ってくるんです。
──では今度は、アンナが天使で、セサルがアンナを見守るという形になるんでしょうか。
sacco:そうですね。そこまでは描けなかったんですけれど。
──そういう循環だったんですね。もしセサルとアンナのペアが神の意向通りに命を送り出していたら、天使としての階級を上がっていったりするんでしょうか。
sacco:します。セサルもアンナも、仏教徒みたいな感じなんですけど、いろんな自分の無知や自然の摂理を受け入れて悟っていくことで成長していくという設定です。
──ではこの2人の成長物語として話を進めるというのも、ページ数があればあり?
sacco:はい、あったと思います。
──設定のお話でもうひとつ。セサルもダミアンも、赤ちゃんのことで悲しくなったり絶望したときに翼が抜け落ちていってかわいそうな姿になっていったんですが、あれもこの世界独特のルールに則ったような表現だったんでしょうか。
sacco:あの翼は飛ぶためのものではなく象徴としてのものです。私がこの世界の倫理観で採用したのが仏教の考え方なんです。
──キリスト教ベースだと勝手に思っていたんですが、根底にあるのは仏教だったんですね!?
sacco:天使っていうと外見はああなっちゃうんですけど、個人的に、輪廻転生とか、仏教の自由の考え方──心が悲しみとか怒りに左右されないことが一番の自由だよっていう考え方がとても好きなんです。
自由の象徴としての翼なんですが、セサルは絶望というか、悲しみに心を捕らわれてしまったので、自分で自分の自由を奪ったということになるんです。なので、自由の象徴としての翼が抜けていくという表現になりました。
──やはり絶望とか悲しみと連動していたんですね。そう思うと切ないです。この世界観で今後、次回作などで別の天使の話や、天使の片割れ側の視点の話などをオムニバスのような形で描くことは考えておられますか?
sacco:ちょっと前までは考えていたんですけれど、考えれば考えるほど、成長に必要な諦めや、命の始まりと終わりのことを考えてしまって、つらくなってしまって……。
──最初がヘヴィーなお話だったので、この世界観で幸せな話なども読みたいなという希望があったんです。個人的には、オムニバス形式でいくつかのお話が出来上がって、それが1冊の単行本になったらすごく素敵だなという気持ちが大きいです。幸せに送り出される赤ちゃんも恐らくたくさんいると思いますので……。
sacco:それを描くとしたらたぶん、絵本かなあと。
──絵本も見てみたいです。形を変えてもこの世界観のお話に浸りたいなという気持ちがありますので、次のネームをって担当さんに言われたら、検討してもらえたらうれしいです。ちょっとした小話や、ほのぼの幸せなエピソードなどもぜひぜひ。
sacco:わかりました(笑)。1~2ページのギャグというか、ほのぼの系のアイデアはたくさんあるんです。
──それ、すっごく読みたいです!
作中の赤ちゃんのような子が幸せになる方法を考えるきっかけになれば
──最初、受賞作として公開された『ウンナ母斑』をWEBで拝見したのですが、紙媒体への掲載が決まったとのことで、おめでとうございます。
sacco:ありがとうございます。Twitterでの拡散のおかげもあると思っています。
──もし多少なりとも紙媒体掲載への後押しが、あのツイートでできたのだとしたら、Twitterをやっていて本当に良かったと思います。あのツイート、アクティビティがすごくて、まだ数字が動いているような状態で。引用して感想を書いてくれる方も多かったです。
小学館の新人コミック大賞(青年の部)の入選作なんだけど、これほんと美しくて残酷で、重いけど目が離せない作品なのでみんなぜひ読んで欲しい……画面がとにかく綺麗なの、なのに悲しいの……。https://t.co/UAv3UVifES
— アキミ (@AKMI0) July 29, 2020
sacco:Twitter上の感想、私も拝見しています。
──子育て世代や、妊娠されている方のアカウントからの反応が多くて、普段やり取りするフォロワーさんとは違うところからの感想がたくさん読めて興味深かったし、刺さる方のところに作品を紹介できたようでその点も嬉しかったです。
sacco:私も嬉しかったです。
──今回応募されたのが青年の部ということで、掲載される雑誌が「ビッグコミックスペリオール」になりますよね。おそらく、お母さんアカウントではないような層にも作品が届くことになると思うんですが、新しく読んでくれる方たちに何かメッセージはありますか?
sacco:私が言っていいかわからないんですが、いま現実にある支援だと、マンガに出てくるような赤ちゃんは幸せになるのは難しい、限界があると思っていて。どういう支援があればああいう子たちを救えるのかなって考えてもらえたら、子を持つ親としても嬉しいです。
──もしかして先生もいま子育て中でしょうか。
sacco:はい、そうです。
──そうだったのですね。『ウンナ母斑』、本当に素敵な作品でした。マンガの次回作や、先ほどうかがった絵本としてなど、いろんな形でこの世界観にまた触れられたらと思っています。
sacco:ありがとうございます。頑張ります。
──こちらこそ、本日は貴重な時間を割いていただきありがとうございました。
サイン入り色紙を読者プレゼント!
今回のインタビューの実施を記念して、sacco先生のサイン入り色紙を1名様にプレゼントいたします!
下記の応募要項をご確認の上、どしどし応募くださいませ!
プレゼントキャンペーン応募要項
【賞品】
sacco先生のサイン入り色紙を1名様にプレゼント
【応募期間】
2020年9月11日(金)~2020年10月11日(日)23:59まで
【応募方法】
以下の2点の手順にしたがい、ご応募ください。
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②公式アカウントよりツイートされた以下のプレゼント情報を、「#ウンナプレ」とハッシュタグを付けて、コメント付きリツイート!
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②このツイートに「#ウンナプレ」と付けて、コメント付きRT!★詳細は👇https://t.co/J4z0TzYRe7 pic.twitter.com/1RoXnyLT74
— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) September 11, 2020
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