2020.10.17

親切さにほっこりする展開にツッコまずにはいられない、「デスゲーム」ネタを題材にしたコメディ!『全然殺伐としないデスゲーム』 酒本さけ【おすすめ漫画】

『全然殺伐としないデスゲーム』

某ネット掲示板を介して15年以上前からよく知られるコピペで「ムシャクシャしてるから、ちょっと猫を虐待しようかと思う」をご存知の方は多いだろう。

拾った仔猫をお湯責めにする、布で擦る、熱風をかけるなどの仕打ちをしたと語る内容で、よく読めばただ保護した猫ちゃんをお風呂できれいに洗ってやった話をしているのだと分かり、犬猫愛好家による一種のツンデレ芸としてほのぼのさせる名文である。

今回ご紹介するマンガも、ちょうどそんな感じで「なんてひどい……いやひどくないな、むしろめっちゃ親切だな!?」と読者にツッコませずにはいられないコメディ。題して『全然殺伐としないデスゲーム』だ。

幕開けはデスゲームのお約束どおり。ある日おおぜいの人間が何者かに拉致され、一か所に集められるところから始まる。彼らはみな親に捨てられ、頼れる大人などいない子供たち。世の中から消えても気にしてもらえないストリートチルドレンだ。

「貴様らにはここである事をしてもらう… 地獄を体験する事になるだろう…」

ほらやっぱりきた、デスゲーム展開! 

ひとつ、勉強地獄。みんなで机を並べて毎日数時間の勉強をさせられる。
ふたつ、殺し合いのゲーム。家庭用ゲーム機の対戦ゲームでしのぎを削らされる(ただし一日一時間)。
みっつ、身ぐるみはがされ熱湯に沈められる。具体的には40℃のお風呂に入れられ、新品の着替えを与えられる。
etc.、etc.

次から次へと課せられる容赦ないデスゲームの数々。なんとおそろしい。あわれな子供たちはこの極限状況を生き残ることができるのか?! ……なんて、ボケてもしょうがないので劇中の子供といっしょにツッコむとしよう。

デスゲームなのに全然殺伐としてない! ただの良い人だこれ!

そう、このデスゲーム主催者が実際にやっているのは、衣食住を完備した施設で快適な生活環境を提供することばかり。学校に行けなかった子供たちに勉強の機会を与え、ほどよく遊ばせ、ほどよく休ませて、健康によく美味しいものを食べさせて……。

言葉では酷い所業をうたいながら保護者として最大限の手を尽くしているのだ。

地獄といいつつ実際は天国を味わわせる主催者はやがて、子供たちから先生と呼ばれ、パパと呼ばれ、慕われていく。

これにより、最初は出オチに近かった喜劇のシチュエーションが、だんだんと一種の孤児院を舞台にしたホームコメディのような趣を帯びていくのが見どころとなる。

さらに第12話までいくと「そもそもなぜ主催者はこんな親切をするのか?」という疑問にかかわる劇中世界の様子が少し示される。要点を言うと“デスゲームをするまでもなく、世界はもともと殺伐としている”というシビアな感性がそこにはある。

世界が子供たちの居場所と命を損なうなら、そんな世界から子供をさらった存在は逆に居場所と命を与えるものとなるという皮肉。作品が寓意的にぐっと深化する一幕だ。

デスゲームを題材に殺伐とした作品が山ほど作られジャンル化したからこそ生まれた、殺伐としないことで笑いを生む優しいデスゲーム空間を、ぜひみなさんも見守っていただきたい。

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miyamo

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