2020.10.21
大ファンだった人気Vチューバーの正体は、全身トラッキングとボイスチェンジャーを駆使した父親で…!?『オヤジが美少女になってた話』赤信号わたる【おすすめ漫画】
『オヤジが美少女になってた話』
俺が恋をした大人気美少女Vチューバーは父親でした
今の時代、バーチャルの世界なら男も美少女になれる。映画「レディ・プレイヤー1」で理想の姿としてガンダムになって戦うシーンがあるが、今の日本ならきっと美少女になりたい人がものすごく多いと思う。ソースはVRChat。
近年話題のバーチャルYouTuber・Vtuberをテーマにしたこの作品は、タイトル通り美少女になっていたのがお父さんだった、という客観的に見たメタなお話。
100万人登録を誇る人気Vチューバー(作中表記)・キヅケヤイの大ファンだったたかし。その正体は父親だった。全身トラッキングとボイスチェンジャーを駆使し、誰もが憧れるキュートな女の子になっている父親。
ただし、たかしから見ると父親が女の子姿でくねくねしている怪しい状態。たかしは純粋にキヅケヤイが女の子として好きだったこともあり、愕然とする。
父親はバレたあともノリノリ。たかしにトラッキング機材と3Dアバターを買い与え、彼を翼夜(よくや)ルナとしてデビューさせる。翼夜ルナはキヅケヤイの妹設定。父と息子の姉妹プレイは地獄絵図だが、家計が支えられているだけにたかしは抗うことができない。
現実だとまだボイスチェンジャーで男女がわからないところまでは技術が進んでいない。とはいえ見た目と動きではどちらかわからない、むしろ女より女っぽい、というVRならではの現象は起きている。いわば「女性の魅力」を男が演じる歌舞伎の女形のようなものだ。
父は女子力表現のために努力をおこたらず、真剣にキヅケヤイを演じている。プロ根性だけではなく、彼なりの理想像があるのだろう。
ただ息子のたかし側にしてみれば二次元の憧れが父親というのは消したい過去。しかもリアル側で憧れていた女の子がキヅケヤイ(=父親)のファン。彼曰く「業(カルマ)の袋小路」。たかしのツッコミとショックの行き場のなさが見ていて楽しい。
同時に、たかしが翼夜ルナとしての活動を深めてしまう流れは共感できる部分も多い。彼は「深夜のラーメン(美味しいけど体にヤバい)」と例え、女性Vチューバー化を背徳感の快感だと語る。
恥ずかしくてやりたくないというたかしだが、多くの人にちやほやされた承認欲求にどうしても抗えない。そして才能なのか血筋なのか、いやがっている動きをトラッキングするとツンデレっぽくてめちゃくちゃかわいい。
加えて、美人ながらも性格がおっさんくさい母親の存在も良いスパイスになっている。彼女もアイドル的承認欲求でこっそりVチューバーをやっているのだが、父親と真逆でやることなすことがガサツ。
この「雑な女の子むき出しスタイル」のVtuberは現実でも増えている。お酒を飲んだりぐちをこぼしたり、素の状態がエンタメになっているスタイルだ。
品を作って大人気の父親、性格もろ出しの母親、嫌がりつつも気になっているたかし。それぞれバラバラなVチューバースタイルが邂逅する時が訪れるのは、仮想の魅力を知った天国か、家族喧嘩の地獄か。
せっかくだから家族でこの世界に耽溺してトップを目指していく姿を見てみたい。見た目違えどどちらも家族、のはず。
©赤信号わたる/双葉社