2021.02.09

「生と死」の境を彷徨った男は、天高くそびえる「黑金の城」を目指す……鬼才コンビが紡ぐミステリアス・ジャーニー!『暗闇ダンス』須田剛一, 竹谷州史【おすすめ漫画】

『暗闇ダンス』

2021年2月18日にNintendo Switch版が発売となる『シルバー2425』というゲームをご存知でしょうか?

本作は初代PlayStation用ソフトとして1999年に発売された『シルバー事件』と、2005年に発売された続編『シルバー事件25区』という2作品のリメイク版がセットになったアドベンチャーゲームです。PC版、PlayStation4版の発売を経て、このたびNintendo Switchにも登場します。

シナリオを手掛けるのは須田剛一氏。本作以外にも『花と太陽と雨と』、『killer7』、『NO MORE HEROES』シリーズなどを手掛けてきたゲームディレクターで、彼の作品には不条理ながらクセになるストーリー展開や台詞まわし、唯一無二の世界観といった共通項が存在。ほかのゲームでは決して感じられない刺激が味わえることから世界中にカルト的なファンが存在します。

Nintendo Switch版『シルバー2425』のパッケージ版には初回購入特典として、そんな須田剛一氏が執筆した幻のシナリオをもとに、『やすらかモンスターズ』、『やきもんロワイヤル』などの漫画家・竹谷州史先生が描き下ろしたスペシャルコミック『赤と青と緑と』が同梱されます。

須田剛一氏 × 竹谷州史氏の初タッグ作品

前置きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介するのはそんな須田剛一氏と竹谷州史氏がはじめてタッグを組み、2015年から2016年にかけて「月刊コミックビーム」で連載された作品『暗闇ダンス』です。単行本は全2巻で完結しています。

物語の主人公は“波動市”にある葬儀社に勤務する青年「海道航(かいどう わたる)」。航はバイクで時速300kmを超えた先に見えるという景色に挑戦して大怪我を負い、長い眠りにつきます。3年後、目覚めた航が目にしたのは、人が消えてしまったように閑散としている、変わり果てた波動市。

それは山向こうの土地が特別自治区、通称「黑金の王国(くろがねのおうこく)」となり、ほとんどの住民がそちらに移住してしまったからなのでした。

自治区の中心には、先が見えないほどに天高くそびえる「黑金の城(くろがねのしろ)」。退院し、葬儀社に戻った航は、謎の棺桶を王国に届ける依頼を受け、霊柩車に乗って一路この城へと旅立ちます──目覚めてから自分にだけ見えるようになった“化け物”と共に。

その先はロードムービー的に王国のあちこちを巡ることになるのですが、行く先々で出会う人々は、その誰もが強烈な個性を持った人物ばかり。いきなり自殺してしまう“田中”や、なぜか裸の男、航を助ける見返りに求婚してくる女……。

噛み合ってるんだかいないんだか分からない会話の数々に、不意に挟まれるボケ&突っ込み。直前に人が死んだりしているにも関わらず、シリアスとおふざけの境界が曖昧なやりとりには、思わず脱力してしまいます。そう、須田剛一作品をプレイした方なら分かるであろう、あの癖になるテイストが、本作では漫画ならではのハイテンポな応酬によって繰り広げられていくのです。

“森島”、“スミオ”、“ホテルユニオン”といった複数の須田作品に共通して登場する固有名詞や、散りばめられた唐突なプロレスネタ(須田氏が大のプロレスファンなため)といった要素も健在。線が太く、明暗のハッキリした黒の使い方が印象的な作画も、須田ワールドが持つ魔力と相性抜群。読者を航たちの奇妙な旅路に没頭させてくれます。

フランツ・カフカの『城』を着想元にしたという本作。軽妙なノリでありながら、最後までどこに連れて行かれるのか分からないストーリーは、まさに「ミステリアス・ジャーニー」。それでいて、一度は生死の境を彷徨った航に投げかけられる「生と死」を巡っての問答などが、なんともいえない余韻を残します。

誰もがハマる……とは言い難いものの、ハマれた人は、引きずり込まれるような魅力を感じることができるはず。

そして本作が気に入った方は、須田氏が手掛けたゲーム作品にもぜひ触れてみてください。

この記事を書いた人

小林 白菜

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