2018.04.08

【まとめ】美味しいだけが食じゃない! まっすぐに攻めない料理マンガの世界

近年、「食マンガ」というジャンルで棚を作ったら、書店の棚2つは埋まるんじゃないかというくらい、「食べる」ことがテーマのマンガが数多く出版されている。

食べるものの種類もシチュエーションも豊富だ。

『高杉さん家のおべんとう』『新米姉妹のふたりごはん』のように人間関係の絆としての食が描かれることもあれば、

『山と食欲と私』『将棋めし』のように他の活動と食を組み合わせたもの

食そのものの快楽に強くベクトルを向ける『花のズボラ飯』『幸腹グラフィティ』

そして『味噌汁でカンパイ!』などの食材限定作品まで、あらゆる角度から食が描写され、数多くのバリエーションの作品が生まれている。

今回はその中でもあえて「なんでそこから攻めたのかな?」というような、正攻法ではない変わり種の食マンガを幾つかご紹介。

テーマは共食い

『人魚姫のごめんねごはん』

基本的に食マンガは「食物連鎖の頂点として、人間が何かを食べる」ことが描かれる。 しかし『人魚姫のごめんねごはん』は、人魚がお友達の魚介類を食べるという、言うなれば共食いが主題の作品だ。

人魚姫のエラ姫は、お友達である魚たちを深く愛して暮らしていた。しかし人間は残酷だ。海の仲間達を釣り上げ、きざんで料理にしてしまう。せめて友達を弔いたい。エラ姫は地上にあがって、友達が調理された姿を見に行くことにする。手をあわせていたところ、ちゃんと食べないと魚が成仏できねぇなと人間に言われ、友達の刺し身を口にすることに……。そこでエラ姫は、気づいてしまう。

「いいお味です」

あくまでも食べるのは魚なのでギャグテイストだが、昨日まで仲良くしていた友達に箸をつけざるを得ない、というのはゾッとするものがある。しかもおいしすぎて、いつしか友達が食べ物に見えてくる恐怖。 ついにはエラ姫は、恋した相手も食べてしまう

「食」を扱う際、自分も生物である限り、何者かに食べられる側にあるのだ、というのはいずれぶつかる壁。人魚をテーマにすることでうまく切り込んでいるが、食べるというのは殺すことだと突きつけられる。

なお魚料理のシーンは、極めてまっとうなグルメマンガなのでご安心を。エラ姫からみたら残虐シーンだろうけれども……。

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ファンタジー世界を食らう

『ダンジョン飯』

大人気作品『ダンジョン飯』は、ファンタジー世界での食べ物を考える作品。
ダンジョンにもぐるための荷物は極力減らしたい、深くもぐらねばいけない。なら行く先々でモンスターを捕まえて調理して食べればいいのでは? という発想だ。

戦士のライオスは、食に関してものすごい好奇心の持ち主。世界に住むあらゆる魔物を食べてみたい、と考えている。
一応は「ドラゴンに食われた妹を救うため」と言っているものの、あっちこっち寄り道しては、この魔物は食べられないかと思案するもんだから、パーティーメンツも渋い顔。

歩くキノコや、鳥型のコカトリスなんかはまだわかる。
しかし、動く鎧を食べようとする心理は全くわからない。あげく絵の中に描かれている食べ物も食えないかと考える始末で、そして実際に食べてしまう。
マルシル(エルフの女の子)がストッパーになっているものの、それでもなんでも食べたがるライオス。少々サイコパス。

また、ちゃんと世界観に沿って論理的に食材を調理する方法を描いているのが面白い。
動く鎧だって、動くからには生物なわけで。ならちゃんとそれなりの方法をとれば、毒さえなければ食べられるはず。

原始の人間は、食べられるかどうかわからないものにも、なんらかの知恵でチャレンジしてきたはずだ。その探究心があるから、現代人は様々な食を楽しめる。この重要な視点を、ファンタジーを舞台にすることでうまく切り取っている作品だ。

ナマコとかタコを初めて食べた人は、きっとライオスみたいなヤツだったんじゃないかな。

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『空挺ドラゴンズ』

『空挺ドラゴンズ』は、捕鯨ならぬ捕龍マンガ。大勢で空を飛び、龍に銛をうちこんで、解体して売り物にする。脳に内臓に骨に肉、全部使える。油は灯りにも食用にもなる。捨てる所なし。龍が地上に与える被害もおさえられて、一石二鳥だ。

龍の皮の脂を鉄板にひき、尾の付け根の肉に塩と胡椒をまぶし、両面を焼き上げてワインウォッカをひとたらし。これ絶対うまいでしょ……。

「食うまでは死ぬわけにはいかないんだよ。捕って、解体して、食う。それが龍捕(おろちとり)だ」

命をかけて、命を捕る狩人たちの物語。空を飛び回る豪快アクションが楽しい。
現実に海に出て海洋生物と戦ってきた人たちも、同じような戦いの歴史を歩んできているんだろうと思いを馳せてしまう。

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その他、異世界に飛ばされた少女が料理したことで文化が変わり経済問題が起きる『放課後のトラットリア』や、

そもそも調理の概念がなかったゲーム世界『ログ・ホライズン』のスピンオフ作品『にゃん太班長・幸せのレシピ』

異世界に現実の食べ物が現れたらのifを描く『異世界居酒屋「のぶ」』『異世界食堂』も面白い。

食と冒険をミックスした傑作、『トリコ』もあわせて読んでおきたい。

「普通」と違う食の価値観やギャップを描くことで、現実の食のあり方を見直すきっかけにもなる。

ゲテモノ料理の面白さとは一体?

『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』

ゲテモノ料理を食べることは、体験である。

普通食べないような、ちょっとヒくようなものばかり食べたがる美人女子高生、桐谷さん。
幼いころから、うさぎを抱きかかえて「おいしそう」と言ってしまう、好奇心の持ち主だ。今となっては、カエルを机に叩きつけてシメて食べたり、ブタのキンタマやオチンチンを調理したりと、立派に成長しました。おめでとう。

調理も基本自分で行う。豚の頭をまるごともらって、頭蓋骨を砕いて脳みそを取り出す女子高生。絵的には思いっきりホラーだ。

強烈なのは「オオグソクムシ」を食べる回。10から15cmの、見るからに巨大ダンゴムシな生き物に、生きたまま衣を付けて油であげる。いざ食べるとなると、さすがに桐谷さんですらプレッシャーで手がふるえる。もうこうなってくると、おいしいか否かというより、チャレンジに近い。

こんなに読んでいても飯テロにならない食マンガ珍しいんじゃないか。

食べることに対して自らが納得できるかどうかを描いた作品だ。

世界中のものは、口に入れることはできてしまう。だったら、未知の世界に挑んだ先人たちの気持ちをちゃんと知りたい。文字でわかったつもりになりたくない。これは科学者の発想と近いだろう。

このマンガが異常に説得力があるのは、作者が全部実食しているから。

例えば、大ヒット作品『君の膵臓をたべたい』から着想を得て、クジラの解体を見学し膵臓を食べに行く担当編集と作者の行動自体が、もう立派な冒険家だ。まるで雑食研究発表のように、実食の経験がマンガへ反映されている。

なお、踏み込んではいけない「毒」の領域にも踏み込んでいます。

美味しくないご飯だってあるんじゃないか

『鬱ごはん』

『鬱ごはん』グルメマンガのカウンターカルチャー的作品
就職浪人をしている独身男性・鬱野が、食を楽しめない様子を描いている。

「僕は調理過程でやたら食べ物に触る料理が嫌いだ。特にオニギリなんてデリカシーのカケラも無い物を人に出す神経が信じられない」

潔癖すぎるのでは、とは思うけど……ちょっとわかる。

賞味期限が切れたコーンスープ。どうにもならないのでトイレに捨てる。見た目が吐瀉物っぽいのはともかく、トイレから食べ物の匂いがするおぞましさは、尋常ならざるものだ。
ホットケーキを焼いている時にポツポツ出る気泡を見て、コモリガエルの背中の穴を思い出すシーンなんかは、もう想像力たくましすぎる。考えたことはあったけど、忘れようと必死になったよそれ! 思い出しちゃったじゃん!

食べ物は、周囲の環境と自意識でいくらでもまずくなる。本来の味と実際の感覚は、意外と関係ない。

「おいしさは人の心を救う」かもしれないが、「憂鬱は飯をまずくする」のもまた現実なのだ。

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『私のご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ』

『私のご飯がまずいのはお前が隣にいるからだ』も、食事の際のストレスを描いたマンガだ。

美味しいものが好きなのに、側に食通気取りがいるといかにマズくなるかを表現する。

蕎麦を食うぜ! と蕎麦屋に行ったら、通気取りのおっちゃんが言う。

「どっぷり浸すのはご法度だ、つけんのはほんの先っぽだけ、オレに言わせりゃ濃い店のつゆだったら3割だってつけすぎだ、半分以上も浸しちまった日にゃ蕎麦が土左衛門であの世逝きだ」

うるせえ!

もっとも通ぶってあれこれいうのも、食への愛ではある。なかなか触れづらい、繊細で難しい切り口の問題を、うまくふんわりまとめている。

お嬢さまから見たらコンビニは異界の宝箱

『コンビニお嬢さま』

普段我々が当たり前のように見ているコンビニエンスストアも、文化圏の違う人から見たら異世界だ。

『コンビニお嬢さま』は、コンビニでの買い食いに激しく憧れつつも、それをはしたないと叩き込まれたせいでなかなか足を運べなかったお嬢さまの、翠里(みどり)が主人公。

彼女が憧れているのは、コンビニで肉まんとかを買って、みんなで食べながら談笑する、というすごくありふれた生活。
でもそれができない。 ほっかむりをして変装しながらコンビニに潜入。悪の所業のごとく、こそこそと食材を買いあさる。

翠里がコンビニ食材を使って新たな料理を開発するのも楽しい。そのまま食べればいいのに! と思うんだけど、探求も含めて彼女の趣味だから仕方ない。

スナック菓子を買ってきてビニール袋に入れて、棒で叩いて砕く。「じゃがり子」にお湯を入れてペースト状にし、薄く伸ばしておでんを包む。スナック菓子を衣にしてオーブンできつね色になるまで焼く。食べる。

美味ですわー!

あっ、これ『Oh!MYコンブ』メソッドだ。

一回のチャレンジで組み合わせを色々試すので(上記のおでんだと、イカフライ、柿P、辛い系菓子をくだいたものなどを衣にしてまぶしている)、正直微妙なのもある。しかし、料理は実験から生まれるもの。

異文化であるコンビニで、今までにない組み合わせを試して味わう翠里お嬢さまの人生は、とても楽しそうだ。作中のコンビニグルメは、明らかにおいしそうなのもあれば、間違いなくヤバそうなのもあるので、どちらも試してみたいところ。

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究極。食べるシーンのない食マンガ

『極道めし』

今から約10年前に描かれた『極道めし』は、食マンガの究極系だ。

なんせ、食べてない

刑務所に入った男たちが、今までで一番美味しかった食べ物の話をして、一番美味しそうだった人が勝者、というエア食事マンガ

中島敦の小説『名人伝』には「不射之射」という言葉が出てくる。究極の弓とは、実際に弓矢を持たず放たないことだ、という境地にいたる名人の話だ。

『極道めし』の登場人物たちは、ご飯を食べたくて仕方ない欲望に満ちている。それを「不射之射」のごとく、「食べない」ことで極限まで食をおいしそうに描いた

これこそ名人芸。あるいは哲学かもしれない。



食べるということは人間の営みそのものだ。かなり多様な部分から切り込んだ作品が増えているが、それでもまだ切り口は多いはず。

直球においしそうな食マンガ、設定に驚かされる食マンガ、様々に「人間」が表現される次の作品を、今後も期待したい。

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