2021.06.08
【インタビュー】『魔入りました!入間くん』西修「最高にウルトラハッピーな物語にしたい」
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気の弱いただの人間、鈴木入間はひょんなことで魔界に売り飛ばされてしまった! 悪魔の学校に通うことになった彼は、果たして生き延びられるのか!?
主人公の鈴木入間
人間と悪魔の交流を描くドタバタコメディでありつつ、自分と誰かのために全力で頑張る入間くんの熱血青春ドラマでもあり、また様々な魔界の住民たちの群像劇でもある『魔入りました!入間くん』。現在NHK Eテレにてアニメ第2シリーズの全国放送中。人気が加速しっぱなしの作品だ。
第1巻 書影
絶対楽しいと安心して読める展開と、ワクワクさせてくれる緩急のある展開はどのように作られているのか。またキャラクターたちの誕生秘話について、作者の西修先生と週刊少年チャンピオンの担当編集さんにお話を伺った。
漫画を熟読しているファンはもちろん、アニメだけ見ているという人も、まだ読んだことの無かった方も、是非この記事を機会に『入間くん』ワールドの魅力を知っていただきたい。
TVアニメ『魔入りました!入間くん』第2シリーズのキービジュアル。 ©西修(秋田書店)/NHK・NEP
(取材・文:たまごまご/編集:八木光平)
「あれ、この漫画すごく規模が大きいものかもしれない」
──連載が始まった経緯を教えて下さい。
担当編集(以下、編集):はじめて先生と話をしたのは7年前ですよね。
西修先生(以下、西):そうですね。私、『吸血鬼すぐ死ぬ』という漫画がすごく好きで、チャンピオンを読んでいたんです。
当時は他誌でダークファンタジーの企画を練っていたんですけれども、暗い話を書いているとメンタルが暗くなるんですよ。気持ちが沈んできたので「明るい話を書きたい!」って思っていた時に担当さんと打ち合わせをして、いくつか出した案の中から一番楽しくできそうな「悪魔の学校に人間が入学する話」を編集さんに拾って頂いて、ふたりで話を広げていきました。
編集:僕は元々、先生が描いていた『ホテルヘルヘイム』の中にあるコミカルな感じが好きで、是非今のチャンピオンの誌面に明るくて迫力のあるファンタジーを描いてほしいと話したのが企画のスタートラインでしたね。
──実際に連載が始まってみたとき『入間くん』への反応はどうでしたか?
西:ハイファンタジーの作品が少なかったので連載陣の中では浮いてた気がします(笑)。でも誰もいない畑を耕すのは、いいことだと思うんです。
編集:いい意味で異質でしたね。少年誌には絶対ほしいジャンルの漫画でした。序盤のコミカルな展開でファンが増えていって、一巻のラストの展開で「あれ、この漫画すごく規模が大きいものかもしれない」と読者の反応が大きくなったのも印象に残っています。
──大河ドラマ的に話が広がるイメージは当初あったのでしょうか?
西:最初は一話完結の楽しい話を描きたい、というテンションだったんです。けれどもこつこつ積み上げていくうちに、枝ぶりがいいというか、横に広がるのが実感できてきましたね。
編集:3話でクララが出たじゃないですか、当時まだギャグ回でいいんじゃないかという意見も編集部内で上がったんですよ。
入間と同級生のウァラク・クララ
西:シリアス回が早いってことですか?
編集:そうです。ギャグをもっと続けたほうがいいんじゃないかというアドバイスでした。だけどこの漫画は、笑いもあるけど泣きもあるし熱いところもある、裾野の広い漫画だよということを早めにお見せしたほうがいいって思ったんです。
──西先生は一巻をどう組み立てようとしておられましたか?
西:とにかく入間という主人公を知ってもらうことを最優先に考えていました。
編集:アメリや問題児クラスのキャラクター設定は既にあって、「見せたいよね」という思いもありましたけれど、まずは入間くんを描こうという方針で溜めに溜めましたね。
小学生にも愛されている『入間くん』
──漫画を描き始めた時に、対象年齢は考えておられましたか?
西:中高生くらいに刺さったらいいなと思って作っていたんですけれども、アニメが始まってからは小学生の読者さんからの手紙がめっちゃ増えたんですよ。高学年も低学年の子もいます。一生懸命描いて頂いたクララの絵とか、すごくかわいい手紙が届いて嬉しいです。
編集:やはり少年誌として中高生の方がメインの年齢層となりますが、小学生の子も背伸びして見たくなっちゃうような漫画だろうなって思いますね。
西:中高生向けだとしたら、今どきの子はゲームやアニメで残虐なシーンを見ているわけで、『入間くん』の刺激がちょっと物足りない子もいるかもしれませんね。でも、そこにずかずか入っていく作品ではないなと思って描いています。小学生くらいの子たちも背伸びして読めるくらいの雰囲気が『入間くん』では丁度いいのかなって。
──確かに『入間くん』って誰かが死ぬ感じがあまりしないので、安心して読めるところはあります。
編集:ここだけは絶対ぶれない軸として先生が考えてらっしゃるのが、「最高にウルトラハッピーな物語にしたい」ってことですからね。
西:そうです。ハッピーなまま終えたいと常々思っています。
編集:恐怖もエンタメには必要なものですから、『入間くん』の世界からそれが全くなくなるということは無いと思います。でも「ウルトラハッピーな物語」にするという信念は、ぶれちゃいけない。
西:キャラクターの過激度や刺激度っていうのをこっちがコントロールするのもおかしな話かなと思うので、今後も何が起きるかはわかりません。でも「お前を全力で幸せにするぞ!」って作者としてひとりひとり真剣に向き合って描いているのが現状です。
──「死なないようにする」ではなく「ウルトラハッピーにする」という意識なんですね。
編集:その意志に基づいて描かれた結果、刺激的な物が溢れているご時世の中で『入間くん』がハートフルな作品として愛されているのが印象的です。真っ直ぐに王道を走っているように思いますし、今の時代だからこそ少年少女に読んでほしい作品ですね。
キャラクターの新しい一面を描く
──描いていて一番楽しいところはどこですか?
西:キャラクターの新しい一面を描く瞬間ですね。初めて出す表情だとか、初めて意外なことを言う瞬間は、早く読者の方に見せたいって気持ちが高ぶります。ギャップ大好き人間なので、読者が「このキャラがこんなことを言ってるぞ!」と盛り上がってると、作者冥利に尽きますね。
──序盤だとどういうシーンでしょうか?
西:アミィ・キリヲのストーリーは自分でもお気に入りですね。あそこは『入間くん』という作品の、一つのターニングポイントでもあります。明確な敵を作るというチャレンジは描いていて楽しかったですし、悪魔の恐ろしさが読者の方にもちゃんと伝わったんじゃないかなと思います。
先輩悪魔・アミィ・キリヲ
編集:「なんでキリヲはこんなことしているんだろう」という理由については、早く知ってほしいと思っていましたね。「■■■■■■■■■(ネタバレのため伏せ字)」って強烈に痺れるアンサーだなって。普通に考えたら信念や許せない過去が理由で動くはずですけれども。
西:キリヲに対して同情とか感情移入をさせる方法もあるんですけれども、「いや大丈夫、彼には感情移入しなくて大丈夫だから」って(笑)
編集:当時、師団披露編を掲載している時も「早くこの回の感想が見たい!」と思ってました。アニメでも「なんじゃこいつ!」っていう叫びが方々から聞こえてきて、痛快でしたね。
西:3巻までは、平穏に平穏に描いてましたから、びっくりしますよね。
編集:西先生は描き方として、キャラクターの芯の部分をすぐ見せるイメージがあります。アメリ会長とか。
西:即落ち2コマ状態でしたね。
生徒会長のアザゼル・アメリ
編集:初登場の次の回にはキューンって(笑)。アスモデウスも一話持たずに入間に忠誠を誓いますからね。そのキャラクターが持っている魅力や関係性、芯の部分をすぐに見せて読者に彼らを好きになってもらう構造が多いと思うんですけど、キリヲの場合はそれを溜めて溜めて、でしたね。
入間と同級生のアスモデウス・アリス
西:よく言ってたじゃないですか。ここで連載終わってもいいってくらいに盛り上げようって。
編集:そうですね、キリヲの話の4巻が最終巻のつもりで盛り上げましょうって話していたので、師団披露のクライマックスの回は二週間かけて執筆されていました。アニメ第1シリーズでも「キリヲとの決着は実質最終回のつもりで」と製作陣がよく話していましたね。
西:師団披露を終えたアニメ第1シリーズの終盤では、入間がアイドルになるんだけど(笑)。
編集:原作もキリヲの話が散々シリアスに描かれたから、「明るくてかわいい女の子の回見たいですよね」っていう打ち合わせがきっかけでしたね。
西:それで「アイドル物やりましょう」って。くろむ編は後味がいいシリーズですよね。
編集:アイドルのキャラを考えている時に、問題児クラスの中にちょうどいいクロケル・ケロリという子を見つけたので、西先生が「この子にしよう」って決めたんです。
──えっ、ケロリはアイドル設定ありきじゃなかったんですか!?
西:ありきじゃないんですよ。かわいいっていうイメージはありましたけど、ああなるとは…。思ったより自信たっぷりな強い子でしたね。
入間と同級生のクロケル・ケロリ
編集:先生と、キャラとの対話ですよね。何を考えているんだろう、どういうキャラなんだろう、とそのシーンがくるまで対話し続けている。
西:ネームを作る前から一応色々考えているんだけど、そのとおりになったことは全然ないです。描いてみて何を言うのか初めて分かる瞬間がたくさんあるし、自分でも「そうなるのか」って思いながら描いてます。
©西修/秋田書店
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